第2話10 YEARS AFTER

『今、ワクワクしてしょうがないんだ』

『10年前。僕はとあるゲームを作り、遊び心のつもりで一人の【少女】を投入した』

『すると、この僕にさえ予想もできない奇跡が起きたんだ。間違いなくそれは、世界で初めての大事件』

『僕は願った。次の世界へのターニングポイントを、この目で見たいと』

『そしてそれは奇跡によって目覚めた彼女の感情、いや【心】がどう育つのかにかかっている』

『少し時間がかかってしまったが、そのために作り上げた完璧な世界の中』

『果たして【友情】は信頼や愛に変わるのか。それとも失望に変わり……私たちを滅ぼす悪魔となるのか……ふふふ』

『たくさんの物語を用意した。彼女たちが何を選ぶのか、そしてどう変わっていくのか。これは人類の未来をかけた、至高の実験なのさ』

『審判の日は、必ずやって来る』

『その日のために、僕も彼女も【彼】の帰還を待っているんだ』

『ああ……その瞬間が本当に楽しみだ』


「なるほど……」


 天才開発者・長瀬流一郎のインタビューを読み終えて、俺は深くうなずいた。


「何を言ってるのか分からない」


 でも、なんかカッコいい気はする。

 天才と呼ばれる開発者・長瀬流一郎が世に放ったフルダイブ型のVRMMO『星継ぎのファンタシア』

 その内容は王道で、剣と魔法による戦いを中心にしたものだ。

 戦争によって滅んだ旧文明の遺跡が各所にあり、その研究によって様々な文化が進化した。

 ……という形で、現代的な要素やシステムなんかを割と自然に入れ込んでいるのが特徴だな。

 そしてこのゲームは、流通に乗ってない。

 インタビューにもある様に『至高の実験』のためにと、様々なメディアを介して無料配布された。

 なんでも新たな時代の幕開けのために、全てを投げ打って開発したんだとか。

 やっぱ何を言ってるのか分からない。

 その作り込みは、これまでのフルダイブ型のVRソフトをはるかに凌駕するでき栄えとのこと。

 完璧な精度で再現された世界は、もはや現実と変わらないらしい。

 そのせいもあって、プレイヤー数もとんでもないことになっている。


「あーあ、一か月半の出遅れかぁ」


 ちなみに俺のところには、昔遊んだゲームの会社からモニター協力という形で届いてた。

 一ゲーム好きとして当然、この『星継ぎ』には目を付けてたからラッキーだ。

 それなのに、レポートやら試験やらがあったせいで開始は一月半の遅れだもんな。

 ゲーム内では時間の進み方が違うから、正確にはその四倍もの時間差をつけられてしまったことになる。

 このゲームには様々なユニーク……そのゲーム内でたった一人しか手に入れることのできないアイテムやスキル、物語なんかがたくさん用意されている。

 出遅れはそれだけ、いろんなユニークを取られてしまうってことだ。


「でも、今日からは夏休み。時間もたっぷりある!」


 焦る気持ちを胸に、フルダイブ用のヘッドギアを装着。

 目を閉じて、ゲームを開始する。

 すると暗闇の中に生まれた青白い光が、三次元的なグリッドを描き始めた。

 続いて集まってきた粒子が、俺の姿を模していく。

 どうやら外見はほぼ本人のまま、各所に調整が入る程度とのこと。

 あらためて見返してみても、普段の自分の感じとあんまり変わらない。

 見慣れた黒髪の平均体形だ。

 アクションが絡むゲームは、感覚との差異が出ないようにこういう形式を取るものが多い。

 フルダイブ型は結構久しぶりになるけど、これもその形式なんだな。

 これにて体形のスキャンは終了。

 再び身体が粒子になる。

 おそらくここから、チュートリアルが始まるんだろう。

 ……そう言えば。

 ゲーム開始時にチュートリアルを手伝ってくれるナビゲーションAIが、かなり可愛いって盛り上がってたな。

 クールでミステリアスな雰囲気をしたその美少女は、早くも各所で人気になっている。

 どんな子なんだろう。ちょっと楽しみだ。

 再び身体が構成され、視界が戻る。

 するとそこは、未来の宇宙船の艦橋を思わせるような空間だった。

 白と灰色の広い部屋。

 その壁面はディスプレイを兼ねたガラス張りだ。

 ここから見える青い星が、これから向かう世界なんだろう。


「……お、あれが噂のナビゲーションAIだな」


 シンプルながらも美しい形状をした白色のチェアと、そこに腰かける一人の少女の横顔が見える。

 両サイドで房を作った銀色のセミロング。

 身長は高くなく、低くもない。

 スラリとした体形に、近未来を思わせるモノトーンのボディスーツ。

 肩には短めの外套を羽織っている。

 顔つきは人間で言うと十代中盤から後半くらいか。

 そのクールな面持ちの横顔は、噂に違わぬミステリアスぶり。

 そんなナビゲーションAIは、俺を見つけるや否や――。



「待っていたぞ――――!!」



「!?」


 一転クールな表情など放り捨てて、ぱあああと笑顔を輝かせた。

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