Hey,Ruri!~感情の芽生えたAI少女は、とにかく俺と一緒に遊びたいようです~
りんた
第1話Feeling Heart
「うわああああああああ――――ッ!!」
森の中を、おれは全力で駆け抜けて行く。
後から猛烈な勢いで追って来るのは、巨大なイノシシの化物だ。
その迫力ときたら、マジで半端ない!
だからとにかく逃げて、逃げて、逃げるまくる!
そんなおれに無表情でついてくるのは、銀色の髪をした同い年くらいの女の子。
おれたちはそのまま、大きな木の陰に身を潜める。
「はあっはあっはあっ。なんだよあれ、めちゃくちゃ怖いじゃないか!」
おれたちの姿を見失ったのか、イノシシの化物は辺りをキョロキョロしてる。
「このままじゃ、見つかるのも時間の問題だな」
しかも不運はそれだけじゃない。
「足はあいつの方が早いし、とてもじゃないけど戦って勝てる相手じゃない。これは……最悪の状況だぞ」
まさに、絶体絶命のピンチだ。
「わたしは止めたぞ。それなのにキミが大物を見よう見ようと言うから」
それだってのに、女の子にはまるで慌てる様子がない。
子供らしからぬ涼しげな目で、淡々とそう言った。
「せっかくだから、迫力のあるヤツを間近で見たかったんだよ」
まあ、その結果がこれなんだけど。
イノシシの化物。オークキングとかいう二足歩行の魔物は少しずつ、でも確実に近づいてくる。
間違いない。もう全滅は避けられない。
「……こうなったら仕方ないな」
おれは覚悟を決めて、女の子に向き直る。
「――――おれが、アイツを引き留める」
「引き留める? それは一体どういうことだい?」
「だからその間に……お前だけでも逃げてくれ」
女の子の目を真っすぐ見ながら、おれは決意を伝える。
「逃げればいいのか?」
「おい。そこは『そんな! 一人で行くなんて無理だ!』とか、『君を置いてなんて行けない!』とか言ってくれよ」
熱く抗議するが、女の子は変わらず無感情な瞳でおれを見つめてる。
「さては本当に分かってないな? いいか、この最大のピンチにおれは、命を賭けてアイツに特攻するんだ」
「そうなのか」
「これが最高にカッコイイんだ!」
「そうなのか?」
「もちろんだ、命を賭けて守るんだよ――――友だちを」
「…………友だち」
するとなぜか不意に、女の子は目をぱちくりとさせた。
「わたしはキミと……友だちなのか?」
「ここまで一緒にやってきたんだ、当然だろ?」
今日出会ったばかりとか、そんなのは関係ない。
「そうか。わたしたちは友だちなのか。友だちは……初めてだ」
なぜか、ちょっとだけ戸惑っているようにする少女。
それは出会ってからずっと淡々とし続けていた女の子が、初めて見せる表情だった。
「とにかく。おれがあいつを引き付けるから、その間に逃げるんだ」
「……分かった」
そう言って女の子は、真剣な目つきでおれを見る。
いいぞいいぞ、一気に雰囲気が出てきたじゃないか!
「まずは一度おれを引き止めてくれ。その後に制止を振り切って一人で特攻を仕掛けるから、おれの名前を叫んで逃げるんだ」
「……君の名前は?」
「翔太郎だ」
「了解した」
作戦が決まると同時に、聞こえてくる荒々しい足音。
オークキングはいよいよ、目と鼻の先まで迫っていた。
おれはここで、もう一度頭から仕切り直す。
「どうやら、ここまでのようだな」
「ああ。一体どうすればいいんだ……」
「こうなったら仕方ない……お前だけでも逃げてくれ」
「そんな、君を置いて行くなんてできない」
「あいつは、おれが引き受ける」
「一人では無理だ」
「なに、すぐに追いつくさ。だから……」
女の子の肩をトンと押して、ほほ笑みかける。
「ここはおれに任せて、先に行けぇぇぇぇ!」
「待て! 待ってくれ!」
制止する女の子を振り切って、おれはオークキングへ向けて真っすぐに走り出す。
「翔太郎ー!」
聞こえてきたのは、無感情なあの子にしてはがんばった大きな声。
なんだ、そんな声も出せるんじゃないか。
身代わりになったかいがあったぜ。
あとは無事、逃げ切ってくれよな!
「さあオークキングさんよ、お前には地獄まで付き合ってもらうぜえ……っ!」
手に持った槍斧を掲げ、咆哮をあげるオークキング。
おれは勢いのままその懐に飛び込んで…………大爆発を巻き起こす!
巨大な魔物を道ずれにしてあがる爆炎の中、倒れた身体が粒子になって消えていく。
おれは女の子の無事を祈りながら、ゆっくりと目を閉じた。
――――そして。
気がつくと、そこは始まりの街の前だった。
これが『死んだ』キャラクターの復活するシステム。リスポーンってやつだ。
「な? 最高だっただろ?」
戻ってきた女の子に声をかける。
「と、突然爆発したぞ!? 一体どういうことだ!?」
驚きを見せる少女に、おれはインベントリからアイテムを取り出してみせる。
「へへ……こいつだ」
「採掘イベント用のダイナマイト? たしかにエフェクトは派手だけど、ほとんどダメージにはならないはずだが」
「そこなんだよなぁ。こんなめちゃくちゃな遊び方もできたら、もっと面白いんだけどな。おれが死んだのは普通にオークキングの攻撃だよ」
「なるほど……ダイナマイトを巻き付けて敵に特攻って、翔太郎は面白いことをするなぁ」
女の子は感心したように言う。
「友だちのために命をかけて、一撃食らわせてやった感じが出てたんじゃないか?」
「確かにそうだな」
「でも何より、最っ高にカッコよかっただろ?」
「……ボスを見に行こうと言い出したのは翔太郎なのだから、完全に自作自演だと思うぞ」
少女は少し呆れたようにそう言ってから、不意に表情を緩めた。
「けど」
そして、笑う。
「すごく……カッコ良かった気がする!」
「へへ、そうだろ? やっぱ友だちのためってのがいいんだよな」
「ああ、その通りだな!」
女の子はハッキリとうなずいた。
この子がこんなに感情を見せるのは初めてだ。
「だが、あんなマネをするのは翔太郎だけだろう」
「まあそうだろうなぁ。おれの域に達するにはかなりの勉強が必要なんだ」
「なぜそんなに誇らしげなのかは分からないが……それならわたしも学んでみよう。いつか……その真髄を理解できるだろうか」
「ああ、できるさ。何か感動的なことを言い残して走り出すと、さらに盛り上がるぞ」
師匠気分でそう言ったおれは、グッと親指を上げてみせた。そして。
「……ん」
差し込んできた夕日に、思わず目を細める。
「もう、終わりの時間かぁ」
どこまでも広がる草原。遠く見える山並み。
始まりの街の前で二人、大きな夕景を見上げながらつぶやく。
「あーあ、もっと遊びたかったなぁ」
思わずもれる、深いため息。
「おれ本当はまだ、フルダイブのVRゲームはやっちゃダメって言われてるんだよ」
「そうなのか?」
「でも今日偶然父さんのヘッドギアを見つけてさ、こっそり始めてみたんだ。それがちょうどサービス終了日に当たるなんてなぁ……」
まったく残念だ。
「……なあ」
「なんだい翔太郎」
「絶対また、一緒に遊ぼうな」
「ああ、そうだな。それならその時までにいろいろ勉強しておくことにしよう」
「よーし、その時は一緒に世界中を駆け回ろうぜ! 遊んで遊んで、遊び尽くすんだ! 約束だぞ!」
吹き抜けていく風が、女の子の銀髪を、果てなく続く草原を揺らしていく。
「ああ! ――――やくそくだ!」
終わっていく世界で、おれたちはそんな約束をした。
『エイティーン』
そんな、変わった名前をした女の子。
楽しそうに笑う彼女の目がキラキラと輝いていたのが、すごく印象的だった。
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