第14話 過去から未来へ
「オトウサン!?え…なんで?」
「俺が聞きたいくらいだ。なんで俺の親父がそんなシステム作ってんだ。そしてそれをなんでアンタが持ってる。」
「そうか…君は何も知らされずに彼と別れたのか…」
「何してるのかすら教えてもらえなかったからな。そんな事知らされるわけがない。」
「ほ、本当に血が繋がってます?」
心配そうな目でこっちを見てくる。なんだよ、別にもう気にしちゃいねぇよ。
「私生活では普通の父親だったよ。ただ仕事に関する情報は一切教えてくれなかった。」
普通の家族で普通の生活を送って普通にいつまでも続くと思っていた、あの時までは。
「その当時はなんて思ってたんです?自分なら酷いって思っちゃいますけど…」
「んー、悲しいとは思ったけど酷いとは思わなかったな。俺がその立場だったら同じことしてるだろうし。」
俺もミランシウムの研究で死にものぐるいで逃げ出してきたんだ、父親の行動は少し理解できる。
でも、残された時はやっぱ悲しかったよなぁ…
「そうさせるまでになったシステムってやっぱ危険なものなんでしょうか…」
「あぁ、危険だよ。ただ、危険なのに恐ろしい程の魅力を感じる。」
「その魅力を感じたやつらに追われて親父は消えたってことか。」
「そうなんだが、1つ勘違いしないでほしいことがある。君のお父さんはこのシステムを人類の新たな進化へ繋がると思って作ったんだ。悪用する為に作ってはいない。」
「まあ、そうだろうな。そんなことしそうな人でもなかったしな。そんで?俺の質問にはまだ答えてないぜ。」
内心ホッとしたがそんな事より自分の父親が作ったシステムが気になってしょうがない。
「そう急かすな。君のお父さんと私が出会ったのは22年前、ダストシティで命からがら逃げ出してきた二人の男がいた。」
「22年前…生まれてないっすね!」
そんなに若かったのか…
指で年を数えるイリスを横目に話を続ける。
「7歳の時だ…失踪してすぐにダストシティに来たって事だな。」
「二人の男の名は、ジャロジーとクリセンサム。クリセンサムの方は既に死にかけていてジャロジーは彼を背負っていた。」
死にかけてたのか。もう1人の方は名前すら聞いたことがない…いったい誰なんだ?
「ダストシティにちゃんと機能する病院はなかったが医療技術の経験のある者をなんとか集めた。」
「ここまで連れてきたんすか?」
「そんな事をすれば死ぬだろう、それほど弱っていたんだ。だが、なんの器具も場所も揃えてないここではどの道死ぬ事には変わりなかった。」
「そうか…苦しかっただろうな。」
「死ぬまでの間、といっても死ぬ時を知っていた訳ではないが…彼らは、どんな研究をして何故追われてのかを話してくれた。」
〜22年前〜
仮設病院内で一通りの治療は終えた。
治療と言っても止血程度しかできず、持って数日の命だった。
それでも彼らは私達の行動に感謝をし、心を開き、色々なことを話してくれた。
「私達はルヴトーで機械による人間の進化の研究をしていました。」
「ほう、人類の進化ですか。」
「そう、この人の作ったシステムがまー凄くてよ。それでここまで追われちまった訳だが…」
ジャロジーはクリセンサムの助手で、逃げる時も黙って着いてくるほど彼への忠誠心があった。
まるで我が事のようにクリセンサムの研究を話してくれた。
「具体的にはどんな技術を?」
「他言はなしだぜ。なんと不老技術とAIリンクだ!」
「聞くからに凄そうですが…」
「AIリンクの方はクリセンサムさんが燃やしちまったけどな。」
研究をすれば追われることも予想出来ていたので彼らは紙などにデータや仮説などを書き込み、いざとなったら燃やせるようにしていたらしい。
「もともとは人を助けるために考えたものです。それを悪事に利用されるなら無くなった方がいい。」
「では、不老技術の方は…」
「一応あります。これはジャロジーに預けようと思います。彼には色々とゴホッゴホッ!うぅ…」
「そんなに喋ったら傷が広がりますよ。ジャロジーさん水を取ってきてください。」
「あ、ああ。」
ジャロジーはタライを持ち外へ出ていくとクリセンサムはゆっくりと起き上がりこちらを向き
「やっと2人きりになれた。」
と言った。
「え?」
「あなたに渡しておきたいものがあるんです。」
そう言い彼は自分の荷物から1つのノートを取り出し、私に差し出してきた。
「これは…」
「AIリンクについて書かれたノートです。これは、これだけはルヴトーの手に渡ってはいけない…!」
「じゃあ尚更そんなもの…私の手に渡ってはいけないじゃないですか。」
「あなただから頼んだのです。ルヴトーに消され人の痛みを分かったあなた達だからこそ…この技術を使いルヴトーを打ち倒す資格がある。」
「そんな…ルヴトーに逆らう気などありません。」
「私は知っています。何故あなた達が隠れて生活しているのか、ルヴトーを倒すために王家側と手を組んでいるのか…!」
彼は弱く震えた手を強く両手で握り訴えかけた。細かい震えが手を伝い、彼の目から涙が頬を伝っている。
「…!」
「使わなくてもいい、ただこれを最後の手段として持っていてくれないだろうか。」
「そこまで言うのなら預かりましょう。来るべき反撃の時まで。」
「水です…ってクリセンサムさん起きちゃダメっすよ!ヴァレンさんも止めてください!」
戻ってきたジャロジーが急いでクリセンサムに近づく。クリセンサムは彼に支えられながらゆっくりとベットに横になった。
「あぁ、すまない。」
「ヴァレンさん、ジャロジー。ありがとう。」
それは看病してくれてありがとうなのか、受け取ってくれてありがとうなのかは分からない。だが、彼から発せられた言葉や涙には彼の本当の意思が込められていたと思っている。
「?まぁ、安静にしといてください。感謝なんて治った後から沢山聞きますから。」
〜現在〜
「その2日後にクリセンサムは息を引き取った。」
「ジャロジーって人は?」
「不老技術を持って去っていったよ。とても悲しい顔をしてね。」
「会えないのか?」
「行先も伝えないで別れたし、彼の方から会うことも無い。彼は死ぬまで技術を守り抜くと決めていたからな。」
相当自分の父親のことを尊敬していたんだろうな、きっと本人だったらそうして欲しいと思っているであろうことをちゃんと守ってくれている。
「できるなら話してみたかったな。それで、そのAIリンクについて書かれたノートはどこだ?」
「ここだ。」
ピピピピ ガコン ウィィィン
ヴァレンは壁に埋め込まれた金庫を開ける。
するとそこにはアタッシュケースが入っておりそれを取り出した。
カチッカチッピポパピ ガチャリ
アタッシュケースが開くとそこにはノートが1冊、こんな厳重に保管されているのがノート1冊だけで逆に不気味だ。
「これはまた厳重に保管されているんだな。ノート1つにどんな事が書かれているのか。」
ノートを見ると確かに父親の筆跡でAIの技術について書かれている。
AIリンクの仕方、制御方法、リスク等
専門的なことは分からないが、そんな俺でも何とか理解できるような書き方をしている。
もしかしたら、自分の父親はもともと第三者にこのノートを渡すつもりで書いていたのではないだろうか。
「凄いっすね…何となくですけど仕組みが分かったような気がします…」
「でも…このシステムを作るってことは…1人…」
「あーそれ俺も気になった。誰が死ぬことになるんだ?」
ノートに記されてあるAIリンクの仕方の序盤、赤い丸で「このリンク技術では誰かが必ず死ななければならない」とデカデカと囲まれている。
なんだこれ、危険所じゃねぇじゃねぇか。
いったいヴァレンは誰を犠牲にするつもりなんだ?
「その事についてなんだが…プリュマー君。もう一度言おう。」
おい、まさか…コイツ…!
「プリュマー君、死んでみないかい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます