第11話 ヴァレンの提案

「思ったより駅の面影はあるんだな。」


駅の中に入る。

ゴミ捨て場前やパスティーシュの街並とは違う、面影が残っている綺麗な廃墟だ。


「普段から地下だけだが使ってはいるからな、ガラスとかも直そうとしたが怪しまれそうだったから止めた。」


電源のついていないエレベーターを降り、いよいよ本部への入口に到着する。


「さすがに本部の入口だけあって厳重だな。」


分厚い鉄の扉、その横にパスコードと何かの認証画面がある。

言っちゃ悪いが廃墟には似合ってないな。


「あれ?前来た時は警備がいたはずなんですが…」


「おぉ!ヒステリックモードから戻ったのか、早かったな。」

後ろから着いてきてたのは分かっていたが、ついさっきまでキレていたこともあり話しかけるのを躊躇っていたからな。


「ヒステリックモードって…そりゃあずっと騙されてればそんな反応になりますって…」


「はは、悪い悪い。確かに見張りとかいそうな雰囲気だが、扉がこんなに頑丈そうだから案外必要ないのか?」


「見張りはちゃんと今もこっちを監視しているぞ。どこかは言わないが、無関係の者が侵入しようとすれば止めに入ってくる。」

ヴァレンはパスコードを打ち、認証画面の前に立ち顔を近づけた。

よく見ると認証画面にはカメラが付いてあり目に照準を合わせている。


「へぇ、虹彩認証か。」


「よく分かったな。普通は顔認証だと思われると思ったんだが。」


「俺が居た研究所も虹彩認証を採用している部屋が存在したから何となく分かるぜ。」


「全然知らない単語っすね。こうさいってなんですか?」


「虹彩っていうのは分かりやすく言えば目の黒い部分の色だ。人によって違うし歳をとっても変わることは無いからそれで本人かどうかを判断する。でも安心しろ、『外』でも採用するのは滅多にないから覚えてる必要は無い。」


ガチャリ


「さぁ、開いたぞ。」

重い扉がゆっくりと開く。


いよいよだ…!一体何が出てくる?


「これは…!」


「すげぇ…なんじゃこりゃ…!」


沢山の見たことの無いような機械が設置されあり奥にはパソコンと大きな2つのディスプレイがあった。


しかし、俺達の目を最初に奪ったのは沢山の機械ではなかった。


とても大きなミランシウム、そしてその周りに一つ一つ丁寧に保管されている小さなミランシウムが沢山置かれている。


凄い、綺麗


シンプルだが、それくらいミランシウム独自の輝きが強く、目が吸い込まれそうになる。


「驚いたか?ようこそ、本部へ。いや、研究所と言った方がいいのか。」

ヴァレンは奥にある椅子に座った。



〜パスティーシュ駅地下・本部〜


「それで、何から話せばいいのか…何かこれだけは最初に聞きたいっていう要望はあるか?」


「無い!どうせ全部聞くつもりだから順番に話していい。」


「『外』に出られる確証が得られるなら別になんでも…」


「OK、じゃあ私達の目的から話そう。」


「私達は長年、長年と言っても100年も満たないがこの場所でミランシウムの研究とアストラルシティの復興を考えてきた。」


100年も…親子2世代、もしかしたら3世代で考えてきたのか。


「最初は…父親の代だが、話し合いや取り引きをルヴトーに持ち掛けていた。最初は取引相手が良かったのか上手く話が進んだのだが…とある日を境にその取引相手がぱったり来なくなった。」


てっきりずっといがみ合っていたのかと思ってたが意外だな。しかも良好な関係だったというのが驚きだ。


「とある日を境に?」


「その日は後で知ったんだが、ルヴトーが軍事企業としての進路を固めた日らしい。つまり今のルヴトーが出来上がった日なのだ。」


「あのー…ルヴトーってもともと軍事企業じゃなかったんですか?そもそも国の仕組みとか分からなくて…」

何も知らないイリスがオロオロと手を挙げ質問する。


「ルヴトーはもともと運送企業だ。惑星を治めていた王家と手を組みルヴトーの政治を行っていたんだがな…平和的な考えを持つ王家に不満を持ち彼らを切り捨てた。」


「へぇ、初めて聞く話だな。今も王家と手を組んで楽しくやってるのをよくニュースで見てたが嘘だったんだな。」


国が主体の式典などに必ず王家が参加したり晩餐会にルヴトーの役員が出てるというニュースをちょくちょく見てたんだがそんな事になっているとは気づきもしなかったな。

おそらく国民の大半も気づいてないだろう。


「表面上だけだ。手を組んだという形だけが残り、それで国民も騙せているのだから一石二鳥なのだろう。」


「突如取り引きが出来なくなった当初、私達は何とかして話が出来ないかルヴトーに便りを送ったが…規制は厳しくなる一方だった。」


ヴァレンはいろいろな方法でルヴトーと連絡を取ろうとしたことを語った。土地や金にも興味を示さず一方的に要求を増やされることに対して徐々に不安が恐怖に、そして恐怖が怒りに変わったと。

そう語る目はどこか哀しく、どこを見ているのか分からないほど暗い。


「そこからだ。そこから私達は反撃をすることを決意した。勝負は一発きり、一発で全てを決めるため、悟られぬように地道に地道に準備を重ねてきた。」


「なんで一発なんですか?」


「一発こちらから攻め込めんでもし、仮にもし失敗したとしたら…どうなると思う?」


「どうって…新しい攻め方考えないとなーってことですか?」


「それはこちら側の考えだな。では、向こうの考えはどうだろう。」


「んー…あぁ、そういう事か!向こうは次同じことが起きないように対策をするってことですね。」


「その通り、しかもただの対策ではない。再発防止のためにダストシティに監視を置かせる可能性もあれば、ダストシティの人間全てを抹消する可能性もある。」


監視されるならマシになると思うかもしれないがここはダストシティだ。法の目が届かないところで法を守る人間などいない、どんな酷いことが起きるかわかったもんじゃない。


「そんな危険があるのにやろうとしてるって事はよほどの自信があるんだよな?老い先長くないから思い出作りのためにやりますとかいうクソしょうもない理由だったら絞め落とすぞ。」


「完璧とまでは言わないが、自信はある。それにいつルヴトーがこちら側の監視を強めるか分からないから早めに決着をつけたい。正直今も結構キツい。」



「そうか…それで作戦って何をやるんだ?どうやって戦う?俺には到底人数が足りないと思うんだが…」

えーっとメンバーは?

俺、俺より弱いBARの店員、老人、ダストシティの住人。

うん、無理だね。老人に関しては戦力として数えらんねぇもん。

「安心しろ、私達は元からそこの問題の解決に取り組んでいた。」


「へぇ、一体どうするつもりなのやら。」


ハンっと鼻で笑っていたらヴァレンは予想外の提案をしてきた。

「ミランシウムを使う。」


「…!正気で言ってんのか!?」


ありえない、それがどういう危険性を生むのか分からないわけがない筈だ。

それともアストラルシティの時から何も学習していないのか…


「そのために君を呼んだんだし、君はここへ来た。」


「…言っとくが俺は消極的だぞ。」


「ふふ、まだ日は長い。ゆっくりとミランシウムについて語ろうじゃないか。」

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