第10話 執着心
〜BARカウンターの裏にて〜
「待って、意味が分からない。なんで、いきなり、死ぬ、話、お分かり?」
会話の脈絡もなしにいきなり死ねなんて言われたので気が狂ったのかと思った。
ま、事実狂ってるとしか言いようがないけどな。
「ははは、ただの冗談ですよ。ただ手を貸して欲しいという所は冗談ではない。君にしかお願いできないことだからね。」
「俺にしか…?俺にしかできないことってなんなんだ一体。」
「心当たりはあるだろう。君が私を探していた理由と同じだよ。」
「あ!あぁ〜!ってことはアンタ、やっぱりミランシウム金属を集めてたんだな。一体何のために?」
本名とかいきなり言われて動揺してたが、本来の目的はミランシウムの回収だ。
「話次第じゃ、アンタが何を企んでようが俺はアンタを止めるぜ。」
「その様子だとミランシウムの危険性については知っているんだな。」
「!…。」
知っているも何も…
そう言いかけたが、言葉を飲み込んだ。
もしかしたら自分より詳しいのかもしれない。なにせアストラルシティの市長の息子だ。
だから気になる。
「安心しろ。もうミランシウムを取り出すことは無い。アストラルシティが無くなった時から私達は回収をしていたのだ。」
「そうか…それで?どうやって使うかは言ってないよな?」
「…。場所をかえよう。ここの近くに私達の本部がある。」
「本部…?」
また新しい場所が出てきたな。あんなに人気が無かったのに地下には色々存在する、まるでアリの巣だ。
「そこに君のお目当てのミランシウムがある。よし、ユイドも一緒に来い。今日は店じまいだ…ってあれ?ユイドは…?」
逆に今まで気づいてなかったのか…
「あー、今酔って寝てるぜ。」
〜そうか、あの少年が。」
「そう、それで怪しかったから…ほら。」
イリス達の部屋のドアを開ける。
とりあえず今までの事は全部話した。
どうやってここまで辿り着き、なんでユイドが寝てもらっているかなど話したが、ヴァレンは特に驚く素振りも見せず余裕ある表情で聞いていた。
「あ、おかえりなさい…って、あー!このおじいさんです!おれに!石渡せって言ってきたの!」
扉を開けるとイリスは出迎えてくれたが、後ろにいたヴァレンがいたことにひどく驚いていた。
「わーってる、そんなことくらい。そんで…そこにいるぜ、ほら。」
軽くあしらい、ヴァレンにユイドを見せる。
ちなみにヴァレンはユイドを拷問したと聞いた時に
「ん?あぁ!ユイド…本当に雑巾みたいになってたんだな!」
なんでそんな楽しそうな声を上げるんだ、この老人は。
倒れ込んでいたユイドがこちらに顔を向ける。
「うぇあ…ボ…ボス?」
2人のテンションの差が酷いな。それに、コイツ今ボスって言わなかったか?
「見ない間にこっぴどくやられたな。さ、いつまでも寝てないで本部に戻るぞ。」
「なぁ、ボスってなんだ?お前ら、なんか上下関係あったのか。」
「そこら辺もゆっくり本部で話そう。まだ時間はある。」
「ボ…ボス!そいつは…危険です…!私は…その男に殺され…かけた…!」
「ユイドは心配症だな。大丈夫、彼は私がよく言っていたプリュマーという男だ。」
「…!こんな…こんなヤツが…!」
こんなってなんだよ。
ユイドにちょっかいを出そうと思ったが、ヴァレンに静止された。
「アホなことをしてないで行くぞ。」
〜パスティーシュ駅跡〜
ヴァレンに連れられて来た。
街の真ん中にある大きな駅の跡だがこれといって何もなさそうな廃墟になっている。
だが、俺には分かる。
同じパターンだ、どうせ地下に何か作ってるんだろう。
「また、地下か。」
「お、よく分かったな。勘ってやつか?」
「そんなもんだ。でも、なんで地下に作る?別に地上でも構わないだろ。」
「『外』に知られたくないからさ。それじゃ、入るぞ。」
「ちょ!ちょっと待ってください!」
ヴァレンはゆっくり駅の中に入ろうとするとユイドを背負っていたイリスが静止をした。
「ん?どうした?」
「どうしたじゃないですよ!?ここはカジノの入口ですよ!?」
「まーた始まったよ間違った知識披露大会。ファッションの次はなんだ?カジノと何を間違えた?」
「いや…ここはカジノってユイドさんにも言われましたし…門前払いを受けました…」
「ああ!ユイド達が言ってた『本部をウロチョロしている輩』って君の事だったのか。そうかそうか…それなら私の部下が口裏合わせた嘘だと思うよ。」
「えぇ…」
「嘘とはいっても簡単に見破られる嘘ではない。時間をかけ君を騙したんだろう。なに、恥じることは無い。『外』への異常なあこがれが君を盲目にしたんだ、見破られる事など不可能だろ?」
イリスは流石に言葉を失っている。
これに関してはイリスは完全に被害者だな、同情するぜ。
「それで…外へ…外へは出られん…ですか?」
大した奴だ。手のひらで踊らされ、踊らした張本人が目の前にいるのにまだ『外』への憧れを口にする。
思いが強いのか、自暴自棄になったか。
俺は前者に賭けるな。
「やはり君は初めて会った時から『外』への執着が凄かった。君にミランシウム及び金属の回収を任せたのは正解だったな、よく3年間も集められたものだ。」
「そんなことはどうでもいいんだよ…!出られるのかって聞いてるんだ!」
唐突にキレだすよな、ヒステリックかよ。
蚊帳の外だったから言わなかったが内心そんなことを思っていた。
「無理だな。」
おいおいおいおい、嘘だろ…
冗談でもそんなこと言ったら…
「…殺す。」
ほれ見たことか!
イリスは担いでいたユイドを離してヴァレンに飛びかかっていく。
止めなきゃまずいな…
「ちょっちょっと待った!」
「なんで邪魔をするんです!これはこっちの問題なんだ、引っ込んでろ!」
凄まじい気迫だ。相当頭に血が上ってるのか意外と楽に抑え込むことが出来ている。
「そうは言われても俺はこのジイさんに用があるんだよ。それに、ジイさんも下らない嘘ついてんじゃねぇよ。」
「いやぁ?私は馬鹿正直に意見を申しただけだ。」
「やっぱりテメェ…!」
イリスの手に力が更に入る。
当然止めている俺の手にも力が伝わっt痛てててててててててて
「痛ってぇ!マジでいい加減にしろよどっちも!無理だって言うなら無理の説明くらいー
「君一人では無理だという話だ。」
またこのジジイ人の話ぶった切ってきやがった。
「何?」
イリスの手が緩まる。良いぞジジイ、その調子だ。
「ルヴトーの監視が強まっている今、君のような人間がどれだけ頑張っても『外』の技術には敵わない。」
厳しい話だがこれが現実というやつだ。
俺に『外』の出方を話していた時、イリスは出るまでの手段しか考えていなかった。強引にゴミ捨て場の壁を登るなど、無限にある『外』へ近づくプロセスから比較的簡単な方法を見つけただけ…
それだけでも俺は大したものだと思うけどな。
「じゃあどうしろってんだよ…」
イリスは情けない声を上げる。
行き場のない怒りをどこに…行場の…ない…行場は完全にこのジジイじゃねぇか
「私が君を導こう。近々、私達は『外』への侵攻を開始する。」
「そしてアストラルシティを取り戻し、君が憧れる『外』への出入りを自由にさせてやろう。」
「そっちの方が出られる確率少なくね?ヤッべ…あぁ、すまん。言葉に出すつもりは無かった、忘れてくれ。」
口が滑った
ヤバいな、色んなヘイトがこっちに向かってきそうな気がする。
でも事実そうじゃん、許してや。
「それは君もまだ何も知らないからだ。どれ、こんな所で会話してても答えは出まい。入るぞ。」
ヴァレンは話を打ち切り、俺達は駅の中に入っていった。
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