第9話 出会い(現在)

「いやー、マジで気が狂ったと思いましたよ。」


「そうだな、俺はアンタが騙されやすい性格してんなと思ったけどな。」


「はははは、そんなにっすか?それにしても、本当に『外』に繋がってる人間とは思いませんでした。3年も会話していたのに。」

イリスは目線を後ろに向ける。そこにはボロ雑巾みたいに蹲るユイドの姿があった。


「さて、『外』に出る方法までは分かった。そんな

抜け道があるなんて知らなかったからマジで感謝してるよ。だけどまだ拷問は終わっちゃいない。」


「へ?終わってないんすか?」


「ここからは俺個人の問題だ。」


ユイドのそばに近づく。サングラスは落ちて敵意むき出しの目がこちらを睨んでくる。


「なん…の用…おま…に話す…ない。」


「まぁそう言うな、全然聞いてないのにへばりやがって。本命はここからだぞぉ?」


「…?本…命?」


「ああ、ミランシウム金属をなんでお前らが集めてんだ?」


「…!それは…言えん…!」


ミランシウム金属はイリスが過去老人にあげた光る石の事だ。


「そりゃ言えないわな。ルヴトーじゃ麻薬レベルで取り締まりが厳しい品物だ。知ってて集めてるのか知らずに集めてたのか…まぁでもイリスさんの言ってた老人は100%知ってる側だろうけどな。」


「で?どっちだ?お前が老人とグルなのか、老人とはつるんでるだけなのか。どちらにせよ、老人の居場所は吐かさせてもらおう。」


「…これだけは拷問されても…吐くつもり…ない。吐く…なら死を…選ぶ。」

荒い息を吐きながら歯を食いしばっている。よほど話したくないのか


「おーおー、素敵だなぁ。死を選ぶほどなにか硬い友情で結ばれてんだな。」


「…」


「さっきと大違いだな。おーいイリスさん、こいつを見張っててくれ。探せば何かしら見つかんだろ。」


「んあ、はい。見張ってればいいんですね?」


「ああ、でも暴れたら困るからな。念の為に足折っておこう。えいっ」


ガキィッ!


「…!があぁぁぁっ!」

ユイドは足を抑えもがき始める。暫くは歩くことすらままならないだろう。


「拷問の時に酒をたらふく飲ませたから、余計に立って歩くことは難しいだろうな。」


「うへぇ、鬼ですね。」


「じゃあ俺は探してくるから、よろしく。」


〜BARカウンター裏〜

「さてと、どっから探せばいいのやら。」

俺は今、最初にいたBARの裏、ユイドが出てきた場所にいる。

沢山の書類に、酒、金属、がダンボールの中に入れられ山積みに差せれてあり、部屋の中央には大きな機械が設置されている。

「これは…」

c-1185

そう機械にデカデカと書かれている。

一見なんの文字数列か分からないかもしれないが、俺には心当たりがある。

「一昔前の鑑定機の名前だな。販売停止されて随分経つが…」

電源入れてあったので動作を確認する。たまたま置いてあったアルミニウム缶を置きスキャンさせ、結果を待った。

ピピッ

だいぶ時間がかかったな。今のモデルだったら3秒もかからないのに倍以上も時間が必要だった。

「結果は…よしよし、正常に動いてんじゃねぇか。」

画面にはアルミ・1・15・ヨゴレアリと書かれている。

どんな物質か、数はいくつか、重さは、汚れはあるかを自動で分析してくれる機械。種類は違うが研究所時代によく使っていたから懐かしく感じる。


「おっとそんなことをしてる場合じゃねぇ。」


自分の本来の目的はミランシウムただ1つ、早めに見つけて回収しなければならない。


「やっぱ隠してたりすんのかなぁ…」


価値がわかっているなら隠すだろうな、それとも老人がもう持っているとか?


「まぁ探せばなにか出てくるだろ」


そんな数打てば当たる戦法でダンボールの中や部屋の隅などを重点的に探し始めた。


すると


カランカラン


「ユイド、戻ったぞ」


裏口が開き白髪の老人が出てきた。

綺麗な黒スーツに杖とカバン、眼鏡をかけた老紳士。

分かる、目の前にいるこの男がイリスの言っていた老人だ。

幸いこちらに気づいてはいないから隙を見てー


「外はそろそろ寒くなってきたようだ、この歳では流石に厳しくなってきた。おや?お前はー


バレたか、だが問題は無い。相手は老人、一瞬で片をつける!


「もうこんな所まで来たのか、プリュマー・ロクス。いや今はノルンという名前だったか。」


「…!な、なんで!」

老人の首に伸ばした腕が止まる。

なんで俺の名前を知っている?戸籍上はプリュマー・ノルンだ。それは調べれば出てくるし、なんならゴミに紛れて逃げてる時に新聞にはそう書いてあった。

自分の存在が既にこの老人に知られていることも驚きだが…

それよりも、本名を知られていることにひどく驚いている。

本名であるロクスの名はとうの昔に捨てた。


嫌な記憶が甦ってく


〜父親の部屋〜


7歳の頃だ、研究者だった父親が突然の失踪をした。

何故だかは知らん、ただずっと入るなと言われた自宅の研究室に遺品整理のために初めて入るとそこにはノートが1冊だけあった。

ノートの中には感謝の言葉が書かれてありなんで失踪したのかは書かれてなかった。

そして最後にロクスの名は二度と使うなと、これからは新しい名で生きろと書かれてあった。



「なぜ?私は君を少し前から、とは言っても君が捕まる前からだが興味があってね。調べたことがあるんだ。」


この男は自分の何を知っているんだ。正体の分からない恐怖が足元をつかみ、わけも分からず跪いた。


「お前は、お前は一体何者なんだ!」


「何者ってまだ自己紹介もしていなかったかな。私は『ヴァレン・シュテイン』。」


ヴァレン・シュテイン…

だーめだ誰だか分かんねぇ…会ったことあるか?思い出せぇ…!

記憶の棚を全部開けて手がかりを探そうとしたが聞いたことすらない名前だ。


そんなことを考えている間に自己紹介の続きをし始め

「私は元アストラルシティの市長の息子だ。」

と言った。


「アストラルシティの…てっきりルヴトーの犬にでもなってるのかと思ったよ。」


「まさか、私があんな連中の犬になる気などさらさらない。」


「それで?何が目的なんだ。今更表舞台に出れるような歳じゃないだろ…」


今の時代、アストラルシティ自体そこまで知っている若者は減ってきている。

「ダストシティの前にあった宇宙開発の都市」くらいでしか教科書では習わないからな。


「私達は今、かつてのアストラルシティを元に戻そうと動いているんだ。」


「はっ。ダストシティを?無理に決まってる。」


いくらなんでも無理な話だ。人1人出入りするのが難しいっていうのに復興するなんて夢のまた夢だ。

思わず鼻で笑ってしまう。


可能性があるならー


「もし、軍事企業ルヴトーを潰す算段があるとすれば。プリュマー君、君は私たちと手を組んでくれるかね?」


「!?」


可能性があるのならそれしかない。だが国すら作れてしまう企業をこんなゴミから生まれた勢力で倒せるはずが無い。

なのになぜこの老人は自信ありげに語れる?それほどの策があるとでも言うのか?


「…もし、潰せるのなら。潰す事ができると断言できるなら…俺は協力してやるよ。」


「ほっほっほっ、そうかそうか。手伝ってくれるのか。ありがたい。」


このジジイ、もう勝つと思っているのか。よほどの自信家だな。ここまでくると、このジジイの策とやらを見たくなってきた。


「まー、まだ俺は勝てると思ってないけどな。一応策くらいは聞いてやっt


「それでなプリュマー君、もう1つ君にお願いがあるんだ。」


俺、このジジイ嫌いだわ。人の話は最後まで聞くのがマナーやろ!

ったくなんだよお願いってよ。


「プリュマー君、死んでくれ。」


「はぁ!?」


唐突なお願いに俺は思わず声を荒らげた。

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