第7話 奇襲
ーだからユイドさんが何で集めてるっていうのはよくわかんないんですよね。」
「…」
「あれ?聞いてますかって、だ、大丈夫ですか…?」
イリスは凄い心配そうな顔でこちらを見てくる。
「ん、ああ。大丈夫、大丈夫。それで気になったんだけどさ。」
実際は全然大丈夫ではない、嫌な予感が話の序盤からずーっとしていたが最後の老人のセリフでグレーに近づいた。
さあ、グレーを黒にしていこう。
「光る…石?まぁ多分金属だろうが、それはどういう風に光ってたんだ?」
「え?な、なんで?」
「あーもう単刀直入に聞くが、それは『オレンジ色に光ってた』か?」
「…!そ、そうです。そうです!オレンジ色に光ってて石自体は黒だったような。形は…確か…」
「角が出てゴツゴツしていた。」
「そんな感じです!よく分かりましたね、なんで知ってるんですか?」
イリスは目を見開いて驚いた。
あービンゴもビンゴ、真っ黒だ。
こんな情報を手に入れたんだ…俺ももう一度…
「申し訳ないが予定変更だ。」
「へ?」
「カジノに行くことは諦めてもらう。」
「ええええええ!?ど、どういうことですか?そんな簡単に諦めることなんて出来ませんよ!」
「大丈夫だ、絶対『外』に連れてっててやるよ。俺も用事ができた。」
「それじゃあ尚更カジノに行かなきゃダメじゃないですか!」
「そんな手間かかることしなくていい。面白そうだから手伝おうとしてただけで、確実に『外』に近づく方法は他にもある。」
「例えば?」
「教えねぇ。教えたところで意味ないだろうから。」
「はぁ!?ちょっとそれはおかしいじゃないですか!」
「だーうるせぇな。簡単に1人で終わる作業なんだから言っても意味ねぇんだよ。」
「だからって教えないのは違うじゃないですか!」
軽く手でシッシッという仕草をするとイリスは歯をむき出しにし威嚇の真似をし始めた。
教えないと言ったが、本音を言うと教えたくないというのが正解だ。純粋な演技をしてほしい、何も考えずにその場に立っていてほしいという気持ちから黙るという選択肢をとった。
あとはタイミングだけ。
コンコンコンコンコンコン
ガチャリ
「談笑中にすいませんね。鑑定終了いたしました。」
イリスが持ってきた巾着と謎の封筒を手に持ったユイドが部屋に入ってきた。
ユイドはこちらの方をチラッと見たあと巾着と封筒をテーブルの上に置き話し始める。
「では今回持ってきた金属の鑑定結果がこんなかんじ。」
封筒の中から紙幣と硬貨を取り出して並べ始めた。全部で10エダにも満たない小さな金、 こんなのをちまちま集めてたんじゃいつになっても外に出られやしねぇ。
恐らくそういう事を薄々感じていたからカジノの裏に突っ込むみたいな発想が生まれたんだろう。
「この部品は使えるが、こっちはもう使い物にならない。これに関しては汚れが少し目立つかな。だからトータルで7エダと2ユセン。どう?」
「あ、じゃあそれでお願いします。」
取り出したお金を元に戻しながら話を続ける。
「はい。それじゃあこれが今回のお金だから大切に使ってね。」
ユイドは封筒をイリスに渡すと、今度はこちらの方を向き
「アンタもゆっくりしていくといい。気が向いたらこうやって金属を集めてくれるとありがたいけどな。」
サングラスで目は見えないが舐め回すような視線を感じる。
もうそろそろいいだろうか。
「ああ、ゆっくりさせてもらうぜ。ゆっくり!なっ!」
ドッ!ゴキィッ!
ユイドの手を掴み腹部めがけて膝蹴りをした直後、掴んでいた腕のジョイント部分、つまり肩を外した。
「ゆっくり話を聞かさせてもらおうか、お言葉に甘えてよ。」
外した腕と逆の腕に持ち替え、きつく押さえつけながら会話を続ける。
「会った時から変な奴だと思ってたけどよ、イリスさんの話を聞いてヤバいやつだったとは思わなかったよ。」
「うぅ、その言葉そっくりそのまま返すぜ。」
「そー、かいっ!」
抑えていた腕にギュッと圧をかける。
ユイドは呻き声あげて痛がっている。
そこに今までの流れを完全に理解していない人間が遅れて登場した。
「な、何してんですかぁ!」
イリスから見たら俺がいきなり暴れはじめ、ユイドを痛みつけている映像にしか見えていない。
「ユイドさん!大丈夫ですか!?」
「い、いや、この状況見ればわかるだろ。お前の連れ…頭イカれてるんじゃねぇのか。」
イリスはユイドに駆け寄り心配をしているが、俺に乗っかかられたユイドの方は声を出すことが精一杯のようだ。
「なんでこんな…こんなことをしたんです!」
「なんでって…これが予定変更プランBだからだろ。」
沈黙が続く。イリスは頭の整理が追いついていないらしくフリーズしてしまったようだ。
予定変更プランB、「ユイドを拷問して洗いざらい全部吐かせろ」。
プラン内容は簡単。ユイドを呼び出す→ボコる→捕まえる→ボコる→吐かせる
な?簡単だろ?
イリスに黙ってた理由は普通に演技がヘタクソそうだったから。ただでさえ俺に対して警戒されているんだ、変な素振りを見せられたらチャンスは周ってこないかもしれない。
「これが!?これっ…ただの気の狂った行動にしか見えませんよ!?」
「まぁまぁ、だけどこれで『外』に行ける確率がグググンと上がったんだ、感謝しな。」
「え?この行動のどこにそんな要素があるんですか!?も、もしかして…」
「お、気付いたか。そう、コイツは十中八九『外』に繋がってる人間だ。」
「ええー!?」
イリスはさっき俺が殴りかかった時より驚いていた。
「騙されるな!イリス、この男は確証もなく急に人に殴りかかってくる奴だ!信じるな!」
「そ、そうですよね…!しょ、証拠はあるんですか!」
今思ったんだがイリスって騙されやすい性格してんなぁ。
証拠なんて探せばホイホイ出てきそうなものを、何も知らないからといって簡単に騙される。
「証拠ねぇ…例えば、今ここにあるこの酒はいくらだと思う?」
「これ?これはカジノで安く手に入った物…ですよね?ユイドさん」
「あぁ…ここにある酒は全部賭けで手に入れたものだ、安いからあんなに沢山ある。」
「そう、確かに安いんだよ。カジノの景品にするなんてわざわざ必要のないくらいな。」
「私達のような者にとってそんな安い物でも『外』の物は価値がある。景品として出てくるのは当たり前のことではないか?やはりこの男はバカだ、今すぐ振り落とせイリスよ。」
「確かに、安く手に入れられる『外』の物があれば欲しくなりますからね…やっぱり勘違いですよ。ほら、抑えるのをやめましょ?」
宥めるように近づくイリス、もうコイツは敵なんじゃないかと思えてくる。
でもまだ最後まで話は終わっていない、次で決めよう。
「安くねぇ…イリスさん、バーのカウンターに行って取ってきて欲しいものがあるんだけど。」
「…?まあ別にいいですけど、なんです?」
「探せば1発で分かるはずだ、水色でひし形のボトルだ。」
店に入った時からずっと気になっていた品物、俺の目が狂ってなければこれが『外』への鍵の1つだ。
「なっ…!」
いきなり慌てるユイド、こいつもだいぶ分かりやすいな。
「天下のサマールウィスキー、何でこんなとこにあるのかじっくり聞かなきゃならねぇな。」
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