第6話 出会い(過去)

イリスはなぜ金属を集め始めたのかを語り始める。

〜3年前のゴミ捨て場〜

あの日は普通に生ゴミを集めていただけでした。


「んしょっと。この袋からは何も見つからなそうだからこっちを漁るか、ってこっちはガラクタかよ。」


たまたま手に取った不用品のゴミ袋のなかを漁るとそこには何の用途に使うか分からない機械と小さな石が入っていました。


「何かに使えそうな気もするけど、ここじゃ電気も通ってないからなー…だけどこの石なんかは光ってカッチョイイなぁ。」


当時は機械の価値なんて全然分からなかったので光る石に夢中になり、コレをどうにかしてネックレスわイヤリングに出来ないか試行錯誤していると。


「ちょっといいかね。」

老人に声をかけられました。老人って言っても6〜70くらいだったと思います。


「その君が手に持っている金属。譲ってくれんかの、もちろんタダでとはいわん。」


ええ、最初はビックリしましたよ。

目が悪いのか手に持っている石ころを金属だと言ってたんですからね。


でもこっちも最初は渡す気はありませんでした。

「タダじゃないって言ったって別に今特段欲しいものがないからなぁ。それに、この石はすごく気に入ってるんだ。ちょっとやそっとで渡す気にはなれないっすね。」


「そうか…でも私もその金属が欲しいんだが。そうだ、珍しい物をあげよう。」


「珍しい物?」


そう言うと老人はポケットの中から紙を2枚取り出し渡してきました。

それを手に取った瞬間に今まで見た事がなくてもそれが何か瞬時に理解しました。

紙幣です。

しかも数字は500と書いてあり、とんでもない金がこの石のために払われているのだと知ったと同時に心の内にある醜い欲求が顔を出し始めました。


(この老人は簡単に500の紙幣を渡してきたが、渋れば沢山貰えるのではないだろうか。そもそも老人だ、渡さず逃げることもワンチャン出来そうだ)


(まずはカマかけ)


「これだけ?こんな…薄っぺらな紙、2枚でか?ジャンケンじゃあるまいし。」


「これは500エダといってな、これ1枚で大抵の物は買える値段になっている。それを2枚、悪い話じゃないだろ?」


やはりとんでもない金でした。それと同時にそんなに価値のあるものが使えない事に苛立ち、


「だけどそんな価値があってもここじゃ使えはしない。結局紙くずに変わりは無いのさ。」

と吐き捨てるように言い放ちました。


「そうか…そうだな。君はこの紙幣を使う場所が無いと言ったがこの紙を60枚、60枚集めればルヴトーに行くことが出来る。」


「!?そ、そんなの嘘だ!デタラメに決まってる!」


「じゃあなぜ、目の前の人間は綺麗な格好をし、60枚貯めればルヴトーに行ける紙幣を君にあげれた?」


「うっ!そ、その紙幣だって本物かどうか分かりやしない!それに60枚なんてそんな簡単に集められやしないさ!」


今となってはもう遅いですが、この時に「石は渡さない。」とか言っていたら何か変わっていたのでしょう。しかし、我々ダストシティから生まれたもの、「『外』に行ける」なんて聞いたら思考なんてまともに機能するはずがない。


「そうか…外へ行けるチャンスを失うことを選ぶとは賢い選択とは言えないな。それにここでも金を稼ぐ手段は存在する。」


「お、教えてくれ!」


「それじゃあその金属を。」

老人は手を差し出しました。


『外』に行けるなんていう宝石よりも価値のあるもの、ゴミ袋から出てきた石ころなんてその時の私にはもう見えていませんでした。


「あ、ああ。こんなのはアンタにやるよ!それで!どこに行けば金を稼げる?!」


「はは、そう慌てなさんな。ここから北にある、北ってあっちの方向です。その方向に山が見えるだろ?その山を越えた麓に『パスティーシュ』って街がある。」


「『パスティーシュ』?聞いたことがない地名だ。山を超えた所に街が存在したことすらも知らない。」


明らかに初めて聞く名前でした。後に周りの人に聞いても存在自体知らず、ダストシティの人間は生きる為にゴミ捨て場の付近に住み始めるためデタラメ話だと一蹴されるだけでした。


しかし、その老人は

「ここにいる人々はここの生活に必死だからさ。『パスティーシュ』にいる人間はこことは違う方法で生計を立てている。とはいえ、人数が少ないから成り立っているだけなんだがね。」


「…それで?『パスティーシュ』で何をすればいい?何をどれだけすれば60枚貯められるんだ?」


「ふぅ、せっかちだな。まぁいい、街の正面入口から見て1番右の建物へ行け。そこに隠れてはいるが地下の扉があるから、そこへ入るんだ。そしたら換金所になっていて、ユイドという男が物と金を交換してくれる。」


「物って何も持っていないぞ。なにを持っていけばいいんだ。」


すると老人はこちらの方向を指さしました。最初は意味が分からず

「お、俺ェ!?」

と言いましたが、老人は首を横に振り

「違う、後ろにあるガラクタ。そういう機械を持ってくるんだ。」


「これを全部?」


後ろにあるゴミ袋はそこまで大きくはなかったのですが一山を超えるには少しキツイ印象がありました。


「あー、ものによっては違うだろうな。そこら辺は通いながら学ぶといい。さてと、私はそろそろおいとまさせていただこう。」


老人はゆっくりと背を向け歩き始めました。

名前とかいろいろ聞けばよかったのですが、あの時は満足感で溢れてましたからね。

特に何もなく送りましたよ。


あぁ、そうだ!思い出しました!

その老人が去り際に言ってたんですけど

「もし、今日のように光る金属を見つけた場合…必ず換金所まで届けてくれ。1000エダは確実に払えるようにしておくので。まぁ、見つかればの話ですけどね。」

って。

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