第3話 夏川のこと

「あっこれ・・・いいですよ。」


僕のパソコンを見たいと夏川さんは言った。


机の反対側に回り、パソコンを見せる。

自作のパソコンで、中学生から作り始めたものだ。

「うわぁ〜これすごいですね。絶対高いやつですよね。」

パソコンを見ながら夏川さんが言った。

「これは、僕が作ったものです。」

「え゛・・・すごっ・・・」

「できますよ。夏川さんでも」

振り向いた夏川さんは、とんでもないと言った。こんな不器用な私がパソコンなど組み立てられるはずがない。プラモデルの簡単なものも組み立てられたことがないのにと。

「それ、いつ作ったどんなプラモデルだったんですか?」

ちょっと気になった。

簡単なもので、こんなに勉強がすらすらと解けて、よく見たら字も綺麗な人が、組み立てられないわけがない。本当は難しいものだったものではないかと。

夏川さんは躊躇いながらも

「えっと・・・車の結構大きめのやつで、小学校低学年でもできるみたいなことが書かれてたやつを、去年やってパーツを壊しました・・・」

「パーツを壊した・・・」

この説明で分かった。


『この人は本当に不器用なんだ。』


「そっそうなんですね・・・」

夏川さんは僕を見て

「今、絶対引きましたよね。」

と言った。

「まっまぁ・・・」

「ですよね〜

でも、別に手先が器用じゃないわけじゃないんです。」

「えっ?」

夏川さんは、理科の問題集を見ながら

「私、小学生の時の電気回路の勉強キットの車を、めっちゃ早く作って、まぁちょっといじって一番速い車にしました。

で、クラスの八割が車が動かなくて先生すら直せなかったので、私が皆んなのを直して動かせるようにしました。」

「僕も、同じような体験をしたことがあります。」

「そんな感じします。」


それから、手先の器用さのことやら好きなことやら・・・夏川さんは聞いたら答えてくれる。

だが、自分から話はしなかった。

だから、何度も会話が途切れた。

夏川さんは字には自信があるが、男っぽい無骨な字だとよく言われるそうだ。確かにノートの字をよく見ると、綺麗なのだが文字は硬く女性っぽい字ではなかった。

あとは、読書が好きらしい。

これくらいしか1時間で分からなかった。


「ご飯にしましょう。」

ばあちゃんが、部屋まで来て言った。

「はい。」

「はい。」

台所へ行くと醤油ラーメンが用意されていた。

「さあさあ、麺伸びちゃうから早く食べて。」

三人が座り、「いただきます」と言って食べ始めた。

僕は猫舌だ。ずっと「ふぅふぅ」息を吹いて食べていてふと隣の夏川さんを見ると、そちらも猫舌らしく僕と同じことをしていた。


「なんですか?人の食べている姿を見て。猫舌の何が悪いんですか?」

「いや、誰もそんなことは言っていない。」

「そういう顔をしていました。」

「それは悪かった。」

向かい側に座っているばあちゃんが、なんかニコニコしていた。

「良かったわ。二人はこの家に来てもほとんど喋ってなかったから心配していたの。これで私も思い残すことはないわ。」

「ばあちゃん冗談言わないでよ。」

「そうですよ。」

「そんなにすぐ死ぬような老人じゃないから大丈夫よ。」


午後の四時まで勉強すると夏川さんは帰っていった。

「おばさん、楓さん今日はお邪魔しました。

すみませんが、明日もよろしくお願いします。」

「はぁい。待ってるからね。」

『明日も来るんだ』


次の日僕はもっと夏川さんのことを知る。









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