妄想の鬼
シヨゥ
第1話
「なんでそんな事もできないの!」
そんなことを言われて叱られた。
「お姉ちゃんはその歳で簡単に出来たんだよ!」
ヒステリックに怒鳴る母親を僕はじっと見ている。
「その反抗的な顔はなんなの!」
ついには頬を張られた。星が飛び、体も飛ぶ。母親の張り手は思った以上に重たい。
「もう知らない!」
母は部屋を出ていった。泣くでもなくノシノシと歩く母親の足音を床から感じている。
仕方がない。あんなに賢く、きれいだったあの姉はもう居ないのだ。
でもあの出来た姉の代用品に僕を添えようてしても仕方がない話ではある。
スタート地点が違いすぎた。たどった人生が近い過ぎた。
僕は光り輝く姉の影で期待もされず半ば放置された人生を歩んでいる。
姉さえ輝けば我が家は安泰、そんな空気すら感じていたあの頃。僕はウンコ製造機だった。それは今でも変わらないが、今と違って最低限を守ればなにも言われない。伸びしろを破り捨ててダラダラと過ごしてきた。
そんな僕に姉が居なくなったからその代わりになれと言っても無理だ。同じゴールに向かうとしても、方法も経路も時間も全てが姉と事なるだろう。
それを母が理解するまで後何ヶ月かかるのだろうか。それともその時は訪れないのだろうか。
同じ遺伝子なのだから同じ事ができる。そんな妄想を捨ててあるがままを見て、感じて、考えてほしい。妄想に取り憑かれた母親を見るのは子供として本当に辛いのだ。
遠くでドアが強く閉まる音がする。僕はそこでようやく起き上がった。
「仕方がない」
そう声に出し、教科書を開くのだった。
妄想の鬼 シヨゥ @Shiyoxu
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