第336話 逮捕

手錠を掛けられたくらいで、俺はあわてたりしない。

何故なぜなら、桃代に何度も手錠を掛けられているからだ・・・だけど、ムカつく。


逮捕される憶えのない俺に、停車したパトカーから見知った顔、分家のざいえんが急いで出て来ると、手錠をかけた私服警官の頭をシバき、謝罪した。


おいおいおい、今時は部下の頭をシバくと、パワハラで訴えられるぜ。それが日常だと傷害罪で逮捕されるぜ。

逮捕されるのは、せめて俺の冤罪えんざいいてからにしろよな。


「も、申し訳ありません紋次郎さん。バカな部下が早とちりをしてしまいまして、本当に申し訳ありません」

「久しぶりだねざいえんさん。挨拶はいいから、先に手錠をはずしてくれる。あとね、俺よりも桃代に謝った方がいいですぜ。アイツが怒るとどうなるか、よく知ってるはずでしょう」


「げッ、桃代様まで一緒に居る。なんてが悪いんだ。キサマ等! さっさと手錠をはずして、あちらの御婦人に謝罪しなさい」


手錠を掛けた私服警官は外し終わると、急いで桃代の元に行き、腰を90度に曲げて謝っている・・・まあ、いいけど、おまえだけは先に俺に謝れよ。


しかし、マズいな・・・いかつい顔の警官が必死で頭を下げる相手、桃代は冷たい目をして警官を見下みおろしている。

あの顔を見て、りんどうが萎縮いしゅくしなければいいのだが・・・。


俺の考えを察してくれたのか、キーコはりんどうのそばに行くと、緊張をほぐすように会話を始めた。

さすがはキーコだ。あとでいっぱいめてやるからな。


「それで、ざいえんさん。これはどういう事なの? 紋次郎に対して失礼極まりないこの行為こうい。場合によっては問題にするわよ」

「申し訳ありません桃代様。実は紋次郎さんに聞きたい事がありまして、本家の方に連絡をして、署の方に来て頂くように部下へ命令したのですが、電話に出た桜子さんに【駅にいますから早く逮捕してください。】なんて言われまして、こ奴らが勘違いをしてしまったみたいです」


「話にならないわね。聞きたい事があるのなら、そちらの方が本家に出向いて来るのが筋でしょう」

「申し訳ありません。その通りなのですが、紋次郎さんも関わっている事なのです。日を改めて本家の方にうかがいますので、どうか話を聞かせてください。いえ、話を聞いてください」


「なあ、斉園さん。今日は予定があるから話を聞くのは無理だけど【俺が関わってる】って、どういうこと? 俺、何かしたっけ?」

「紋次郎! やめなさい、聞かなくていい。日を改めるってざいえんも言っているでしょう」


うわ~っ、呼び捨て。

桃代のヤツ、相当怒ってるな・・・自分の事を棚に上げて。

ざいえんは顔から血のが引いている。俺は、とばっちりが来ないよう黙る事にした。

それはそうと桜子のヤツ、アイツだけはあとでシバいてやる。


間違えて手錠を掛けた警官は、この寒いのに汗を拭いながらパトカーに乗り込むと、あとから助手席に乗ったざいえんに、また頭をシバかれていた。


手錠を掛けた警官が、もの凄い勢いで桃代に頭を下げ続けたので、俺の冤罪えんざいは晴れた。

しかし、俺に話を聞きたいって、どんな話なんだろう? きっとろくでもない話だ。

なにせ、俺は警察と相性が悪いからな。


さてと、桃代の機嫌を直してやらないと、俺の所為せいで桃代が不機嫌なのは不憫だからな。


「桃代さん、怒らないで機嫌を直してね。この程度、俺は平気だぜ。警察には過去に何度もあらぬ疑いを掛けられたし、手錠を掛けられたのも今日が初めてではないからな」

「許せない! わたしの紋次郎に手錠を掛けて拘束しようとするなんてッ。絶対に許さないッ!」


「うん、まあ、気持ちはわかるけど。何度も俺に手錠を掛けた、あなたがそれを言ってはダメでしょう」

「なによ! アイツ等と一緒にしないでよ。わたしは紋ちゃんが大切だから、何処どこにも行かないように拘束しただけだよ」


「うん、まあ、気持ちはありがたいけど、自由が無くなる意味では同じ、ダメな方法で、迷惑な結果だからね」

「あうっ、じゃあ、もう手錠はやめます。今度からは包帯でグルグル巻きにします。少し早いけどミイラにしてあげます」


「そういう事ではないから。オイラ、生きたままミイラにされるのはイヤですぜ」

「あうっ、ウソです。生きてる間はミイラにしません。内臓を取り出してからでないと、腐敗しちゃうから」


「いいですか桃代さん。いい加減にしないと、あなたを警察に突き出しますよ。ほら、こっちに来い。逮捕されると桃代に会えなくなるからな、よかったぜ」


桃代にりんどうを紹介する為に手を差し出すと、その手を無視して桃代は俺を抱き締めた。

こんなところでイチャイチャすると注目されるから、やめてくださいな・・・とは言えない。

これで、桃代の機嫌が良くなるなら安いモノだからだ。


ただ、桜子の言う通り、桃代は俺が思うより有名なのだろう。

その桃代が、公衆の面前で男の俺に抱き付く光景・・・ひそひそ話は聞えるし、指をさしてる人もいる。

スマホで写真を撮る人もいれば、ムービーを撮ってる人もいる。


おまえたち、プライバシーの侵害で逮捕してもらうぞッ!


なんて事は言えない。なぜなら、キーコまでムービーを撮っているからだ。

いいかキーコ、そのムービーを桜子に見せたら、お尻ペンだからな。


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