第335話 何これ?

塚のお参りと水撒き、それから神社の拭き掃除が終わると、俺達は帰路についた。

神社の中にあまちゃんは居なかった。もちろん、扉を開ける時はノックをちゃんとしましたぜ。


帰りの山道をくだっていると、昨日トリカブトの花を見つけた場所を桃代に聞かれ、案内をさせられるが、昨日見つけた場所には、花だけでなく茎も葉も見あたらなかった。

まるで、最初から花なんて存在してない、そんな感じで跡形もない。


なんでだ? 単純に場所を間違えたのか? それとも、昨日の場所を既に憶えてないのか? まさか、タヌキにかされたのか? ただ単に俺がバカだからか?

その答えを考える余裕がない。


今の俺には時間がない。こんな事で悩む時間はない。

これから、りんどうと楓の話を聞く為に余計な事を考えたくない・・・そうではなく、桜子が起きる前に、母屋に来る前に、桃代に着替えてもらいたいからだ。


桃代には、【何処どこで摘んだのか分からなくなった。】そんな、頭の検査をさせられそうな言い訳をして、俺は急いで山をりる。


桃代たちをかしたおかげで、何時いつもの時間に帰ってこられた。この時間なら桜子はまだばなれの二階に居る筈だ。

よかった、アイツと下品で鬱陶しいやり取りを、朝からしたくないからな。


しかし、母屋に入ると、お昼の弁当作りの為に、普段より早い時間から桜子は母屋に来ていた。

当然、桃代の制服姿を見られ、素晴らしく桃代を褒めたあと、俺を生活指導の先生と揶揄やゆした。

憶えてろ、おまえがその気なら、誰もいない会議室に呼び出して、泣くほどおまえを指導してやるからな。


まあ、そんなこんなで、朝から慌ただしい時間を過ごし、少し早めだが俺はりんどうを迎えに行く。

何時いつものようにリュックを背負い玄関に向かうと、【勝手に行くな。】【一人で行かないでよ。】っと、またしても同時に桃代とキーコに怒られた。


駅に行くだけなのに、君たちは少し過保護過ぎません? これでもオイラは大人ですぜ。


せっかく早く出ようと用意をしたのに、桃代とキーコの用意に時間が掛かり母屋を出た時は、駅に着くのが約束の時間ギリギリだった。

キーコはともかく、桃代さん、あなたは大人なんだからもう少し早く行動をしましょうね。


駅に着くまでの道すがら、桃代はとにかくはしゃいでいる。

一緒に出掛ける時は何時いつもそうだが、毎日一緒に居るのに、なんでそんなにはしゃぐんだ? 

桃代に右腕を組まれ、キーコに左手を握られ、二人とも楽しそうにしているが、俺は両手の自由が利かない。

まして、これから幽霊を迎えに行くのに、なんでそんなに楽しそうなんだ?


駅まで幽霊を迎えに行く俺・・・冷静に考えれば、かなり異常な行動だと思う。


桃代とキーコを引っ張るような形で急ぎ、俺は約束の時間に遅れずに済んだ。

駅まで来ただけなのに、割かし体力を消耗したぜ。


さてと、りんどうは何処どこにいるのかな? また、あのベンチに座っているのかな?

予想通り、りんどうはベンチに座り駅にある時計を気にしていた。


初対面の桃代に、りんどうが緊張しないように、桃代とキーコにここで待つように伝えて、俺は近づきながら手を上げて声を掛ける。

たいした距離ではないので、りんどうもすぐに気付いて駆け寄り始めた。


嬉しそうな顔で、あと少しの所までりんどうがやって来たところで、何故なぜだか俺の目の前に制服姿の警官が現れ、その隣にいる私服警官がふところから手錠を取り出すと、俺はワッパをはめられた・・・え~っと、何これ?


えっ?・・・はぁ?・・・何これ? どういうこと?


あまり人の居ない、割と閑散とした駅前・・・だが、無人という訳ではない。

明らかに犯人逮捕の絵面えづら・・・ひそひそ話は聞えるし、指をさしてる人もいる。


あれ? もしかして、俺はりんどうに対して、未成年者略取の容疑を掛けられている?

イヤイヤ、略取なんてしてないし、身代金の要求もしてないぜ。


その辺の公園にいる見知らぬ子供に【おまえは桃香の生まれ変わりか?】なんて、まだ声も掛けてないですぜ。

それなのに、なんで俺は逮捕されるの?


突然の出来事に、さすがの桃代も目を丸くしている。

キーコとりんどうは、何が起こっているのか把握が出来てない。


そこに一台のパトカーが駅前のロータリーに入って来ると、俺の近くで停車した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る