第337話 いつの間に?

落ち着いたところで桃代と手を繋いで、キーコのそばに居るりんどうの元まで行くと、最初に不安にさせた事を謝罪する。

しかし、その気遣いは無用のようだった。

りんどうは目をキラキラさせて、珍しい光景が見られたと喜んでいた。


まあ、喜んでくれたのなら、それでいい。

あとは、桃代を怖がってなければいいのだが、それも無用な気遣いだった。

いかつい顔の男の警官を叱り飛ばした桃代に、りんどうは憧れの眼差まなざしを向けていた。


桃代を憧れの眼差まなざしで見てくれたおかげで、お互いの紹介もスムーズに終わり、話を聞く為に母屋に行く事を伝えて、りんどう達を連れて行こうとするが、駅前のベンチに座る楓は動こうとしない。

怪訝な顔をして、俺に向かって手招きをしている。どうやら、俺に対して言いたい事があるようだ。


りんどうに聞かれたくない嫌な話なのかも知れない、俺はりんどうの為にケーキを買ってくるよう桃代に頼み、三人が店に行ってるあいだに楓の話を聞く事にした。


「なんだ楓、りんどうに聞かれたくない話か? コソコソ話をすると桃代がヤキモチを焼くからな、手短にしてくれ」

「そうじゃない。もんじろう、今おまえに抱き付いていた女、あれは本当に真貝桃代なのか?」


「そうだけど・・・なんでそんなことを聞くの? 楓は桃代を知ってるはずだろう」

「そうなんだけど、あのデカい胸、また一段と大きくなってるあの胸は、確かに真貝桃代なんだけど、あんなに表情が変わる真貝桃代は見た事ないもので・・・」


「まあ、そうだろうな。桃代は感情の起伏を人に見せないからな。でもな、慣れると色んな表情を見せてくれるぜ」

「信じられない。あなた、どうやってあの子を落としたの? まさか! 睡眠薬を飲ませて、無抵抗のあの子にイケない事をしたの?」


「あのな~人聞きの悪い事を言うな。さっきの警官が引き返して来るだろう。そんな事をしたら、俺は本当に逮捕されるぜ」

「だって、わたしの学年にも、あの子に振られたヤツがたくさん居たよ。それなのに、どうしてもんじろうなの? あなたも、あの大きくふくらんだ胸にかれたの?」


阿呆あほうッ! 桃代と初めて会ったのは、まだ胸がふくらんでない頃だ。俺は乳の大きさで桃代を好きになった訳じゃない!」


俺はベンチに座る楓と話をしているが、楓は幽霊なので当然他の人には見えてない。

少し考えればわかる事なのに、他人にしてみれば誰もいないベンチに向い、乳の大きさなどと大きな声で喋っている俺、かなりヤバい人間に見えたのだろう。


気付くと、別の警官が俺のうしろで手錠の用意をしていた。


うっ、まただ・・・俺は、逃げるように駅をあとにした・・・ちっくしょ~ッ、誰かが通報しやがったんだ!

楓の所為せいで、この駅はもう使えない。この駅から電車に乗ることは出来ない。


警官に追いかけられないように急いで駅のロータリーを出ると、電柱に隠れていた桃代が急に飛び出して俺に抱き付いた。

わっ! ビックリした。おまえも俺を逮捕するつもりかッ!


「も~っ、紋ちゃんは何処どこに行くつもりなの? 勝手な行動をすると迷子になるでしょう」

「桃代、買い物はどうした? じゃなくて、迷子になる訳ないだろう。母屋まで歩いて帰れるぜ、何時いつまでも子供扱いするな! それと、隠れて俺を監視してたな」


「えへへ、買い物はね、りんどうを連れて駄菓子屋に行くようにキーコに頼んだの。監視をするのは当然でしょう。幽霊とはいえ、よく知らない女の子と紋ちゃんを二人っきりにするなんて、そんなの許す訳ないでしょう」

「相変わらず、意味の無いヤキモチを焼くな、もう慣れたけど。それよりも桃代さん、俺のうしろを警官がつけて来てないですか?」


「来てたわよ。だけど、わたしを見た途端、駅の方に引き返したよ。じゃあ、キーコを迎えにわたし達も駄菓子屋に行こうか。楓、あなたも付いて来なさい」

「なんなの、わたしの方が先輩だったのに・・・なんで、そんな言い方なのよ。なんで命令口調なのよ!」


「ぐたぐた言わない。あなたの心残りを叶えてあげるのよ、わたしの紋ちゃんに感謝しなさい」

「ううッ、なんで? なんか、真貝桃代に逆らえない。お願い、もんじろう。アイツからりんどうを守って」


「心配するな、桃代は子供の扱いが上手じょうずだからな。りんどうとも、すぐに仲良くなると思うぜ」

「そうなの? それならいいけど・・・それから、昨日は酷い態度を取ってごめん。昨日の夜、りんどうに注意された」


楓のヤツ、昨日と比べると態度や口調がまるで違う・・・こっちの方が本来の楓なのかも知れない。


そう言えば、桃代にも楓が見えるのか? そうだよな、鬼門おにかどの家で百合の姿が見えてたからな。

もしかして、俺の所為せいで見えるようになったのかな? もしもそうなら謝らないと。


桃代に確認すると、気にしなくていいよと笑ってくれた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る