第331話 心残り

桃代の話が終わると、俺と龍神以外のみんなは深刻な表情を浮かべていた。

楓に対して変な同情をするなよ。

冷たいようだが、化け物見たさに興味本位で山に入る事自体が間違っている。

それで、不条理な出来事に巻き込まれても自業自得だ・・・残された両親やりんどうが可哀想かわいそうだろう。


なんて感想が、何時いつものように口から漏れていたのだろう。気付くと、みんなに睨まれていた・・・わかってるよ【おまえが言うな】って、言いたいんだろう。


「今の話を聞く限りでは、桃代姉さんが思う楓さんの心残りは、自分の腕を探すことですかね?」

「まぁ、桜子の言う通り、噂話を根拠にするとその可能性が一番強いと思う。だけど、噂話を鵜呑うのみにしたくないのよ。自分で考える頭があるんだから」


「しかし、桃代さん、どう考えても、それしか思い当たらないですよ。あるじさま・・・ではなくて、紋次郎さんはどうお考えですか?」

「おい苺、ワザと間違えるな。でも、まあ、その可能性が高いよな。だけど決めつけるとろくな事にならないぜ」


「ねぇ、桃代姉さん、その噂はわたしも中学生の時に聞きました。でも、その事件からかなりの時間が経ってますけど、失くした腕なんて見つかるんですか? それに、化け物か獣に襲われたなら、べられてる可能性もありますよね」

「だからこそ、紋ちゃんなんでしょう。紋ちゃんは、そのりんどうって子供を介して呼ばれたの。紋ちゃんなら何かしらの痕跡を見つけられる・・・可能性があるからね。ところで紋次郎、そのノートに書いてある林の道ってなんなの? まさかと思うけど、それがりんどうっていう名の漢字なの?」


「え?・・・違うの?」

「あのね~確かにそれでもりんどうって読めるけど、女の子にその字を当てないでしょう。確かめたの?」


「確かめて・・・ないです。そもそも男の子だと思っていたので・・・えっ、桃代だったらどういう字を書くの?」

「もう、姉さんの名前がかえでなら、この字を書いて竜胆りんどうでしょう。だけど、平仮名で書くと思うわよ。その字の林道りんどうは、絶対に違うからやめなさい」


「紋次郎君は竜胆りんどうの花を見た事がないの? すごくきれいな青紫の花なんだよ。今度わたしと一緒に、お花摘みに行きましょう」

「紋次郎さんと一緒にお花摘み? トンデモない、その言い方はダメですよユリさん。お花摘みは、女性が用を足すときの隠語ですからね」


苺にお花摘みの隠語を教えられ、ユリはビックリしたあと、下を向いてモジモジしている。

ふふふ、バカなのは俺だけではない。桜子に続き、ユリ、おまえもだ!


しかし、他の奴らは、つくづくこいつバカだなぁって顔をして、俺を見ている。

すみませんね、ユリが天然おバカになったのも、きっと俺の影響ですよ。

だから、同じレベルのバカのおまえまで、俺をさげすんだ目で見るな! 桜子。


「いい、紋ちゃん。りんどうの話を聞くのは、ここに連れて来てからにしなさい。駅前のお店や、公園なんかに行ってはダメよ」

「へっ? ここは無理だろう。龍神が居るからな、幽霊の楓は近づけないはずだぜ。そうだよな龍神」


「うん、まあ、そうなんじゃけど、普通の幽霊がひとり、苺とキーコがれば問題ないけぇ、ワシがる必要はない。明日も天気がええみたいじゃけぇ、その時間ワシはもも神社の前で日光浴をしとる。桃代さん、それでええじゃろう」

「そうですね。楓自身、まだ悪霊ではないですし、こちらの手の内を全て見せる必要はないですからね」


「わかったよ。じゃあ、明日はりんどう達をここに連れて来るから、苺は自分の部屋でクルミと一緒に待機しててくれ。桃代とキーコは同席な。ユリは念の為に、椿さんと一緒にもも神社へ安産祈願にでも行ってこい」

「え~~っ、母さんは妊婦なのに、あの山道をのぼれっていうの? 紋次郎君、意外とつれないね」


「あ~っ、もう、面倒くさいな。椿さんは龍神の背中に乗せてもらえばいいだろう。龍神、頼んだぜ」

「うん、まあ、ええけど。ついでに、他のみんなも一緒に行こうか。さくらちゃん、弁当を持って、お昼は景色のええとこで食うのはどうじゃ?」


「あっ! さすがは龍神君、それは良い考えだわ。ユリさんもそうしよう。明日は楽しいピクニックよ」


こういう時の桜子は便利で役に立つ。

うまく、雰囲気を入れ替えて、みんなを連れ出すように仕向けてくれる。


まあ、本人が楽しみたいだけだと思うが、りんどうはともかく、楓さんからは、どういう真実が飛び出すのか分からないから、身重の椿さんはここに居ない方がいいと思う。


予定が決まり一旦落ち着いた事で、持ってきた大量の荷物から、椿さんがお土産を配り始め、騒がしくなってきたので、俺は考え事をする為に散歩に出かけることにした。


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