第318話 勘違いと間違い

風呂上がりの出来事を思い出させてくれたのは、キーコの記憶力だった。

なるほど、確かに【つかいとして素直に言う事を聞く】って、言ってたな。だけど誰のつかいとは言ってない。

まさか俺の遣いだなんて、バカな俺が気付く訳がないだろう。


じゃあ何か? 俺が生きている限り、苺の寿命は尽きないのか? 慌てる必要は無かったのか?

桃代が苺の事で急に淡泊になったのは、これに気付いたからなのか?

それなら、なんで俺に教えてくれないんだよ・・・マズいぞ、苺の目から感情が消えた。

まるでヘビの目だ・・・ヘビだけど。


「それでは、紋次郎さんの誤解がけたようなので、こちらの番ですね。いいですか紋次郎さん、わたくしがじゃしんになる前にあなたに死なれると、わたくしの寿命も尽きてしまいます。ですから、あなたに無茶をされると非常に困ります。そこのところはどうお考えですか?」

「え~っと、えっと、あの~~オイラには自由に生きる権利があると思うのですが、そのへんはどうなのでしょう?」


「そういう事を言ってる訳ではありません。どうぞ、紋次郎さんは自由に生きてください。ただ、あなたは無鉄砲すぎます。桃代さんが過保護になる理由がよ~く分かりました」

「だって・・・だって、仕方がないだろう。みずちは取り憑くし、【龍神は助けようが無い】って、言うし・・・俺なりに出来る限りの事をしたかったんだよ」


「はぁ? 何処どこで、何時いつ、誰にみずちが取り憑いたのですか? 紋次郎さん、わたくしをけむに巻くつもりなら、わたくしはあなたに巻き付きますよ」

「あのね苺、龍神様が言うには、森で行方不明になった時にあなたに取り憑いたの。そのみずちをどうするか思案しているところで、水神様との繋がりを聞いて、紋ちゃんは苺の寿命が尽きると勘違いをしたの」


「ちょ、ちょっと桃代さん。みずちの件はまだハッキリしてないのに、いま苺にバラしたらダメだろう」

「いいのよ、みずちの件は片付いたから。まぁ、そうは言っても、わたしの仮説なんだけどね。だけど、一応確認は取ったわよ」


「そうなの? じゃあ、その桃代さんの仮説を聞かせてくれる。苺、おまえは桃代の話を聞いてから、俺に文句を言え」

「もちろんです。桃代さん言う通り、わたくしにみずちが取り憑いていたのなら、紋次郎さんはわたしの為に無茶をした事になります。そうすると勘違いをしてたのは、わたしの方になりますから」


「それでは、わたくし桃代の仮説を発表します・・・ドンドンパフパフ・・・・・。あれ、拍手がないよ。忙しいわたしが裏取りまでした仮説なんだよ」

「いいから、さっさと話せ。それとネタをぶち込むなよ。おまえは真面目な話の時に必ずネタを挟んで、わやくちゃにするからな」


「すみません桃代さん、それから紋次郎君、その前にちょっと良いですか? わたしと桜子さんは何の話をしているのか、さっぱり分かりません。お願いですから、ここまでの大筋を説明してください」

「あっ、ごめんねユリ。でも聞いていればわかるよ。まず、あの森の祟りの件なんだけど、あれはみずちではなくあがたもりが原因。キーコに確かめてもらったからね」


「へっ? だって【祟りの原因はみずちだ】って、龍神が言ったんだぜ。まさか、また龍神の勘違いなのか? もしもそうなら、龍神おまえは何時いつも適当な事を俺に吹き込むなッ。重要な事は忘れているくせにッ!」

「あのね紋ちゃん、そうとも言えないの。みずちの同類に近い苺ではなく、他の人だと、本当に死の危険があったらしいの」


「そうなの? ごめん龍神。おまえもたまには役に立つんだな」

「なんじゃい、その言い方は、紋ちゃんをあがたもりから守ってやったのはワシじゃろう。もう忘れたんか? ボケとるんはワシじゃのうて、あんたの方じゃろう」


「はいはい、ボケ防止のために、明日はサンマの塩焼きにしてあげるから、紋ちゃんも龍神様もつまらない言い争いをしないの。じゃあ、続けるね。キーコが最初に森で感じた悪意のある嫌なモノ、あれは殺意。祀られないあがたもりみずちに嫉妬して発していたもの。そうだよねキーコ」

「はい、そうです、あのあがたもりっていう死霊を見た時にハッキリしました。同じ殺意を感じましたから」


「それで龍神様が勘違いをした理由。以前のやしろあがたもりが破壊して、みずち御霊みたまは森を彷徨さまよっていた。その御霊みたまあがたもりの殺意を一緒に感じ取ったから、龍神様は祟りの原因がみずちだと認識したの。みずち御霊みたまにはあがたもりも手が出せなかったみたい」

「なんで? みずちあがたもりに斬り殺されたんだろう。だったら、嫉妬の対象のみずちに八つ当たりでもすれば、スッキリしただろうに」


「それもね、あがたもりが斬り殺したのは、あくまで鹿。成体化したみずちの本体を斬り殺したのではないからね。まともに勝負をしても、勝てない相手なのは最初から分かってたんでしょう」

「なるほどな、神である素戔嗚すさのでさえまた大蛇おろちを退治するのに、酒を飲まして酔わせたくらいだからな、あの手のヤツは手強てごわいんだろうな・・・ただ、逃げたヤツがここに一匹居るけど」


「あのな~紋次郎。一匹って、そげな言い方は無いじゃろう。今のワシは龍神様じゃけぇ、一柱ひとはしらって数えんかい」

阿呆あほうッ、神様だったらやしろを壊すな! 一般人の俺まで壊そうとするな! このバカたれが。桃代さん、続きをお願いします」


「それでね、一昨日おとといの夜にキーコと龍神様を連れて、あの森に確認に行ったの。キーコは悪意のある嫌なモノを感じ取れなかった。だけど、龍神様はみずち御霊みたまを感じたようよ。それは、あの森の祟りの原因はあがたもりで、みずちあらみたまになり悪さをしていたのではない証拠、みずちあがたもりから同類の苺を守る為に取り憑いたみたい」


「そういう事じゃ、やしろは壊れたまま、みずち御霊みたまは苺に取り憑き、森かららんようになった。じゃから、あがたもりの殺意も一度は消えたんじゃ。ほいで二度目に森に行った時、キーコは何も感じなかったんじゃ。わかったか紋次郎」


「ちょっと待て。【祟りが始まった時期は、やしろが壊れた時期と同じ頃だ】って、龍神おまえが言ってたぜ。そしたらみずちも祟りと関係があるんじゃないのか?」

「ほら、そこは龍神様も長く生きてるからね、記憶違いや見立て違いもあるわよ。そうですよね龍神様」


「ま、まあのう、なごう生きとるけぇね。じゃけど、ボケる訳ではないで。そこんところは間違わんとってな」

「わかったから、言い訳くさい事を言うな。ちなみに一昨日おとといって、桃代が病院から早く帰った日だよな。あのあと森に行ったの? 暗いのに怖くなかったの?」


「別に怖くないわよ。この家のまわりだって夜になれば同じような感じだし、頼りになる用心棒の龍神様とキーコが居たからね。ただ、念の為に龍神様と相談をして、みずちやしろをここに作り直すことに決めたの。ねぇクルミ」

「きゅ、まさか、あの大蛇おろちさんが、龍神様になっているとは、みっちゃんもビックリです」


んっ・・・桃代のヤツ、なんでクルミに話を振るんだ?

んっ・・・クルミの言う、みっちゃんって誰だ? みずちのみっちゃんか? ず~ちゃんは何処どこ行った?


てか、クルミは自分の正体に気が付いたのか?

俺が入院しているあいだに、何がどうなったんだ?


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