第319話 正体

クルミの正体・・・もしかすると、俺の想像通りなのかも知れない・・・珍しく。

もちろん、桃代にヒントは貰っていた。【あの子には何か取り憑いてるのではない】

あの言葉だ。


龍神に聞いた話では、みずちは鹿に化けて三つの瓢箪ひょうたんを同時に沈めようとした。

しかし、それが出来ずにあがたもりに斬り殺された。

更に、淵の底にある洞窟の中に居た小さなみずちも、あがたもりは斬り殺したと言っていた。


だとするならば、洞窟の中に居た小さなみずちの一匹が、身の危険を感じ取りカワウソに化けて、生き延びた可能性があるのでは、それが俺の考えるクルミの正体だった。


まあ、大蛇おろちの頃の龍神を知ってる以上、間違いではないと思う。

しかし、どうやって今まで生き延びてきたのだろう? 龍神もそうだけど、この手の奴らは長生きなのか?


ただ、俺の想像通り、クルミがカワウソに化けた小さな子供のみずちであるのなら、大きな問題がある。

今後、このまま一緒には暮らせない。

なぜなら毒を持っているからだ。

母屋の中に毒を巻き散らかされると、どえらい事になる。


「今のクルミの発言で、紋ちゃんもクルミの正体を確信したでしょう。そう、クルミは小さなみずちが化けたカワウソよ」

「そうなのかクルミ。俺もそうかなぁ~って思ったけど、バカな俺の予想が当たるとは思わなかったぜ。だけど、何時いつの間に記憶を取り戻したんだ?」


「あのね紋次郎君、壊れたやしろの中から出て来た、みっちゃんの逆鱗を見て思い出したの。みっちゃんはわたしのあねです」

「ん、ん、ちょっと待て。みっちゃんって誰だ? 龍神の話に出て来たず~ちゃんとは別のヤツか? そうするとおかしいだろう。あの逆鱗はず~ちゃんのモノではないのか?」


「龍神様の言うず~ちゃんと、わたしのあねのみっちゃんは同じみずちです。龍神様、当時は大蛇おろちさんですが、意外と意地悪でして、みっちゃんの名前を揶揄からかうもので、怒ったみっちゃんがず~ちゃんと呼ぶようにお願いしたそうです」

「名前を揶揄からかう? あ~~わかるぜ、俺もガキの頃にマガイモンって、さんざん揶揄からかわれたからな」


「マガイモンって、紋次郎君の場合は、ただ単に名前を略されただけでしょう。そういうのを被害妄想って言うんだよ」

「うるさいぞ桜子。おまえもニセモン、パチモン、マガイモンって、陰でそう呼んでいたくせに」


「桜子や、そんな呼び方をしてたのかい? それはイケないねぇ、当主の紋次郎さんに失礼ですよ。あなたも龍神様がしたように明日から絶食をするかい?」

「あうっ、婆ちゃん、それだけは許してください。ごめんなさい紋次郎君、もう二度と言いません。」


「ごめんなさいね紋次郎さん。桜子も反省しておりますので、わたしに免じて許してやってください」

「梅さん、そんなに気を遣わなくてもいいですぜ。もう慣れっこだからな。それで、龍神はどんな感じで揶揄からかったんだ? コイツの事だから、みっちゃんみちみちって歌って揶揄からかったんだろう」


「すご~い、紋次郎君はどうしてそこまでわかるんですか?」

「えっ、マジなのか? ボケたつもりだったのに。龍神おまえ、それはダメだろう」


「いや、まあ、そうなんじゃけど。ほれ、当時のワシはやさぐれとったけぇ、そういう事もあったかのう。あまり昔の事をほじくり返さんでくれ。ほんで、クルミがみずちなら、なんで元の姿に戻らんのじゃ?」

「それなんですけど、この姿に変えたのは、みっちゃんなんです。あがたもりに斬られて、もう助からないと思ったみっちゃんは、まだ幼かったわたしを守る為に、この姿に変えたんです。なので、自分では元の姿に戻れないんです」


「そうか、それは可哀想じゃのう。ワシの神力しんりょくで、なんとかしてやろうか?」

「いえ、この姿でないと紋次郎君と一緒に居られませんので、このままがいいです」


「俺もその方がいいな。クルミまでニョロニョロし始めたら、オイラは家出をしますぜ。あとな、なんで記憶を失ってたんだクルミ?」

「それは・・・最初のやしろが出来た大昔、御神体になったみっちゃんの逆鱗に近づいたら【バカたれ】って、大蛇おろちさんに尻尾を振るわれて何処どこか遠くに飛ばされた時に、頭をぶつけた所為せいだと思います」


「龍神ッ、またおまえが原因かぁ。おまえは本当に厄病神だな。それで? 苺に取り憑いた、クルミの姉ちゃんのみずちはどうなった? まだ苺に取り憑いたままなのか?」

「いえ、紋次郎君の製作したやしろを気に入って、一度はやしろに戻ったんですが、ご存じの通り龍神様が・・・。」


「そうだな、それも龍神がぶち壊したよな。せっかく守ったやしろだったのに、苺おまえも何か言ってやれ。」

「あのやしろを守るのは、つまりはわたくしの為だったのですね? 紋次郎さんが藪から出る時に言った、【最後くらいは守ってもらうのも悪くない】って、そういう意味だったのですね・・・申し訳ありません紋次郎さん、あなたを問い詰めるような真似をして・・・改めて、あなたのつかいになれて本当に良かったです」


「なんでそうなる? 俺は桃代が作ってくれたやしろを壊されたくなかっただけだ。あがたもりにもそう言って啖呵たんかを切っただろう」

「そんなやり取りがあったんだ・・・ごめんね、詳しく知らないくせに、無茶をする紋次郎兄ちゃんは好きじゃない。なんてキツい事を言って、本当は大好きだからね」


「キーコおまえまで、なんでそうなる? それよりもいいかクルミ、龍神の話ではみずちは毒を吐くそうだな。もしもここで毒を吐いたら、龍神と一緒にクサフグ腹いっぱいの刑だからな」

「おいおいおい紋次郎、なんでワシまで一緒なんじゃ? そこまでワシをぞんざいに扱うと、いくらなんでもバチが当たるで」


「あのな龍神、おまえが抱き付いて、俺のあばら骨がポキポキ鳴った時なんだけど、千年前に巻き付かれた前世の記憶が蘇ったぜ。あの時も、身体中の骨をボキボキ鳴らしてくれたよな。そのあとはクサフグの刑だっただろう」

「うっ、そうじゃった。余り思い出しとうない記憶じゃ。ちゅうことで、毒を吐かれる前にクルミを動物園に売り飛ばそうか」


「紋ちゃんも龍神様もいい加減にしなさい。今はカワウソのクルミが、毒を吐く訳ないでしょう」

「そうは言いますけどね桃代さん、明日の朝目覚めたら毒殺されていた。なんて、オイラはイヤですぜ」


「あのね~毒殺されてたら目覚める訳ないでしょう。それにクルミは大丈夫よ。不安なら直接クルミに聞いてみなさい」

「きゅ! わたしは毒を吐きません。それは龍神様の記憶違いです。お願い紋次郎君、信じてください」


「よし、クルミを信じよう。大昔の龍神の記憶は、多少のボケが進行して間違いだらけだからな」

「ボケてないって言うとるじゃろう。仮にワシがボケとったら、それは長く生きとるせいじゃのうて、紋次郎あんたの前世が影響しとるんじゃ」


「あっ、テメエこのヤロウ! また俺の所為せいにしやがって、確かに俺はバカだけどな、まだボケてねぇぜ!」

「じゃから、あんたのバカが影響しとるんじゃろう」


「うっ、そうですね、そこは否定できません。じゃあクルミ、おまえが知ってる事と龍神の記憶違いを教えてくれるか」

「はい、紋次郎君」


やっぱりクルミの正体は、小さい子供のみずちだったんだ。

本来の姿に戻るようなら、ここから追い出すつもりでいたが、カワウソの姿なら大目に見てやろう。


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