第316話 反らす

キーコが目をらすのは、何か俺に隠し事があるのだろう。

まあ、考えても仕方ない。おそらく苺のことだから、あとでわかるはずだ。


山頂に来たついでに、もも神社の拭き掃除をしようと思うが、何時いつも以上にきれいになっていて俺の出番は無かった。

早朝の日課の時に、キーコが掃除を続けてくれたのだろう、雑な俺とは大違いだぜ。


掃除の必要は無さそうなので、俺は帰る事にした。

山道をのんびりと歩き、キーコやクルミと話を続けていると、飛行機の音に声をさえぎられて空を見上げた時に、紙くずが木の枝に引っ掛ってあるのを見つけた。


誰がこんな所にゴミを捨てるんだ? 

俺はジャンプして木の枝からゴミを掴み取ると、それは板チョコの包み紙だった。

この包み紙・・・病院の売店で買って病室の冷蔵庫に入れたと思い込んだ、板チョコと同じ包み紙・・・どうやら、その思い込みは俺の間違いのようだった。


なるほどね、あのヤロウ、とことん俺のおやつを横取パクりやがる。

病室で元気な俺の姿を見ていたから、退院した後は淡泊な対応だったんだ。

おそらく、姿を消して病室の窓から忍び込んだのだろう、それなら声くらい掛ければいいのに、変な遠慮して妙なヤツ。


まあ、それはそれ、これはこれ、アイツには、あとで文句を言ってやる。


モヤモヤしていた板チョコの謎が解け、気分良くのんびりと歩いたおかげで、母屋に着く頃には暗くなりかけていた。

中に入り、大きな声で帰ってきた事を伝えて、洗面所でうがいと手洗いを済ませて居間に行くと、仕事の終わった桃代をはじめ全員そこに集まっていた。


この手の行事には興味がないって言ったのに、座卓の上には、たくさんの料理が並び、退院祝いの準備が済んでいた。

まあ、用意をしてくれたのだから、無下には出来ない・・・だけど、どうしてあなたまでここに居るの、あまちゃん。


「うむ、紋ちゃんおぬしも早う座れ。せっかくの料理が冷めるでな。今回も見事な活躍であったぞ紋次郎」

「活躍? よく分からないですが、あまちゃんさんに貰った薬のおかげで助かりました。ありがとうございます」


「うむ、薬など気にせずともよい。じゃが、あまり無茶をするなよ、モモが心配するでのぅ」


なんだ? あまちゃんが居るのも意外だが、こんなに機嫌の良いあまちゃんは、逆に落ち着かない。

まあ、それでも気に掛けてくれたのだから、そこは素直にうなずいておいた。


桃代が進行役の俺の退院祝いのパーティーは、あまちゃんを畏怖いふする諸々もろもろの奴らが静かな所為せいで、お通夜のように進んで行く。


「しかし、アレじゃのぅ。紋ちゃんおぬしには、穢れの結晶を見つける才能があるのかも知れん」

「穢れの結晶?・・・んっ? ちょっと分からないですけど、あがたもりの件と穢れの結晶に何か関係があるんですか?」


「なんじゃ、モモから聞いておらぬのか? あ奴が消滅したその下に、穢れの結晶が落ちていたそうじゃ。話を聞く限り、おそらく死後何処どこかで見つけ、長い年月を費やして取り込んだのじゃろう。なにせ、みずちに嫉妬して悪霊になるやからじゃ、ねばっこいヤツだったのであろう」

「そうですね、確かに性格はねちねちした感じのヤツでしたよ。龍神があっさり消しちゃいましたけど」


「うむ、龍神、お主もよく頑張ったな。怪我を負わせた責を感じ、紋次郎が戻るまで自主的に絶食をするとは、なかなかの心構えじゃ」

「そ、そうなんじゃ・・です。紋ちゃんが無事でちょっとはしゃいでしもうたけど、ちゃんと責任を取ったんじゃ・・です」


なんだそれ? それで元気が無かったのか? でも待てよ、そう言えば、板チョコやおやつの他にも、桃代が病室に持ってきたフルーツの籠盛かごもりも消えてたな・・・。

桃代が持って帰ったと思っていたけど、アレもコイツの仕業なのか?

そうだよな、持ってきた本人が持って帰るなんておかしいものな。

桃代は桃代で、俺が他の入院患者に配ったと思っているのだろう。


俺は他の奴らにバレないよう、さっき拾ったチョコの包み紙を手に握り、龍神だけに見える角度で手を開く。

最初は意味のわからない表情をしていたが、チョコの文字が見えたのだろう、龍神は顔をらして口笛を吹き始めた。


あっ! テメエこのヤロウ、夜に口笛を吹くとヘビが出るだろう!


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