第315話 帰宅

んん、どういう事だ? なんでまだ苺が生きてる? 仮にあの時苺が死ななくても、寿命の話を聞いてから十日は過ぎてる。

【あと数日で神力しんりょくは尽きる】って言ってたのに、色々とおかしいだろう。


もしかすると、あれは苺の幽霊? いやいやそんな訳がない。龍神が居る以上、幽霊は寄って来ない・・・はず。

じゃあ見間違い? いやいや見間違いの訳がない。あんなに存在感があるのだから。


桃代に理由を聞こうとしたが、桃代は荷物を持つと、さっさと母屋に入って行った。

残りの荷物は桜子が運んでくれて、俺はキーコに手を引かれて母屋に入る。


母屋に入り居間まで連れて行かれると、ばなれの会議室からホワイトボードが持ち込まれ、退院祝いと書かれていた。


退院祝いはらないって言ったのに・・・まあ、それでもカボチャのランタンが無いだけマシかもしれない。


それよりも、早く苺の事を確認したい。

それなのに、荷物を入れ終わり車を車庫に入れると、仕事の終業時間まで待つように言われ、桃代はユリと桜子を連れてばなれに行き、梅さんと苺は中断していた退院祝いの料理を、台所で作り始めた。


苺のヤツ、何事も無かったように普段通りの生活をしている・・・なんだ、それ?


今すぐ聞きたい事が山ほどあるが、まあいい、どうせ後で聞けるからな。

忙しそうな苺の邪魔は出来ずに、俺は待つあいだ、入院した為に行けなかった桃香の塚に行くことにした。


龍神も誘ってみたが、ヤツは俺の無事が分かると安心したのだろう、仏間でとぐろを巻いて舟をいでいる。

なんだそれ? 何時いつも鬱陶しいほど俺にまとわりつくのに、本当に元気が無いな。


また無茶をすると思われているのだろう、キーコとクルミは俺のそばから離れない。

なので、キーコとクルミを連れて、俺は塚に行く事にした。


塚までの山道を息を切らさぬようにゆっくり歩き、キーコとクルミに苺の事を聞いてみたが【あ、あとで桃代姉さんから詳しい話があるからね】そう言われ、教えてくれなかった。


俺から目をらし、どもりながら喋るキーコの姿を初めて見たが、変な感じがする。

まあいい、あまりしつこくただしてもキーコの負担になるだけだ。


塚のある山頂に着くと、季節の深まる山の景色を見ながら、俺は不用意にも深呼吸をしてしまい、あばら骨がピキッと痛い。

こうならないように、ゆっくりと歩いて来たのに、やっぱり俺はバカだった。


痛い素振りを見せないように桃香の塚に参り、まわりを見渡すと、大蛇おろちつかの石碑の隣に見慣れぬモノを見つけた。

なんだあれ? 小さなやしろらしきモノがある。何時いつの間に? なんの為に? 誰が設置をしたの? 俺の疑問に答えてくれたのはキーコだった。


「あのねモンちゃん、あのやしろはあの森にあったモノをここに移し替えたの。龍神様にそうしてくれって頼まれて」

「そうか、それは別に構わないけど、あの時社やしろは壊されただろう、また作り直したのか?」


「うん、桃代姉さんが設計図を書いてくれたから、あたしと苺さんで製作して、御神体だけは、元あったものを入れて。クルミも手伝ってくれたよ」

「ほう、なかなかやるな。俺が作ったやしろより完成度が高いぜ・・・んっ? じゃあ、キーコは御神体を見たのか? それが何なのか知ってるのか?」


「うん、まぁ、あたしはあの場に居たからね。苺さんに取り憑いたみずちの件も含めて、みんなに内緒で桃代姉さんに教えてもらったよ・・・ごめんね、モンちゃんが悩んでる時に何も力になれなくて」

「ん、まあ、キーコが気にする必要はない。みずちに関しては、俺も何も出来なかったからな。ただな、それとは別に、このあとつらい別れがある、それは覚悟してくれ」


苺に取り憑いたみずちの件は、出来れば有耶無耶うやむやのまま終わらせたかった。

それよりも、キーコと仲の良かった、苺の寿命が尽きる事実を覚悟してもらわないとイケない。


ただ、どのタイミングで、みんなに話せばいいのか俺は悩む。

その悩む俺の顔を見て、キーコは何か言いたげな素振りを見せている。


俺は話を振ってみたが、キーコは申し訳無さそうに目をらす。

あれ? 何時いつもならなんでも打ち明けてくれるのに、なんでだ? そういえばさっきも目をらしたな・・・なんだ? 何かおかしい。


何かおかしい気はするが、何がおかしいのか俺には全く分からない。


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