第271話 ウィンク
祟りや嫌な感じが無くなった。
そう聞かされた俺は少し落ち着き、苺が持って来た弁当を龍神と仲良く食べているが、キーコと苺は
苺の場合は飲み過ぎだと思う。
心に
それが
どうやら、俺は言葉のチョイスを間違えているようだ。
食べ終わると、
工事現場の方からではない。以前、社があったと教えられた場所に車を走らせる。
その予定でいたのだが、細い
車を降りると、【森には近付くな。】そう忠告をしてくれた、スーパーのおばちゃんに見つからないように歩いて行くが、俺は田舎の
ただ、その確率は低くなる季節なので、我慢して
なるほど、昔はここに社があったのだろう、古びて小さいけれど特徴的な石垣が残っている。
ここからはモードチェンジをして真面目にしないと、俺のような凡人でも森の中で、嫌な視線を感じた。
本来、視線を感じるのは生き物の本能だと思う。だが、現代人には薄れた本能だとも思う。
自分を狙う捕食者の視線に気付き早く逃げる為に、異性の視線に気付いて子孫繁栄をする為に、暗闇に潜み俺を驚かす桃代の姿に気付く為に・・・。
はぐれて迷子にならないようにキーコと手を繋ぎ、森の中に入って行くが、キーコの方は俺を守るつもりなんだろう・・・ほんの少しだけ、前を歩いている。
まあ、わからなことはない・・・この面子で足を引っ張るとしたら俺だからな。
それでも、キーコを先に歩かせる訳にはいかない。
「キーコ、あまり先を急ぐな。龍神が居る限り、何があっても大丈夫だから。それよりも、キーコが迷子になる方が俺には
「あう、ごめんなさい紋次郎兄ちゃん。龍神様の言われる通り何もないのが不思議で、早く確かめたくて、気持ちが先走っただけなの」
「わたくしも、キーコさんの気持ちがよくわかります。こんなのはおかしいです。二日前に森に入った時は、常に嫌な視線が
「そうか、苺はその時に、まわりの確認をしなかったのか? 変なモノを見たり、変な音を聞いたりしなかったのか?」
「もちろん確認しましたよ。ですが、誰も何も居ませんでした。しかし、実際に何者かが居て、わたくしのピット器官でも見えないのであれば、それは恐怖でしかありません」
「恐怖ねぇ? 苺にも恐怖という感情があるんだな。俺はいまだにおまえの事が恐怖だけどな」
「いいですか紋次郎さん、今は真面目な話をしております。茶化すつもりなら巻き付きますよ」
「茶化してないですぜ、オイラは本当にヘビが怖いだけですから、気を悪くしたらごめんな。それで、苺は嫌な視線の正体を調べようとしなかったのか?」
「はい、もちろん調べようとしました。まずは本来の姿に戻り距離を取ると、息を殺して様子を
「最悪な恐怖がやって来た? ちょっと待て、苺の言い方だと、ピット器官で見えない恐怖とは別に、見える恐怖が来た事になる。
「いや、ワシが感じた祟りは一つだけじゃ。今はそれすら感じ取れんけど・・・苺、あんたは意外と
「いいですか龍神さん。わたしが言った最悪な恐怖は、あなたと紋次郎さんの事ですよ! わたくしは裸でしたの。見られたくなから落ち葉にまみれて死んだフリをしてやり過ごそうとしてたのに、わたくしの心配を
「あ? ああ、そっち? も~っ、紋ちゃんがグラタンを
「すまん龍神・・・というか、それって俺たちが悪いの? 苺さんが早く戻らなかったから、
「だって、仕方がないでしょう。何者かの視線から
「あっと、オイラの
「ほらそれ、普段わたしを苦手にしてるくせに、こういう時は素直に謝って、紋次郎さんってホントにズルいんだから。もういいです・・・しかし、龍神さんの言う通り本当に何も感じませんね。この変わりよう、キーコさんはどう思います?」
「そう言われても・・・何も感じられないから、あたしは
「キーコはまだまだ子供じゃのう。ワシがおるけェね、もっと気楽にしんさい。なんじゃかんじゃ言うてもワシに恐れをなして、祟りは消えたんじゃ」
「そうだぞキーコ。こんな奴だけど龍神は役に立つ。ただの無駄めし食らいじゃないからな」
「紋次郎・・・もうちょっとワシに対して気を遣おうか。【無駄めし食らい】って、なんじゃい。ワシがおるけェ、真貝の家は安泰なのに」
「
「また始まった。紋次郎さんも龍神さんもすぐに罵り合いをしますよね。そのくせ、仲が良いから不思議です」
「まぁのう、ワシと紋ちゃんは仲がええ。のう紋次郎」
「そうだな・・・」
いま、龍神が俺に向かってウィンクをした。
何かに気付いたのかも知れない。
もちろん、俺は何も気付いてないが、このあと二人だけで話がしたい。
そういう意味のウィンクだと思う。
それでも、ひとつ気が付いた。
いいか龍神、おまえのウィンクは気色が悪い! これからは別の方法で合図を送れ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます