第270話 消失

キーコと二人で飲んだラムネと、苺が飲んだと思われる酒の料金の支払いを済ませ、俺は逃げるように酒屋を後にした。

これ以上、苺の辛辣しんらつな言葉を聞きたくない・・・そういう事ではなく、一升瓶の中に居るヘビが怖いからだ。


しかし、どうなんだ? 俺自身はラムネ一本しか飲んでないのに、万札が飛んだ。

バカたれが! あんなに飲みやがって。

苺をぶっ飛ばしてやりたいところだが、怒った苺に巻き付かれると、俺の記憶が飛びそうないので、やめておいた。


飲み過ぎないように苺に注意をしながら、駐車場に戻る途中でスマホを確認すると、すでにお昼を過ぎていた。

龍神が戻っているはずだ。アイツの腹時計は正確だからな。

念の為に苺に確認をすると、【そこでとぐろを巻いてます】・・・との事なので、龍神について来るよう小声で伝え、スーパーのおばちゃんに教えてもらった、見晴らしの良い場所に移動する事にした。


さてと、桃代に定時連絡を入れてない。

スマホを確認して気付いたがメールとラインが山ほど来てる・・・何時いつものパターンだ。

取りあえず、大丈夫とラインを送り、急いで見晴らしの良い場所に行き、森の様子を見てきた龍神に話を聞く事にした。


「どうだった龍神。森で妖しい場所を見つけられたか?」

「あのな紋ちゃん。その前にこの状態を説明して。ワシだけ働かせて、みんなは遊んどったんか? 苺! あんたは風上に立つな、酒くさいんじゃ!」


「龍神さん、わたくしはちゃんと仕事をしましたよ。あの森、誘いの森について酒屋の店主の知ってる事は、全て吐かせましたからね」

「ほ~~そうなんか? なかなかやるのう。さすがはばばヘビじゃ。それで、どげな話が聞けたんな? 言うとくけど、ワシの方はぶち凄い事がわかったけぇね」


「うっ、なかなか嫌なプレッシャーを掛けますね。いいですか龍神さん、以前あの森の入り口には小さなやしろがあり、何かが祀ってあったそうです。ただ、そのやしろは朽ち果て、御神体ごと消えて無くなり、何を祀っていたのか、今となっては知る由もないそうです」

「あのな~苺。それでは何も分からんじゃろうが。もっと、具体的な話はないんか?」


「具体的な話と言われましても・・・今回のわたくしと同じように、森で行方不明になった人が、過去に何人も居たそうです。最近行方不明になった人は警察や消防団、地域の人が総出で見つけたそうですが、見つかった人は翌日に森の前で自殺をしたらしいです」

「なんだそれ? 救いのない話だな。見つかったヤツは、最初から自殺願望があったんじゃないのか?」


「そうですね、紋次郎さんがそう思うのは当然です。ただ、どうなんでしょう。その人は見つけてもらった時に喜んでいたそうですよ。そんな人が翌日に自殺をしますかね?」

「そうだな、そうするとちょっと不可解な行動だな。じゃあ、誰かに殺された可能性はないのか?」


「それも、今となっては、なんとも言えないですね。当時の警察が自殺と判断したそうですから」

「イヤな話じゃが、自殺にしろ他殺にしろ今更調べようがないじゃろう。それより、紋ちゃんの方は何がわかったんじゃ?」


「え~っとですね、龍神様。オイラがわかった事は、あの森の名称が誘いの森と言う事だけでして・・・」

「うん、それは苺から聞いた。まさかと思うけんど、それだけか? おいおいおい紋次郎、あんたは今まで何をやっとったんじゃ? その程度なら、こがいに時間は掛からんじゃろう」


「すまん龍神。俺の苦手なヤツが居たもんで。代わりと言ってはなんだが、キーコと一緒に飲んだラムネは美味うまかったぜ」

「どういう事かいのう? ワシに森の中で妖しい場所を探させとるのに、紋ちゃんはラムネを飲みながら、のんびりしとったんか?」


「怒るなよ龍神。酒屋のオッサンを油断させる為なんだから。おまえにも、ちゃんとおやつを買ってあるからな、それで許してくれ。それよりも、おまえが調べた、ぶち凄い事ってなんだ? 当然、苺より凄い情報なんだよな」

「そうなん、ワシのおやつもうてあるん? それじゃったらええけど。まあアレじゃ、ワシのわかった事は、あの森にはもう何も無いちゅう事じゃ。祟りとか嫌な感じが、見事に無くなっとる」


「えっ! それって本当か? ホントに何も無かったのか? あれだけおまえや苺、それにキーコまで警戒してたのに?」

「なんじゃい! 紋ちゃんはワシが信用出来んのか? 今までワシが嘘ついた事が・・・うん、山ほどあるな。紋ちゃんはバカじゃけェ、すぐワシに騙されるからのう」


「いやいや龍神さん、あなたほどバカではないですよ。いいか龍神、俺のとっておきのベビースターラーメン。チキン臭をプンプンさせながら食べてないって否定する、おまえほど俺はバカではない!」

「うっ、またバレとる。よし、早う弁当を食うて森に行ってみよう。行けば、ワシの言うとる事が本当じゃって、わかるじゃろう」


「そうですね、龍神さんを疑う訳ではないですが、あの嫌な感じが無くなってるなんて、ちょっと信じられないです」

「あたしも気になります。あれだけの強い殺意でしたから、僅か二日で無くなるなんて、誰かがお祓いをしたとしても、二日で祓えるとは思えないです」


龍神の言う、ぶち凄い事に苺もキーコも戸惑いを見せていた。

俺には無い、稀有けうな感覚を持つ苺とキーコは、あの森に対して奇妙なモノを感じ取っていたからな。

もちろん龍神もそうなんだが、コイツの場合はとぼけたところが多すぎて、いまいち当てにならない。


まあ、俺にしてみれば祟りや嫌な感じが無くなり、桃代に被害が及ばなければ、それでいい。

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