第269話 どこもかしこも

さすがは田中の店の二号店だ。俺の感情をいろいろと逆撫でしやがる。

なんだ! この子供用勝負下着コーナーって、このコーナーは児童福祉法に抵触してないのか? 

抵触してなくても警察に摘発されて営業停止になっちまえ! 


店主の胸ぐらを掴み、文句を言いたいところだが、何故なぜこのコーナーに居るのか、俺はキーコに聞いてみた。


「キーコ、まさかと思うけど、ここにある商品が欲しいのか?」

「へっ? あ、違う違う、そうじゃなくてね。ねぇモンちゃん、苺さんも言ってたけど、ここに書いてある勝負下着って、なんなの? どうやって下着が勝負をするの? 誰と勝負をするの?」


「おっと、そっちの方ですかい? いいかキーコ、そういうことは男の俺に聞くな。そういうのは桃代に聞け・・・イヤ、桃代は不味い。ユリと桜子も・・・ダメだな。そうすると、余計な事を口にした苺本人に聞くしかないな。ただし、俺の居ない所で聞いてくれ」

「む~ぅ、あたしの教育係は紋次郎兄ちゃんでしょう。【俺に甘えろ】って、何時いつも言うくせに、あたしには教えてくれないの?」


「そうきたか・・・・よし、この可愛い色のやつを買ってやろう。キーコに似合うと思うぜ」

「なんか誤魔化された気がする。でも、まぁいいか。モンちゃんの言う通り、これって可愛いし、紋次郎兄ちゃんを困らせたくないからね」


キーコを煙に巻く為に、俺は焦っていたのだろう。

色だけで選び、手にした可愛いやつは、子供用勝負下着のセットだった。


不味い! これは不味い。しかし、今更これは無し、なんて言えない。

キーコが胸に抱えて、うれしそうにしているからだ。


仕方なく覚悟を決めて、子供用勝負下着をレジまで持って行くと、俺とキーコの顔を見て、店主は【ぐへへへ】っと下卑た笑い声を漏らした。


おまえがその笑い方をするんかいッ!


さそいの森について、コイツから情報を聞き出すのは諦めよう。コイツとは会話をしたくない。

どうやら、俺は田中と相性が悪いようだ。

早くこの店から出たい俺は、店主の田中に言われるがまま料金を支払い、苺を迎えに酒屋に行く。


まただ、また割高なまま料金を支払った。


仕方ない、キーコが喜んでるから今回は見逃してやる。

でも、憶えてろ! 何時か椿さんを連れて来て、おまえをぎゃふんと言わせてやる。

もちろん、ぎゃふんと言う人間に、俺はお目にかかった事がない。


結局この店では何も聞けず、苺の成果に期待しながら酒屋に戻ると、店の中はさっきより、更に不味い状態になっていた。

なんだ? どうして、こんな状態になるんだ?


俺とキーコが店に入ると、店主は苺の前で正座して、苺は店主にくだを巻いていた。

ヘビの姿で巻き付かれるよりは良いけどな。


更によく見ると、飲み終えたカップ酒が、カウンターの上にごろごろと転がり、からの一升瓶も転がってある・・・うわ~~この短時間で、どんだけ飲むんだよ。

さすがはウワバミ。


変なところを感心しても仕方がないので、俺は苺に注意した。


「いちご・・・なにやってんだ! おまえのキツい眼つきで睨まれたら、ただでさえ怖いのに口から毒まで吐いて、店の人が可哀想だろう」

「あっ、紋次郎さん、戻ってきたのですね。いいですか、わたくし毒など吐いておりません。わたしは無毒です」


「そういう意味で言ってる訳では無い。辛辣しんらつな言葉で相手を追い込むなって、言ってんだ」

「だって、店主のこの人が酷いんです。わたくし、こんな屈辱を味わうのは初めてです」


「なんなの? さっきまで仲良く飲んでたくせに。何をそんなに怒ってるの? 屈辱って、何かされたの?」

「だって、うまい酒があるから飲めって、飲まされたお酒がアレですよ」


あ~~あっ、そういう事か。

この人もなんでこんなモノを、コイツに出すのかなぁ。

まあ、苺の正体を知り得るはずはないから、酒飲み仲間のつもりで出したんだろうな。


カウンターの奥には、中にまるまる一匹のヘビが入る一升瓶が置いてある。


出す相手が悪かったよなぁ・・・マムシ酒。


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