第264話 思い出し笑い

その日の夜は、久々に眠気が思考を奪うまで俺はあれこれ考えた。

隣には桃代がスヤスヤ眠っている。


今回の祟りの件は、桃代の仕事に関係している。何時いつものように桃代の為ならば、俺はなんでもするつもりだ。

ただし、キーコの安全を優先させないといけない。


俺の役に立ちたいと言う、キーコの気持ちは嬉しいが、危険な目に遭わせる訳にはいかない。

あお兵衛べえと茜さんの件で、キーコは恩義を感じていた。


【恩を感じる必要は無い、恩を返すなんて考えるな。】あの時は、そう言ってキーコをさとしたつもりだが、根が純粋なキーコのことだ、恩を返そうなんて密かに考えているふしがある。

俺はそんなモノは望んでない。


仮に、キーコを危険な目に遭わせると、俺が黄泉の国に行った時、あお兵衛べえと茜さんによる地獄の罰が待っている。

生きながら地獄の罰に怯える、俺はやっぱりバカなのかもしない。


まあ、地獄の罰はどうでもいいとして、キーコに無理をさせないようにしないと、あの子には、これからも楽しい日々を過ごしてもらいたい。


さて、これまで俺がわかった事は、苺よりキーコの方が危険に対して敏感だという事だ。

井戸の守り神として感謝され続けた苺と、鬼島ぎしまを命からがら脱出し、その後も辛い年月を過ごしたキーコでは、その差が出るのは当然かも知れない。


そんな事を考えている内に、何時いつの間にか俺は深い眠りに落ちていた。


翌日目を覚ますと、何時いつも通り、桃代が俺に抱き付いて眠っていた。

ただし、何時いつもと違ってスッポンポンでだ。

おそらく、スッポンポンの苺を発見した事で、何かの対抗心を燃やしているのだろう。


面倒なヤツだが、風邪をひかないよう、桃代を起こさないように、パジャマを着せて布団を掛ける。


寝室を出たところから、俺の一日が始まる。


まずは、廊下を歩く音に気付きキーコが部屋から出て来ると、朝の挨拶はキーコから始まる。

顔を洗い、日課の塚に行く為に、キーコと一緒に山頂までの山道をのぼり始めると、か苺が追いかけてきた。


「待ってください、紋次郎さんとキーコさん。今日は、わたくしも同行させてください」

「はぁ? まあ、それは構わないけど・・・なんだ、何か俺達に用でもあるのか?」


「はい、わたくし本来の姿に久方ぶりに戻り、分かった事がありまして、紋次郎さんにお願いがあります」

「ん、お願い? 水神の遣いだった苺が、人間の俺にお願い? 逆じゃねぇ? 普通は人間が神様にお願いをするんだろう。お願いです【水神の遣いだった苺様、オイラに中身が入った千両箱をください】って」


「いいですか紋次郎さん。わたくしは真面目に話をしております。茶化すつもりなら、巻き付きますよ。巻き付いた後で首の辺りをペロペロしますよ」

「イ、イヤだな~ 冗談ですぜ苺さん。オイラはヘビが苦手なんですから、あなたに巻き付かれると、記憶が飛んでしまいますぜ」


「あら? 良い事ではないですか、ヘビが苦手な記憶だけでなく、各種恐怖症も飛んで無くなりますよ」

「いいか苺。俺のヘビ嫌いは千年前から続くビンテージ物だ。ちょっとやそっとでは消えない、俺のシマウマを舐めるなよ」


「シマウマ? もしかしてそれはトラウマのことですか? いいですか紋次郎さん。あなたの場合は、ボケてるのか素なのか判断が難しいんです。指摘をしていいのか、キーコさんがまよいますから、その手の言い方はやめなさい」

「うっ、も、もちろんボケですぜ。いや~トラウマを知ってるとは、苺もキーコも現代に慣れてきたな。紋次郎、一緒に暮らしてる甲斐がありましたぜ・・・はい」


「もうダメ。モンちゃんと一緒に居ると毎日お腹が痛くなる。お願い、あまり笑わせないで。ぷぷぷぷ」

「まぁ、キーコさんが喜んでるからいいでしょう。いいですか紋次郎さん、真面目に聞いて下さい。わたくし、どうやら視力が良くないようなんです。ですからメガネを作って頂きたいのです」


「なんで? おまえも龍神も、第三の目のピット器官があって、暗闇でも目が見えるんだろう?」

「そうですが・・・暗闇で見えるのと視力は別物です。そもそもヘビは元々の視力が良くないんです。その分、舌で匂いを感じたり、嗅覚は鋭いのですが、裸眼はあまり良くないのです」


「へぇ~ 裸体もあまり良くなかったけどな・・・って、冗談です。睨まないでください苺さん。あなたの目は怖いんです」

「モンちゃん、今のは良くないよ。苺さんって凄くスタイルが良いんだから。胸だって桃代姉さんの次に大きいし、肌も透き通るくらい白いんだよ」


「そりゃあ、白ヘビなんだから白いだろう。でもな、初めてコイツを見た時は、ほら、ヘビ花火の燃えカスみたいに、真っ黒だったんだぜ」

「また、そんな事を言って、苺さんが傷付いたらどうするの。ごめんなさい苺さん、あとで注意をしますから、モンちゃんを嫌いにならないでください」


「いいですかキーコさん。この程度、龍神さんが一緒の時に比べれば、大した事ではありません。本当に、龍神さんと紋次郎さんが一緒になると、デリカシーも何もありませんからね。ほら、わたしが迷子になった時も・・・」

「ダメ、思い出したら、またお腹が痛くなる。お願い苺さん、モンちゃんと龍神様の森の中での話をしないで」


思い出したのだろう、突然キーコは笑い始めた。

苺はキーコの手を取ると、逃げられないようにしっかりと握り、見つけてもらった時の状況や、初めて会った古井戸から出て来た時の話など、あれやこれキーコの知らない事まで喋り続ける。


静かな山の中で、大袈裟な身振りで話を続ける苺の声と、キーコの大きな笑い声が響いている。


おまえ達、メチャメチャ気が合うようだな。


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