第263話 頼れるヤツ

普段は、危険が伴う曰く付き場所に、俺を近付けないようにする桃代なのに、今回は俺を呼んだ。

あいつ自身、思う何かがあるのだろう。


ユリの島での騒動は、鬼門家おにかどけの裏にある三角山がピラミッドに似ている事から、桃代の興味が加速していた。

今回も桃代の興味が加速する、その手の何かがあるはずだ。


俺がネットで調べた事柄は、桃代の変なテンションを肯定できる内容だった。

もしも、俺の推測通りなら、桃代が暴走しないように注意しないと、アイツの暴走はたちが悪い。


桃代が興味を示し、キーコも言っていた悪意のある嫌な感じのモノ、それはミイラではないかと思う。

俺の推測は、即身仏になる為に土中どちゅう入定にゅうじょうをした僧侶が、あの森の何処どこかに居て掘り起こされてないのでは? そんな仮説を立てて、ノートにいろいろ書き出してみた。


もちろん、いき入定にゅうじょうをした僧侶が望まなければ、掘り起こされて即身仏として祀られる事は無い。

即身仏になる事は明治になると禁止され、禁止をされる前に入定にゅうじょうしていた場合でも、掘り起こせば墳墓発掘の罪になる。


祀られる事を希望していき入定にゅうじょうをしたが、掘り起こされなかった為に祟りを起こした。

そんな仮説を立てて、ネットで即身仏を調べてみたが、そもそも即身仏になろうとする高尚な人が、祟りを起こすはずがない。


そういう訳で、俺の推測は振り出しに戻り、堂々巡りをしていた。


そうすると、桃代の変なテンションは何が切っ掛けだ? ミイラでなければ埋蔵金か? 

桃代を問いただし、勝手な行動をされると困るので、聞かないつもりでいたが聞くしかない。


その日の夜に寝室で二人だけになると、桃代の不可解な行動について俺は聞いてみた。


「なあ、ももちゃん。普段のあなたなら【変な場所には近付くな】って、しつこく俺に言うくせに、どうして今回はあそこに俺を呼んだんだ? スマホを届けるにしても、ちょっと理由が弱いよな」

「へっ? 突然どうしたの? でもまぁアレよ、わたしの凛々しい仕事姿を見せたら、紋ちゃんは益々ますますわたしの事が好きになるでしょう。だからよ」


「えっ! それだけ? じゃあ、今回の祟りについて、桃代さんは何かに気が付いてる訳ではないの?」

「祟り? 当たり前でしょう。わたしだって初めて行った場所なのに、何に気付けるの?」


「だって、あなたのテンションが変だったから、オイラはミイラが絡んでると思ったんですぜ」

「だからね、わたしの凛々しい姿を見た紋ちゃんは、今以上にわたしを好きになるでしょう。そうしたら、エジプトに行って盗掘が出来るじゃない」


「ちょいちょいちょい、おかしい、おかしいだろう。なんで今以上桃代を好きになると、エジプトで盗掘をする事になるんだ?」

「もうッ、そこから? わたしが大好きな紋ちゃんは、わたしから離れられない。そうしたら、わたしがエジプトに行って盗掘団を立ち上げれば、その一味になってくれるでしょう」


「あのな、エジプトに行くのは構わない。だけど、なんで盗掘団なんだ? 国際問題になりますぜ」

「いいじゃない。未盗掘の王墓を発見してあばくのが、わたしの夢なんだから。紋ちゃんも協力してよ」


「はいはい、もうそれはいいから。まずは目の前の問題をなんとかしようぜ。龍神が祟りなんて言ってたけど、祟りなんて本当にあるのかな?」

「あ~あ、つまんない。ファラオの呪いだったら興味があるのに・・・でも待てよ、祟りかぁ・・・わたしの王墓をあばく奴らに祟ればいいんだ。祟りの仕組みを解明するチャンス」


「桃代さん、お願いですからマッドな研究をしないでね。それから、あなたに対する俺の気持はマックスなんだから、これ以上好きになったりしないぜ」

「ちぇ、残念。でも、まぁいいか。盗掘団なんてケチな事は言わないで、エジプト政府から正式な発掘権を購入して、堂々と盗掘をすればいいわ」


発掘権を購入すれば、盗掘をする必要はないだろう。

なんで盗掘にこだわるんだ?


桃代の変なテンションは、すでに暴走していたたちの悪い盗掘熱の所為せいだった。


今のところ、あの場所の曰くについて分かった事は、キーコの感じた悪意のある嫌なモノだけだ。

桃代が高揚していた件は、ヤツの暴走だし、俺の推測は頭の中でみずから否定した。


桃代に頼ならければ俺は何も出来ないバカなので、桃代には早く正常に戻ってもらわないと、面倒な事になる。


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