第262話 一緒

キーコが笑い終るまで、俺はしばらく待ち続けた。

そんなに面白いか? あの時の俺は、龍神にキレそうだったのに・・・。


あまりにキーコが笑い続けるので、俺は台所にペットボトルを取りに行く事にした。

キーコを落ち着かせる為だ。

すると、会議の方は終わったようで、はなれの前に止めてある車が次々に帰り始めるのが、窓から見えた。

ただ、どいつもこいつも庭ある桃代の王墓に指を差して、頭をひねって帰って行く。


どうやら、全員まともな思考の持ち主のようだ。


知らない人間が帰った事で、龍神は母屋にやって来るが、こいつは今まで何処どこで何をしてたんだ?

会議に参加していた苺も戻って来ると、自分の部屋に行き何やらゴソゴソした後で、キーコの部屋に入って行った。

んっ? どうしてキーコの部屋に行く? その手にした荷物は何なんだ? 


女同士の話だと思い、邪魔をしたくない俺は、キーコの部屋に戻るのを諦めると、窓から外を眺めて明日の事を考える。


俺の予定では、明日の朝からあの場所に行き、近くの商店で情報を集めるつもりだ。

俺が情報を集める間に、龍神には森で妖しい場所を調べてもらう。


もちろん、これは俺個人の考えなので、まずは龍神に了承を得ないといけない。

龍神に予定を伝える為に居間に行くと、妙な事が始まっていた。


なんだ、何時いつの間に苺とキーコは居間にやって来た? それにその恰好はなんだ? 何処どこでその衣装を手に入れた? どういう意図でそれを着ている?


苺とキーコは巫女装束で身なりを整え、龍神はのついた大麻おおぬさを振り、神主かんぬしの真似事をしていた。


「なんのつもりだ龍神、おまえは何時いつから神主になったんだ? 苺、おまえはなんだ、巫女のつもりか? キーコまで、どうしてコイツ等に付き合っている?」

「あのね、これを着れば、【巫女さんとしてモンちゃんのお手伝いが出来る】って、言われたの」


「どっちだ? つまらない出任でまかせをキーコに吹き込んだのは? 龍神か、それとも苺か?」

「あのな~ワシの訳がなかろうが。どうしたら、ワシが巫女装束を揃える事が出来るんじゃ。紋ちゃんが服を買うてくれんけぇ、いまだにワシだけ裸なのに」


「あ~もうッ、面倒くさい事を言うな。仮におまえに服を買うと、【紋ちゃんは服を着たヘビを見た事があるんか】って、バカにするくせに」

「そげな事を言われても、実際に白ヘビの苺は服を着とるし・・・そもそも、ワシが着れる服なんか、何処どこにも売っとらんじゃろ」


「そんな事は、おまえに言われなくてもわかってる! じゃあ、これを用意したのは苺なんだな。いいか苺、この件にキーコを巻き込むな!」

「また~そんな事を言って、キーコさんを一人ぼっちにすると可哀想でしょう。この子は紋次郎さんの役に立ちたいの。その気持をんであげなさいよ」


「行方不明になったオメエが言える立場かッ。キーコにもしもの事があれば、どうするつもりだ」

「いいですか紋次郎さん。あなたの無事な帰りを待つキーコさんは不安なんですよ。そういう事も考えてあげなさい」


「そうは言うけどな、あの森が良くない場所なのは、苺だって理解してる筈だろう。それなのに、まだ子供のキーコを連れて行くのは不味いだろう」

「ごめんなさい、怒らないで紋次郎兄ちゃん。あたしが我が儘を言っただけで苺さんは悪くないの」


「大丈夫だ、怒ってない。この程度で怒ると龍神とは付き合えないからな。でも、まあ苺の言いたい事もわかる。この件が終わるまで、俺のそばを離れないよう桃代に言われたからな」

「あのな、違うじゃろう。紋ちゃんの行動が不安じゃから、桃代さんはあんたのそばを離れんようにって、ワシに言うたんじゃろう」


「あれ、そうなの? アレはそういう意味なの? 俺はてっきり、ベロを火傷して鼻まで利かなくなった思い込むバカな龍神と、特殊能力がある癖に迷子になる阿呆な苺と、まだ子供のキーコを、俺に面倒を見ろって言う意味だと思っていたぜ」

「どんだけポジティブなんじゃ。ちゅうか、最終的にはワシのおかげで、苺が見つかったのに、もっとワシに感謝をせんかい!」


「あ~~ッ、それは苺本人に言え。俺にまで感謝を強要するな、このバカたれが!」

「なんじゃと~ おい紋次郎ッ、それはないじゃろう。ワシがおったけぇ、あんたは遭難せんで済んだんじゃ!」


「ふ~~ あなた達って、本当に似た者同士よね。わたしをそっちけで、仲良く晩御飯の話で盛り上がってるかと思えば、くだらない言い争いをする。キーコさんが置いてきぼりになるからやめなさい」

「うっ、ごめんキーコ、置いてきぼりにしたつもりはないんだぜ。龍神が難癖を付けるから、つい・・・」


「いいの、わかってる。紋次郎兄ちゃんは、あたしが心配なんでしょう。でもね、あたしは鬼なんだよ。自分の身は自分で守れるし、人外も見える。きっとモンちゃんの役に立つ。だから、あたしも連れてって」

「う~ん、でもな、キーコ程ではないにしろ、桃香のおかげで俺も多少は人外が見える。それなのに、その手のヤツをあの森で見なかった。気の所為せいかもしれないが、そのくせ視線だけは感じた。あそこは人外ですら避ける、ヤバい何かがある場所だと思うぜ」


「あたしもそう思う。だからこそ、あたしが役に立つの。お願い、一緒に連れてって。絶対に自分勝手な行動はしないから」

「本当だな。絶対に自分勝手な行動はしないな。もしも、聞き分けのない事を言うと、お尻をペンってするからな」


「えへへ、約束する。紋次郎兄ちゃんはもちろん、龍神様や苺さんにも迷惑は掛けない」


連れて行く気は無かったが、キーコの健気な態度に俺は折れた。

まあ、龍神は居るし、苺も居る。

苺の強い眼つきを見る限りでは、二度もおくれを取る事は無いだろう。


それよりも、昨日の夜に気になった、桃代の変なテンションについて、俺の考えた推測をネットで調べてみようと思う。


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