第261話 笑い
食事の時から、俺は桃代の言動を注意深く観察していた。
普段は【妙な場所や曰く付きの場所に近付くな】そういう注意をする方なのに、あの場所に俺を呼んだ、それに対して最初に違和感を覚えたからだ。
桃代の言動に整合性が取れてない。
コイツは変なヤツだが、幼い時から俺を大切にしてくれている・・・と思う。
祟りがあるような曰く付きの場所に、俺を呼ぶ理由がわからない。
なので、注意深く観察をしたが、桃代が何を考えているのかサッパリわからない。
まあ、俺のようなバカたれが、桃代の思考に追いつける筈もない。
離島でキーコの正体に気付いた桃代の仮説は、俺には発想できないモノだったからな。
そういう訳で、俺も突拍子もない仮説を立てた。
桃代の言動に整合性が取れてない事や、変なテンションには、ヤツの大好きなミイラが関係している。
それを踏まえた上で、俺は桃代に気付かれないように観察を続ける。
観察を続けるが、特段変わった様子も見られない。
普段なら寝ついた頃に、うっちゃるのだが、寝言で何か漏らすのではないか? そう思い、その日の俺は桃代を自由にさせていた。
その日の深夜、俺は海で溺れている夢を見た。
翌日に目を覚ますと、桃代に抱き締められたままデカい胸に顔を埋め、窒息寸前だったからだ。
桃代の観察は命がけだ。
しばらくすると数台の車がやって来て、
俺と苺の二人も離れに呼ばれたが、苺はともかく、俺は会議に参加をしない。
俺が参加をしたところで何も話す事は無い。
龍神と森の中で話した事や体験した事を、会議の場で発表する訳にはいかないからな。
それに、正直なところ、知らない人と会うのは面倒くさい。
引き続きパソコンを眺め、あの付近の歴史を調べ続けているが、参考になるモノは何も無い。
次に、あの付近のオカルト的な事を、さも実体験のような書き方で掲示板に書き込み、それに対する反応を見てみるが、真っ当な反応は何も無い。
ただ、ミイラに関して調べた事は参考になった。
あとは、キーコの感じた、悪意のある嫌な感じのモノについて、詳しく聞いてみようと思い、俺はキーコの部屋に行く。
午前中のキーコは自室で勉強をしている筈だ。
居間で本を読んでいる時もあるが、それ以外は大抵自分の部屋で勉強をしている。
キーコの部屋の前でノックをすると中に入っていいか、まずは聞く。
ダメと言われた事は無い、【もっと遊びに来てよ】っと言われるが、なんか照れくさくて行きづらい。
部屋に入るとキーコは喜び、すぐさま勉強を中断すると、椅子から下りてベッドの上に座り直し、隣に座るようにお願いされた。
「どうしたの紋次郎兄ちゃん、あたしの部屋に来るのは珍しいよね。毎日来てくれないと寂しいでしょう」
「そうは言うけどな、勉強の邪魔は出来ないし、キーコの部屋に入り浸ると、ユリと桜子が
「え~~ユリさんと桜子さんは、碌でもない事を言わないよ。それに桃代姉さんは、【紋ちゃんといっぱい遊びなさい】って、
キーコは知らない。
キーコと遊ぶと、その倍はわたしと一緒に遊びなさい。そんな感じで俺を脅迫する、自分本位な桃代を、キーコは知らない。
もちろん、それをキーコに話すつもりは無い。
キーコと一緒に居るのは楽しいし、日々成長を続けるキーコを見ていると、俺の判断は間違いではないと感じられるからだ。
「なあキーコ、ちょっと聞きたいんだけど。昨日一緒に行った場所なんだけど、あの時にキーコが言った悪意のある嫌な感じのモノって、どういうモノなんだ?」
「あ~~あれね、あたしもあんなのは初めてだから、何って言っていいのかわからない。だけど、殺意を感じたの。あたしは鬼だから平気だけど、気の弱い人があの森に入ると、自殺するかも知れないよ」
「そうなの? だけど森の中には自殺死体は無かったぜ。何かに呼ばれた気もしなかった」
「それはそうだよ、気の弱い人は、初めからあの森には近づかないもん。モンちゃんを呼ぶのは自分の現状を知って欲しいから。だけど、あそこに居る嫌な感じのモノは、己の不満を不合理に他人にぶつけようとしてるだけ。だから呼ばないの」
「ふ~ん、キーコってなんでも知ってるな。今度、龍神の家庭教師になって、色々と教えてやってくれよ」
「あのね~昨日だって龍神様が居たから、モンちゃんも苺さんも無事だったんだよ。もっと、龍神様に感謝をしないとダメだよ」
「そうは言うけどな・・・・」
俺は昨日の森の中での出来事をキーコに聞かせる。
うどんを食べて舌を火傷して、口の中のヤコブソン器官がマヒして匂いがわからない、そう思い込み、しどろもどろとする龍神。
しかし、そのあと、普通に鼻で匂いがわかるのを指摘すると、すぐさま苺を見つけた龍神。
俺がした事なのだが、ツノに下着をぶら下げて、苺に怒られる龍神。
俺と龍神が苺を見つけるまでの会話や出来事を、詳しく話して聞かせると、神妙に聞いていたキーコは、途中で我慢が出来なくなったのだろう。
ベッドの上で、腹を抱えて笑い転げ始めた。
いや、まあ、そこまで笑えるようになって良かったんだけど、それは龍神のことを笑ってる? それとも俺のことを笑ってる?
俺は複雑な気持ちで、キーコの笑う姿を眺めていた。
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