第265話 纏(まと)う物
山頂に着くまで、オーバーな苺の話にキーコは笑い続けた。
可哀想に、もも神社に着く頃には、龍神に下着ドロボウの汚名が定着していた。
俺に祟るなよ・・・龍神。
塚のまわりの花に水を撒き、神社の拭き掃除が終わると、【これでわたくしも、もも神社の巫女になりました。】そんな、訳のわからない宣言を苺はしていた。
バカたれ。一度、拭き掃除を手伝っただけで、なんで巫女になれるんだ。
おまえの本音は、あの巫女装束を着たいだけだろう。
帰りもキーコと手を繋ぎ、前の方を歩く苺は楽しそうに話を続けている。
俺はその少し後ろを付いて行く。
女同士の会話に割り込みたくないからだ。
しばらく歩き続けていると、苺が振り向き、後ろに居る俺に念を押してきた。
「それでは紋次郎さん。先程言った、わたくしのメガネとキーコさんのブラを買いに行く件は、頼みましたからね」
「ああ、もう、面倒くさいな。でも、連れてってやるよ。目がよく見えないのは辛い
・・・ちょっと待て、キーコのブラってなんだ? ドサクサに紛れて妙なワードをぶち込んで来たな」
「いいですか紋次郎さん、少しは気を遣ってあげなさい。ここに来た頃に比べると、キーコさんは随分と女らしくなったでしょう。そろそろ必要だと思いますよ、ブラが。わたしには勝負下着を買ってくださいね」
「そ、そうだな、一昨日も龍神に
「え~~あんなに大きなオッパイの桃代さんに頼むんですか? わたしですら桃代さんとブラを買いに行くと、劣等感に
「じゃあ、オメエがキーコと行けば良いだろう。とにかく、その件に俺を巻き込むな。ほら、やる事があるから早く帰るぞ。今日は、あの森の近くで情報を集める予定だからな」
「まぁいいです、今日の帰りにでも、メガネだけは買いに連れて行ってくださいね。勝負下着はまた今度でいいですから」
「悪いなキーコ、そういう事だから下着の件は桃代と一緒に行ってくれ。俺は役に立たない。それから苺。おまえの願望を、しつこくぶち込むな」
「えへへ、大丈夫だよ。モンちゃんに下着を選んでもらうのは、あたしもちょっとだけ恥ずかしいからね」
「ああっ、そうですよね、ごめんなさいねキーコさん。紋次郎さんが選んだブラを胸に当てられ、【これはどうだ? ぐへへへ。】なんて言われたら抵抗がありますよね」
「苺・・・テメエは、生々しい描写をするな! 俺がキーコに嫌われちゃうだろう! それにそんな笑い方はしない!」
以前、離島の田中の店で初めてキーコの服を購入した時は、【紋次郎君が選ぶ物ならどんなに恥ずかしい姿になっても文句は言わない。】なんて言ってたのに、成長したなキーコ。
俺は兄ちゃんより、
「なあ苺、おまえは行方不明になってから性格が変わった? 下着選びに俺を付き合わすなんて、苺らしくないぞ」
「そうですね。実はわたくし、身に
「仕返しは勘弁してくれ。でも、だから、井戸を埋めた時に、あとであの布も埋めてたんだ。龍神がクッサイとか言うから埋めたんだと思ったぜ」
「まぁ、それもあります。あれはわたくしへのお供え物。真っ白でしたから花嫁衣裳のつもりで
「ふ~ん、花嫁衣裳というよりは死装束だけどな。でも、最後は真っ黒になって喪服だな」
「紋次郎さん、いい加減にしないと祟りますよ。ふざけた事を言い続けると、本当に祟りますよ。それはもう、ヘビの祟りはしつこいですわよ」
「うっ、すみません、言い過ぎました。苺さん、祟りも勘弁してください」
「まぁ、いいです。とにかく、わたくしは身に着ける物には
「そう言えば、苺さんのイチゴ柄のワンピース、あたしの母ちゃんの
「いいんですよキーコさん。あのワンピースは手洗いをして綺麗になりました。紋次郎さんが初めて買ってくれたワンピース、粗末には出来ませんからね」
何か苺が不気味だ。
そう言えば、あの時に、【服が汚れたら、また新しいのを買ってやる。】そんな事を言った気がする。
まさか? それを思い出させる為に、こんなまわりくどいやり取りを?
【確かに服を買ってやる。】そうは言ったが、勝負下着を買うとは言ってない。
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