第242話 間違い

俺は後ろを振り向かない。いや、振り向けない。

振り向いて、もしも、あまちゃんが後ろに居れば、俺は首をねられて惨殺死体になるからだ。


下を向き、ボタボタと汗を垂らしている俺に、桃代の笑い声が聞こえてきた。


「あはは~っ、どうだった紋ちゃん。てんちゃんの言い方に似てたでしょう。桜子にモノマネの極意を教えてもらったの」

「へっ? モノマネ?・・・・ももよさん、それはダメでしょう。あなたはオイラをイジメて楽しいですか?」


「だって、紋ちゃんが偏屈ババアなんて失礼な事を言うから。どう考えても言ってはいけない言葉でしょう」

「うっ、確かに、その通りだな。今度会ったら謝っておく。ここに居るとまた失言しそうだから、俺は龍神の手伝いをする」


「じゃあ、確認も済んだし、あお兵衛べえは隠してあるけがれの結晶の場所に、わたしを案内しなさい」

「はい、それはいいのですが・・・お願いだ紋次郎、キサマも一緒に来てくれ。わしはこの桃代さんが怖い」


「あ~もうッ、面倒くさいなあお兵衛べえは! 鬼のくせに。龍神、ちょっと行ってくる。俺が居ないからって雑な事をするなよ。苺、すぐに戻るから後を頼む」

「お任せください。さぁ、龍神さん続けますよ。ヘビの底力を見せてあげましょう」


「うん、まあ、ええけど。紋ちゃんは早う戻って来てな。あんたがおらんと、ワシの胸はポッカリと穴が開いたみたいなんじゃ」

「キモいッ! 苺が疑惑の目で俺を見るから、その言い回しはやめろ! ほら行くぞあお兵衛べえ、さっさと案内をしろ」


「あのな紋次郎。お願いだから、鬼子きこに変な影響を与えないでくれよ。あの子はわしと茜の大切な子供だからな」

「いいかあお兵衛べえッ、おまえは龍神の言葉を真に受けるな。アイツは俺をおちょくりたいだけだ!」


俺はムカムカしながら、桃代はタメ息を吐きながらあお兵衛べえの案内で、けがれの結晶の回収に行く。

人目に付かない場所に隠されたけがれの結晶を見つけると、手に触れないように桃代がビンの中に納め、俺が硬く蓋をする。


数カ所をまわり、全ての回収が終わると高台を目指す。

う~~っ、意外と疲れた。もう、そろそろ陽が昇る時間だ。


高台に戻ると、龍神と苺の作業も完了していた。

二人ともしっかりと仕事をしたようで、少しひらけた場所に、かめが掘り起こされて置いてある。

もちろん、かめの中は土が詰ったままで、そこまでは掘り返されてない。


俺と桃代は、かめの前で両膝を地面につけて手を合わせると、まずは墓をあばいた事に対して謝罪した。


「紋次郎、それから桃代さん。人間の中にもあなた達のようにい人が居るんだな。これなら鬼子きこを安心して任せられます。どうかあの子を頼みます」

「まだ終わってないぜあお兵衛べえ。これから、このかめとおまえをキーコの元に連れて行く。キーコを泣かすと許さない。そのつもりでついて来い」


「うっ、紋次郎、そんなに重圧をかけるなよ。緊張でわしの心臓が止まってしまうぞ。って、もう止まってるか」

「いいぞあお兵衛べえ、その調子だ。キーコが悲しむから、しんみりするな。おまえ達は、これからずっと一緒だ。もうはなばなれになる事はない。だから喜べ」


「紋次郎・・・最初に出会った時に悪態をつき、すまなんだな。キサマとはもっと早く知り合いたかったぞ」

「いいから、しんみりするなって言ってんだろう! やっぱりおまえはバカだなッ」


「ふふ、そうだな、わしはバカだな。今後もキサマと同じバカを目指す。龍神殿に苺殿、お二人にも世話になりました。ありがとうございます」

「よし、行こうか。龍神はかめを運んでくれ。苺は岩の上にあるあお兵衛べえのイチモツ、ではなくてツノを頼む」


「イチモツ? 紋次郎さん、それは許される言い間違いだと思ってますか? まして女性のわたしに対して、はっきり言って最低です」

「怒ってやるな苺。紋ちゃんは昨日も今日も寝てないんじゃ。寝不足なんじゃ。おそらく、鬼のシンボルと男のシンボルがごっちゃになったんじゃ。バカじゃけぇ!」


「ああっ、そういう事ですか、納得しました。納得した上で最低ですわ。紋次郎さん、次に同じような間違いをすると、ヘビの姿で巻き付きますよ」

「うっ、やっぱりわしは、紋次郎のようなバカにはなりたくない。鬼子きこのこれからが心配だ」


「あなた達は失礼ね。紋ちゃんが呼ばれ易いように、誘導したのはわたし達でしょう。それなのに、ちょっとした言い間違いを責めないでよ」

「うっ、そうでした。紋次郎さんが無意識に行動するように、疲れさせ寝不足にして何も考えられなくしたのは、わたくし達でした。ごめんなさいね紋次郎さん」


「え~っと、何それ? 桃代さん、あなたがまた手を回したの? テントの中で一人だったのは、そういう事なの? 悪いな何時いつもフォローさせて」

「いいのよ、キーコの為でしょう。さぁ、陽が昇る前に行動しないと、空を飛ぶかめがネットのニュースになるわよ」


龍神は慎重にかめを持ち上げ、ゆっくりと高台を降りていく。

俺たちもそれに続き、高台を降りてテントの前に到着すると、龍神は静かにかめを置く。


すると、呼びに行く前に、テントの中から驚いた顔をしてキーコが出て来た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る