第241話 奇妙な塊

龍神と苺がいる、それから桃代も居て、三人で俺を見ている。

なんで、おまえ達がそこに居る? 何時いつからそこに居る? 居るなら居るでどうして声を掛けない?


俺は呼びに行くのをやめて、こっちに来いと手招きをすると、桃代が出て来て、苺が出て来る。

最後に龍神が出て来ると、口をパクパクさせながら、あお兵衛べえは俺を凝視していた。


「おまえ達の事だ、俺の跡をつけて来たんだろう。覗き見をして知ってると思うが、一応は紹介しておく。コイツはキーコの親父であお兵衛べえだ。あお兵衛べえ、一番前にいる女の人が俺の嫁さんで桃代だ。その後ろに居る女は、水神の遣いだった苺だ。あのデカいヤツは見たまんま龍神だけど、アイツが岩を動かしてくれる」

「あの~紋次郎ちゃん、あなたは何者なの? あれは龍ですよ。あの女性もそうだけど、水神様の遣いという事は、人ではないだろう。人間が普通に知り合える相手では無いですぜ・・・」


「なんだあお兵衛べえ、おまえも龍神が怖いのか? キーコなんか慣れたもので、結構雑な扱いをするぜ。なあ龍神」

「あのな紋ちゃん、ワシは龍神様じゃ。普通は誰しも怖がるんじゃ。あんたも初めはそうじゃったじゃろう」


「そうだったっけ? まあいい。話を聞いてたんだろう、龍神そこの岩を少し移動させてくれ」

「任せんさい。こげなモノは、ワシに掛かればあっという間じゃけん。ついでにかめも掘り起こすか?」


「いや、それはいい。おまえが掘ると、うら鬼門きもんにあったピラミッド山のように、跡形もなくなるからな」

「紋次郎さん、わたしが手伝いますわ。龍神さんは力仕事だけでいいです」


「いいのか苺? 着てる服が泥だらけになるぜ」

「あっと、それは良くないですね。紋次郎さんに買って貰った服なのに、汚しては申し訳ないですものね」


「いいから着替えろ。昨日もそのイチゴのワンピースを着てただろう。続けて着ると臭くなるぜ。そうすると、また龍神に鼻が曲がるって言われるぜ」

「もうっ、余計な事を思い出させて、紋次郎さんはもう少し乙女の気持ちを理解してください」


「ほら、これ、小さめのスコップを持って来たから、紋ちゃんはこれを使いなさい。間違っても素手で掘らないようにね」

「昔の事を何時いつまでも・・・桃代さんは意外としつこいですね」


「いいから、言われた通りにやりなさい。それからあお兵衛べえ、あなたに確認したい事がある。わたしが聞く事に正直に答えなさい」

「なんだこのおなごは・・・って、紋次郎、キサマの嫁さんをなんとかしてくれ。目の奥が怖い」


あお兵衛べえが何か言ってるようだが、俺はそれに応えない。

龍神が岩を移動させたので、岩のあった場所を慎重に掘り進めていく。


少し掘ったところで、あお兵衛べえの言う通り、ツノらしきモノがすぐに出て来た。

まるで、大きなニンジンだ。一本しかないのに。

念の為にあお兵衛べえに確認を取ると、男の鬼は一本だと言われ、【わしの姿を見ればわかるだろう】っと、文句を言われたが、それは無視して、ハンカチで丁重にくるみ岩の上に置いておく。


あとはかめだけだ、俺は小さなスコップで少しずつ掘り進めていくが、如何いかんせん時間が掛かる。

それでも、キーコの為に頑張り続けていると、スコップの先が何か硬い物に当たった。

かめふちに当たった可能性がある。


手で土を払い、硬い物を確認すると、かめらしき焼き物を発見したので、俺は傷つけないように手で払い続ける。

すると、桃代に頭をはたかれた。


「もうッ、素手でやるなって言ったでしょう。紋ちゃんはそこまでで良いから、あとは苺が主導で、龍神様と二人でやりなさい。いいですか龍神様、もしもかめを傷つけたり割ったりすると、てんちゃんに言い付けますよ」

「えっと、そ~っとやります。安心してください。じゃあ、ワシはまわりを掘るけェ、苺はかめの近くを掘りんさい」


「はい、では傷つけないように入念にやりましょう。紋次郎さん代わりますよ。あとはお任せください」

「悪いな苺、服が汚れたら、また新しいのを買ってやるからな」


「うふっ、紋次郎さんったら、さっそく乙女の気持ちを理解してくれたのですね。では龍神さん頑張りましょう」

「ここは龍神様と苺に任せて、紋ちゃんはこっちに来なさい。あお兵衛べえ、確認したい事は、さっきあなたに言った奇妙なかたまりの件よ」


「うっ、なぜそれに興味を示す? あれは良くないモノだ。興味本位でさぐりを入れてはいかん」

「いいから答えなさい。奇妙なかたまりって、けがれの結晶の事ではないの? おそれ多くて名前を出せないかたは、あまてらす大神おおみかみ様ではないの?」


「なッ!! 何故なぜそれを知っておるッ! 紋次郎、キサマの女房は何者だ?」

「やっぱりそうなのね。もしも、隠しているけがれの結晶があるのなら、わたしに教えなさい。てんちゃんに渡しておくから」


「バカを言うな。何処どこの誰ともわからん奴に、あんなモノを渡せるかッ。だいたい、てんちゃんとは誰だッ!」

「だから、あまてらす大神おおみかみ様のことよ。てんちゃんはわたしの知り合い。わたしも紋ちゃんもけがれの結晶の所為せいで、酷い目に遭った事があるから、その危険性はよく知ってるわよ」


あまてらす大神おおみかみ様をてんちゃんと呼ぶこの女は、一体どういう人間なんだ? 紋次郎、キサマは本当にけがれの結晶を見た事があるのか?」

「だからな、俺の嫁さんだって言っただろう。それからな、桃代の言ってる事は本当だぜ。ほら、これ、あまちゃんに貰ったお守り代わりの勾玉まがたまだ。これでも信用できないか?」


「うわ~っ、紋次郎があまてらす大神おおみかみ様の勾玉まがたまを持っている。しかも、あまちゃんなんて言っている。うわ~っ、えらいヤツと関わっちゃったな」

「ちなみにな、俺が浮気をすると、あまちゃんに首をねられる。だから【キーコをたぶらかす】なんて出来ないから安心しろ。あとは、桃代に逆らうと、あまちゃんに怒られる。桃代はあの偏屈へんくつババアと妙に仲が良いからな」


「うむ、紋ちゃん、お主の言う、偏屈へんくつババアとはわれの事か?」


・・・・えッ! 誰だ? まさか・・・この場所にあまちゃんが来たの?


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