第233話 それぞれ

鬼門おにかどの家がある島を、俺たちが出発すると、苺の白いワンピースが見えなくなるまで、桃代は手を振り続け、見えなくなると行動を開始したらしい。


「さあ、急いで漁港に向かうわよ。船の用意は出来てるよね、バルボッサ。もしも、不備があれば、海の藻屑にするわよ」

「あの~真貝様、バルボッサとはわしの事かな?」


「あなた以外に誰が居るのよ、ユリの親父。あなたの船であなたが船長なんでしょう。娘のユリに、良いところを見せるチャンスよ」

「いや、まあ、そうなんじゃけど。わしはスパロウの方が好きなんじゃ。出来ればそっちに変えてくれんか? ユリもそっちの方が好きみたいじゃけん」


「ぐだぐだ言わない。紋ちゃんに命を助けてもらったあとは、二日酔いで寝込んでいたくせに。ここまで何も役に立ってないでしょう。鬼門おにかどの家長なんだから、少しは役に立ちなさい!」

「うっ、いきなりのド正論。何も反論が出来ん。まあ、船の用意は出来とるけど、あくまで漁船ですよ、海賊行為とかは無しでお願いしますね」


「当たり前でしょう。さぁ、早く紋ちゃんを追いかけるわよ。ユリと桜子も早くしなさい」


こういう時の桃代姉さんは、やたらと張り切る。

紋次郎君がからむと別人のようになる。

まぁ、紋次郎君やユリさんと同じ、わたしも桃代姉さんが好きだから、何があっても黙って付いて行くだけだ。


だけど、今回は危険が無さそうなのに、どうしたんだろう。

きっと、アレだよね。危険が無いと言っても、あの紋次郎君の事だから、小さな事をピタゴラ的に連鎖させて、最後に自分だけ大怪我をする。そんな人だから、心配なんだろうなぁ。


なんでも屋で一緒に働いていた頃は、何も事情を知らなくて、この人は本気で呪われてる、祟られている、そんな風に思っていた。


でも、わたし達が突然現れたら、紋次郎君は驚くだろうな・・・・・ヒッヒッヒッ、紋次郎君の驚いた間抜け顔をスマホで撮影すれば、わたしの黒歴史の動画を消去させる交換材料が出来る。

わたしったら、なんて頭が良いんだろう。

あの動画で、わたしをさんざんおどしやがって、見てろよ紋次郎! 



わたくし達がキーコさんの住んでいた島に上陸をすると、紋次郎さんと龍神さんは逃げるように見回りに行ったけど、どうしたんでしょう? 

喪心そうしん状態じょうたいのキーコさんを、放っておくなんてせないわ。

てっきり紋次郎さんがなぐさめると思っていたのに、わたくしに頼むだなんて、それもせないわ。


それから、なんでしょう? この島に上陸をした時に感じた、いや~な感じは?

邪気とは違う感じでまとわりつき、まるで死へいざなうような感じは?


わたくしは平気ですが、もしかして、この感じに当てられてキーコさんは喪心そうしん状態じょうたいになってるの?

もしも、そうならば、ここに居続けるのは危険だわ。


それなのに、紋次郎さんと龍神さんは何処どこに行ったのかしら?

も~~ッ、早く戻って来てくれないと、キーコさんが可哀想でしょう。


・・・ ・・・ ・・・ ・・・あれ? イヤな感じが無くなってきた? 

あれ? どういうこと? あれ? キーコさんの鬼の目に、強い決意が戻って来た? なんなのこれ?


あ~~ッ、やっと紋次郎さんと龍神さんが帰ってきた。


「もうッ、あなた達は何処どこに行ってたんですか、キーコさんを放ったらかしにすると可哀想でしょう」

「ダメ! 紋次郎君を責めないで苺さん。ごめんなさい、殺されたみんなの恨みが残っている事に、あたしが気付かないといけなかったのに、ごめんなさい。あたしがけていたから、本当にごめんなさい。モンちゃんの身体からだは平気なの? 大丈夫なの?」


「よし、元気が出て来たなキーコ。何を心配しているのか知らないが、俺は全然平気だし大丈夫だぜ。変な気を遣うな」

「だって、ずぶ濡れだし、足元だってふらふらじゃない。あたしの所為せいで、ごめんなさい」


「いいかキーコ【変な気を遣うな】って、言ったよな。おまえは自分のやるべき事だけに集中しろ。その為に、ここに来たんだ」

「うん、あたしは頑張るよ。もう泣かないし迷惑も掛けない」


「そんなに一人で気負うな。おまえはあの石牢の中で頑張り続けた。これ以上頑張る必要はない。泣いてもいいし迷惑を掛けてもいい、俺に甘える約束だろう。まずは俺の作戦を伝える。キーコには辛い作戦だけど、そこは耐えてくれ」

「ありがとう、モンちゃん。あたしは紋次郎君が居れば、なんでも耐えられるよ」


よし、キーコに元気を出してもらわないと、俺の作戦は実行できない。

キーコには少し酷な内容だからな。


だけど、有るかどうか分からない遺骨を探す方法は、それしか無いと思う。


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