第231話 キャラメル

キーコを前に座らせて、俺はそのすぐ後ろに座り、片手で龍神のツノを掴み、もう片方の手では、落ちないようにキーコのお腹の辺りを支えている。


黒い衣装のおかげで、目立たないし、見つからないと思う。

近くに寄って来れば、その限りではないが、何せ海面の少し上を滑るように進んでいるのだから、近寄る者は誰もいない。

あとは、船舶に気を付ければ問題ないはずだ。


それなのに、俺の後ろに居る苺は、どうして白いワンピースなんだ? 

しかも、イチゴ柄だし、TPOを考えろッ! 俺の計画が台無しだろう。


今更文句を言っても仕方がないので、苺には俺のスマホを持たせて、目的地までの案内をさせている。


「なあキーコ、上陸する場所なんだけど、キーコの住んでいた辺りにしようと思う。もしも、辛くなったらすぐに教えてくれ」

「うん、だけど、こんなに時間が過ぎて、あの時の光景は残ってないと思うから、今はもう平気だよ。あたしの住んでいた場所は、島の先端の方で鬼島ぎじまがよく見える辺りだから、そこを目指してください」


「おい、聞いたか苺、鬼島ぎじまが見える島の先端辺りだ。スマホの位置情報を見ながら、そこまで俺達を誘導しろ」

「いいわね、スマホを見る限りでは、近くに人家はないみたい。上陸するには最適ね。ねぇ、紋次郎さん。自宅に戻ったら、わたしにもスマホを買って。これすごく便利なの」


「あっ、いいなぁ、あたしもスマホが欲しい。これがあれば何処どこに居ても、紋次郎君と連絡が出来て、何時いつでもお喋りが出来る。お願いモンちゃん、あたしと苺さんにスマホを買って」

「あのな二人とも、その手の事は、俺ではなくて桃代にお願いしろ。俺は名ばかりの当主だ。真貝の実権を握っているのは当主代理の桃代様だ」


「また~情けない事を堂々と言う。紋ちゃんは昔から桃代さんの尻に敷かれとるけど、もっとしっかりしんさい! このバカたれが!」

「龍神テメエ、さっきの続きをするつもりか! いいか龍神、いま俺のリュックの中には、お供え用の小さな酒瓶が入っている。また、毒霧攻撃をしてもいいんだぜ?」


「おっと、そいつはダメじゃろう。この海の上で、そげな事をされたら、ワシは意識をうしのうて溺れるで。そうなると、キーコの母ちゃんじゃのうて、ワシの遺骨を持って帰るようになるで」

「ケッ、おまえの骨なんか持って帰る訳ないだろう。海の底に沈んで、魚の餌にでもなっちまえ」


「ふ~ッ、あなた達って、飽きもせず、よく程度の低い争いを続けるわね。それを続けて、お互いを嫌いにならないの?」

「苺テメエ、一人だけ良い子ぶるなよ。そもそも、おまえがスマホを欲しいって言い出したからだろう」


「まったくじゃ。キーコを見てみんさい。ワシと紋ちゃんの言い合いを楽しんどるじゃろう」

「ぷっ、もうダメ。モンちゃんも龍神様もおかしくて、お腹がよじれそう。だけど、凄く仲が良くて羨ましい」


「そう言う事かぁ~ キーコさんの不安を取り除く為に、二人ともワザとふざけていたのね」

「苺! 余計な事を言うな。龍神は知らんけど俺は常に本気だぜ。龍神、毒霧攻撃を受けたくなかったら、安全に急げよ」


「任せんさい。スピードをあげるけぇ、紋ちゃんはキーコを落とさんように、しっかり掴まっときんさい」


これまでもかなりのスピードだったのに、龍神は宣言通り、もの凄くスピードを上げて進んで行く。

俺はキーコが落ちないように、しっかりと支え、苺はあまりのスピードに俺の背中にしがみ付いている。


これならば、思ったよりも早く到着出来る。

キーコの為にも早く到着したい。


・・・ ・・・ ・・・しかし、僅か5分だけでスピードアップは終わった。

やはり、コイツはこういうヤツだ、威勢はいいがすぐにしおれる、まるで・・・・俺と同じだ。


俺たちは予定を早め、休憩に入ることにした。

苺の指示で近くの島に上陸をすると、人の居ない暗い浜辺で休憩する。

もちろんこの休憩は想定内だ。


あと、どれくらい距離があるのだろう? 無理は出来ないが、のんびりも出来ない。

陽が昇る前に到着しないと、瀬戸内海でシーサーペンドの目撃情報が多発する。


俺は元気を出してもらう為に、リュックからキャラメルを取り出すと、龍神の口に放り込む。


う~ん、このキャラメルは一粒300メートルだったっけ? この調子だと、あといくつ食べさせればいいんだ?


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