第214話 もう一つの石牢

頭に巻いた包帯を汚さぬように、上からタオルを巻き、シャベルを持つ俺は、立派な

土方どかたのオッサンだ。

石牢、石のかまくら、そんな感じで形容していたが、実際に全容を見てみると、なんともよくわからない。


ユリの家にある石牢と、形は同じに見えるが、大きさは少し小さい気がする。

ただ、ユリの家にある石牢は、内側からしか見たことがない。今回は、まだ外側からしか見てないので、何とも言えない。


しかし、決定的な違いがひとつある。入り口が見当たらない。

ユリの家にある石牢には、トンネル状の入り口があり、それを通って侵入が出来たのだが、今回はそれが見あたらない。

龍神が山ごと崩してくれたおかげで、それについてはよくわかる。


中を見る為に、俺はまわりの岩をシャベルで叩き、泥や土砂を落として、仕掛けを探してみたが何もない。

何処どこかの岩を取り除き、無理矢理入るしかないのだが、下手に取り除くと全てが崩れて、瓦礫がれきになりそうなので気を付けないといけない。


崩れぬよう慎重に考える俺を尻目に、まるでジェンガの棒を引き抜くように、龍神が岩を抜き始めた。


「ほら、見てみい。ワシはちゃんと抜いたじゃろ。次は紋ちゃんの番じゃけぇ、早うやりんさい」

「いいか龍神、おまえと一緒にするな。この岩を引き抜く力があれば、先におまえのツノを引き抜いてやる」


「もう、ノリが悪いのう。じゃあ全部ワシがやったるけぇ、紋ちゃんはそこでジッとしとけばええ」

「・・・ ・・・ ・・・おいッ、龍神! なんで抜いた岩を俺のまわりに置く? おまえは俺を封印するつもりか?」


「まさか、そんなつもりは微塵も無いで。じゃけど、そこを動かんようにしんさい。桃代さん、紋ちゃんのそばを離れんとって」

「・・・ ・・・龍神様もしかして、さっきのアレですか?」


「そうじゃ、紋次郎に気付き、目を付けたようじゃ。早うここを片付けて、寺の跡地へ戻るしかないのう。アレは、有り余る力を恨みに変えとる」

「紋ちゃん、急ぐわよ。まずは、ここの結界を無効化して、恨みの根源をおとなしくさせないと、大変な事になる」


「はぁ? へっ? 結界? 無効化? 根源をおとなしく? 一体なんの事だ? アレって何だ? おい龍神、俺にわかるように説明しろ」

「桃代さん、中を見てみんさい。かねかねつき棒がある。あんたの言う通りかなぼうじゃ。かねをひっくり返して、中に隠してある物を調べんさい」


石牢の半分くらいの岩を、龍神はあっという間に取り除き、中の様子がよく見える。

中には小型の鐘の半鐘と、それを叩く鐘つき棒の撞木しゅもくが確認できた。


あれ? 何か違う。俺の欲深い好奇心がガッカリしている。


かねかねつき棒でかなぼう? ダジャレかッ! おい桃代、どういう事だ。きんぼうはどうしたッ」

「だからねっ、【想像しな】って言ったでしょう。わたし、金の延べ棒があるとは言ってないよ」


「ぐっ、期待してたのに・・・おい龍神、かねの中に隠してある物ってなんだ?」

「あのな~わかる訳なかろうが。じゃけど、何かがあるはずじゃ。紋ちゃんは桃代さんの手伝いをせんかい。何時いつまでもこげな所でのんびり出来んでぇ」


珍しく焦りの見える龍神に、俺は何も言い返さずに桃代の手伝いをする。

残り少ない石牢の岩をまたいで超えると、桃代の手を取り中に導く。もちろん、最初にヘビの不在は確認した。


約三百年閉じていた所為せいなのか、中に入ると、とにかく臭い。

空気って腐るモノなのか? そうじゃない、異臭の元は土と小動物、それとむしだろう。

足元には、小動物の骨やムカデや甲虫こうちゅうなどのカラの外皮がいひが大量に散らばり、歩くたびに、それがパキパキ、プチプチ潰れる音がする。


モグラなど穴を掘る小動物が石牢の中で死骸になると、大きなむしや小さなむしがそれを喰い、むしが死ぬと土の中に居る微生物がそれを喰う。

やわらかい体の内部を喰い荒らすと、硬い骨や外皮が残る。

閉じた石牢の中で約三百年それを繰り返し、イヤな匂いが残っている。


まあ、それでも、人の死臭がしないだけマシかもしれない。

あとは、キーコのような犠牲者が居なくて良かった。


「龍神様、下手にひっくり返したくないので、この鐘を持ち上げて、他の場所に移してもらえませんか?」

「おっと、そうじゃな、中に何があるか分からんからな。紋次郎、かねに頭をぶつけんように気を付けんさい」


「オメエがぶつけなければ、ぶつかる訳ねぇだろう。変なフラグを立てるなッ!」

「ガハハハ、それじゃ、その調子じゃ。紋ちゃんはそげな感じで、強い気持ちを忘れんように、そうせんと呼ばれるで」


「龍神様、その件はあとで、今はここを片付けるのを優先しましょう」

「そうじゃな。どうじゃ桃代さん? かねをどかしたら、なんぞ出てきたかのう」


「これ、木の台とその上に何かがありますね。経典きょうてんか何かでしょうか? ボロボロでカビだらけなので、さわると手が臭くなりそう。このまま、塩をかけて燃やしますね」

「うむ、それでええ。なんの因果があるか、わからんけぇ、触らん方がええ」


なんだろう? またもや俺だけ蚊帳の外。

桃代はその辺りから小枝をたくさん拾って来ると、台の下に敷き詰めて、火を点け、台ごと何かを燃やし始めた。


お宝を諦めきれない俺は、かねきんで出来ている。

そんな想像をしてかねを調べてみたが、緑青ろくしょうだらけのかねが、きんで出来てるはずもなく、俺は早々に諦めた。


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