第213話 カブトムシ

龍神が爪をひと掻きするだけで、シャベルの数回分、いや十数回分の土砂が巻き上がり、どんどん形が変化して、ピラミッド山の形状が無くなり始めた。


入り口を隠す土砂を掘るはずなのに山全体を掘るとは、ハイパワーなんだがクソ非常識なヤツ。

しかし、すごく効率が良く、タイムパフォーマンスもすごく良い。


僅か数分でピラミッド山の形状は無くなり、桃代の予想通り、中から本当に石牢が姿を現した。


龍神は掘った土砂が、何処どこで、どうなっているか、考えることなく夢中で掘り進めたのだろう。

桃代は龍神の近くで指示を出していた為に、土砂の状態に気付かなかったようだ。


俺は、いま身動きがとれない。

龍神に巻き上げられた土砂で、首まで埋まっているからだ。


最初は顔に向かって来た土砂を、シャベルで叩き落としたのが始まりだった。

飛んで来た土砂の中から、カブトムシのさなぎを見つけて、保護しようと拾い集めているうちに、頭に石が当たり、意識が朦朧もうろうとしているとまたたく間に首まで埋まった。


桃代は埋もれていた石牢を見つけたことで、盗掘熱がうずいているのだろう。

まわりを細かく調べている。

龍神はひと仕事を終えて、満足した顔をしている。


さて、どうしよう? 助けて欲しい状況なのだが、助けを呼ぶとまたバカにされる。

桃代と龍神のどちらかが、気付いてくれるのを待つしかない? 


しばらくすると、姿が見えない俺を不審に思い、桃代が見つけてくれた。


「何やってんのッ、どうしてこんな事になってるのッ、埋まったうえに頭から血を流して、どうして助けを呼ばないのッ!」

「うっ、まさか、埋まるとは紋次郎一生の不覚。すみません、そこのシャベルで掘り起こしてください」


「紋次郎・・・あんた、その為にシャベルを持って来たんか? も~う、紋ちゃんはホント世話を焼かせるヤツじゃのう。どがいにしたら、そげな事になるんじゃ?」

「ぐっ、龍神・・・テメエの雑な仕事の所為せいなのに・・・あのですね桃代さん、オイラはカブトムシのさなぎを見つけまして、死なせたら可哀想でしょう。だから保護してただけなんです。そしたら龍神に石をぶつけられて、こうなったんです」


「紋ちゃん、ワシの所為せいみたいに言わんとって。どう考えても、あんたがバカなだけじゃろ。ほれ、ワシの手を掴みんさい。引っ張り上げちゃる」


龍神にあっさり助けてもらうと、桃代は傷の手当てをしてくれる。

頭に怪我をした事で、龍神は何か言いたげな顔をして、桃代は終始不機嫌だった。


「ももよさん、あなたの考え通り、石牢が見つかりましたね」

「・・・ ・・・」


「ももよさん、中が気になるでしょう。早いとこ見てみましょうぜ」

「・・・」


「あの~ももよさん、次からは気を付けますので、今回は特別に勘弁してもらえません?」

「紋次郎・・・ごめんね。わたしが他事ほかごとに気を取られた所為せいで頭に怪我をさせて。当たり所が悪かったら大変な事になってたのに、ごめんなさい」


「いや、全部俺の責任だし、謝られる理由がわからん。それよりも、早く中を調べようぜ」

「ダメ、これ以上バカが進むと、取り返しがつかないから、病院に行って検査をしてもらいましょう。脳に障害が出ても、わたしは見捨てないからね」


「またか・・・いいか桃代、俺は何も取られてないし、取り返す必要も無い。石がぶつかったくらいで騒ぐな。てか、普通にバカ扱いすんな」

「なによ~ッ、わたしが心配してあげてるのに、少しは反省しなさいよ。バカみたいな怪我をして、わたしだけじゃない、キーコにも負担になるでしょう」


「うっ、その通りです。怪我をしないよう注意されてました。桃代さんこの事は内緒にしてください」

「あのね~わたしが言わなくても、頭に包帯を巻いてる時点でばればれで、誤魔化しようがないでしょう。そんな事もわからないからバカ扱いされるのよ」


「ふんッ、キーコにはちゃんと詫びて許してもらうからもういい。それより、早くお宝を拝もうぜ」

「まぁ、大丈夫だと思うけど、気持ち悪くなったり、吐き気がしたらすぐに言うのよ。脳内出血の可能性があるからね。龍神様も、紋ちゃんのれつが回ってなければ、教えてください」


「うん、まあ、それはええけど。紋ちゃんは何時いつも空回りをしとるけぇ、何が正常で何が異常か、ようわからんのじゃ」

「ぐっ、このヤロウ、俺のバカにトドメを刺そうとしやがって・・・」


空回りをするのなら、れつが回ってなければ気付くだろッ。

そう言いたい気持ちを我慢する。


俺はカブトムシのさなぎを埋め戻すと、さっさと石牢に移動して、中を見る事にした。


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