第176話 奇妙な一致

ユリに教えてもらった通り、すぐ近くに川は流れていた。

護岸工事がきれいにされて、悪夢に出て来た河原は何処どこにも無い。

たいした水量ではないのに、この工事は必要なのか? つい、余計な事を考えてしまう。


悪夢の中で見た河原の面影は何処どこにもないが、遠くの方に見える山は同じような気がするし、周りの景色も何処どことなく似ているような気がする。


偶然とは思えない、どういう事だ? よく考えろッ。

 

待てよ、悪夢を見たのは、俺に妙なモノが取り憑いて流してもらった日の夜だ。

あの憑き物を生んだのは、夢の中の主役のホオズキで、その原因になった出来事を、俺は悪夢という形で疑似体験をさせられたのではないか?


だが、ピラミッド山の中には人の骨は無かった。

では、夢の中に出て来るホオズキは、いったい何者だ? 

龍神は化け物と言っていたが、夢の中の俺は普通の子供のような気がした。

もしかすると、成長してない子供の骨だ、長い時間を掛けて微生物に分解されると、ピラミッド山の中で土に還ったのかもしれない。


どちらにしても、数百年前の出来事だ、今更どうする事も出来ない。

俺に出来るのは、酷い目に遭った事で恨みを残した、ホオズキという存在を忘れないようにするだけだ。

出来れば墓参りをしてやりたいが、何処どこにあるのか? 墓があるのか? それすらも分からない。

ユリにそれとなく聞くしかないな。


夢には出てこない新しく出来た橋の上で、景色を眺めながら、俺はそんな事を考えて結論付けようとしていた。


その頃、桃代はふみの確認を中断すると、ユリと桜子の案内で蔵に入り、文箱ふばこを見つけた天井裏の確認をしていたそうだ。


「そう、この文箱ふばこはその箱の中にあったのね・・・でも、おかしくない? 紋ちゃんが蔵に入って、この文箱ふばこを見つけて出て来るまでの時間を考えて、これだけ物があふれているのに、どう考えても早過ぎない?」

「あ~~っ、そう言われるとそうだッ。紋次郎君ったら、迷う事なく文箱を見つけました。まるで、初めからここに文箱ふばこがあるのを知ってるかのようでした。ねぇ、ユリさん」


「そ、そうね、そう言えば不思議よね。この場所ですら、わたしは知らなかったのに紋次郎君はピンポイントで探し出しました。ねぇ、桃代さん、紋次郎君って何者なんですか? あと龍神君って誰ですか?」

「龍神君?・・・桜子あなた、また口を滑らせたの? 注意しないと、秘書の業務に支障が出るわよ。ユリ、龍神様の事は忘れなさい。知れば、あなた自身が真貝の一族の一員になるわよ」


「えっと、それは、これからも桃代さんと一緒に居られるって事ですか? もしもそうなら、是非とも知りたいです」

「また~っ、百合はすぐに結論に跳び付こうとする。もっとよく考えないさい。とにかく、それは一旦保留にしておきなさい。それよりも桜子、文箱ふばこを簡単に見つけられたという事は・・・」


「あ~~~ッ、紋次郎君! この文箱ふばこに呼ばれたんだ! またトンデモない事が起きますよ!」

「そうなのよ。だけど、紋ちゃん自身は呼ばれた事に、まだ気付いてないの。あの子はどうして自分の危機に対して鈍感なのかしら」


「桃代姉さん、今回はヤバいですよ。文箱ふばこの中にあるモノを読み終えて、何を伝えたいのか理解して、早く解決の目処をたてないと、紋次郎君がまたれて行かれます」

「そうね、取りあえず、川を見に行った紋ちゃんを迎えに行きましょう。れ去られる前に」


ホオズキの恨みを受け取り、龍神に流してもらった事で、この件は解決したと、結局俺は結論付けた。

ホオズキおまえは、可哀想かわいそうなヤツだった。

だけど、俺にはどうする事も出来ない。

過去を変える力を、俺は持ち合わせて無い。

というか、俺はなんの力も持って無い、ただの凡人だ。


橋の上で心痛しんつう面持おももちで遠くを見ている俺に、向こうからもの凄い勢いで、桃代を先頭にユリと桜子の三人が走って来る。

ヤバい! 殺される・・・そんな気がするほど、殺気をみなぎらせた顔をしている。


当然、逃げる事も叶わず、俺はあっさり桃代に捕まった。


「なんのつもりだ桃代、どうして俺に手錠をはめる。ユリ、腰に巻いたロープはなんだ? 俺は罪人かッ! 桜子、額に貼ったおふだはなんだ? 俺はキョンシーかッ! おまえ等、いい加減にしないと俺は姿をくらますぜ」

「ほら、やっぱりッ、姿を消そうとしてる。紋次郎君ッ、誰に呼ばれたのッ、白状しなさい!」


「桜子、おまえはついに頭が壊れたかッ。俺の言葉尻を捕らえて、訳の分からん事をぬかすなッ!」

「あ~もうッ、桜子は静かにしなさい。そうじゃなくて。あのね、紋ちゃんに聞きたい事があるの。あの文箱ふばこを、どうして簡単に見つけられたの?」


「えっ? だって、桃代さんがいしろうだって言ったんですよ。そこに、盛りをして隠す忌まわしい物なんだろう。そうしたら、その資料は見つけづらい場所にあるはず。だから、そういう場所に当たりを付けたんだけど、なんか変か?」

「そうね、何も変ではないわよ。さすがは紋ちゃん。でも、天井裏にはいくつか荷物があった。それなのにどうしてアレを選んだの?」


「そんな事を言われても・・・カン? 俺はガキの頃に、事故に遭ったあとから自分の直感を大切にしているからな」

「何も説得力はないけど、納得した。あとね、どうして文の中に出て来る人の名前を聞いたの? 名前を聞いた途端、驚いた顔をしてのはどうして?」


「うん、理由を話すのは構わない。ただね、いい加減この手錠を外してくれません。ユリおまえもだッ、ロープをグイグイ引っ張るな、痛いだろうッ。桜子ッ、おまえは両手が自由になったらシバいてやるからな!」

「ひ~~ッ、怒らないでください。紋次郎君が心配だったんです。すぐにおふだを外します」


手錠とロープを外してもらい俺は自由になった。

シバかない代わりに、額のおふだを桜子の額に貼り直す。しばらくの間はキョンシーの気分を味わうがいい。


自由になった俺の手を、桃代は強く握って離さない。

何を考えているのやら?


桃代の質問に答える為に、俺は悪夢の内容を話す事にした。


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