第175話 文箱
ユリに
桃代の隣に移動して椅子に座ると、事情を説明した後で
ユリと桜子も蔵から出て来ると、桃代の
桃代はざっと目を通した後で、俺にも分かるように書かれた時代とその背景を、先に説明してくれた。
俺が蔵に居る
今も充分裕福に見える。
こんな物が残せるのは、裕福だった証拠らしい。
それに、これを書いた人間は、まだそんなに
そんな前置きをした後で、桃代は文を読み始めた。
「え~っと、ちょっと待ってね、紙が傷んでるし、読み辛いから。なになに、【わたしは今日も熱が出て、お留守番だ。家族の者は野良仕事に出掛けた。父さんと兄さんだけは、船で魚の日干しを本土の問屋さんに卸しに行った。わたしも行きたかったな。でもいいや、本土に行くと、わたしの好きなきんつばを、お土産に買って来てくれるから】ふ~ん、これを書いた子は、
「なあ桃代、蔵の屋根裏が座敷牢みたいだったけど、これを書いた子が隔離されてた。その可能性はないのか?」
「う~ん、その可能性は低いわね。元禄の時代にこの辺りで、疫病が
「桃代さん、出来ればその話は内緒にしてください。島から出たあの頃は、戸惑う事ばかりだったんです」
「だからって、あんなあからさまなサークルの誘いに乗らないの。なんなの、けん玉同好会って? 夏はダイビング、冬はスキーって意味がわかんない」
じゃあ、おまえが主催した、ミステリー発掘盗掘ミイラ研究会は意味がわかるのか、俺はそう思うが、決して口に出さない。
ミイラの単語が出た途端、桃代が脱線するのが目に見えているからだ。
「では、続けるよ【今日は調子もいいし暇だから、散歩に出かける事にした。暑いから涼む為に河原に行くと、見た事のない女の子がいる。なんか泣いてる? わたしは気になって声を掛けた。それからその子と友達になった】って、何か唐突ね。けん玉同好会の悪い噂を教えてあげた途端、わたしに懐いたユリみたい」
「あの~桃代さん。いちいちわたしを引き合いに出すのは、やめて頂けると、家族の者が心配しますので」
「いいでしょう、事実なんだから。けん玉同好会の奴ら、婦女暴行で逮捕されたけど、ユリが被害者にならなくて本当に良かったわ」
「はい、桃代さんのおかげです。わたしは、桃代さんのミステリー発掘盗掘ミイラ研究会に入って本当に良かったです」
確かに、ユリが婦女暴行の被害者にならなくて良かったと思う。だが、代わりに盗掘で逮捕されるぞ。
俺と桜子は目を合わせると、そんな会話を視線の先で交わしていた。
「え~っと、次の文は、なになに【その子は、どうやらこの島の人ではないらしい。話を聞くと、舟に乗り
「あの~桃代さん、
「なあに? もう忘れちゃったのユリ。もう一度わたしの講義を聞く?」
「あ、いえ、そういう訳ではないです。それよりも、紋次郎君が難しい顔をしてますが、何か不明点でもあったのでしょうか」
あれ? なんだろうこの内容? 何か憶えが有るような無いような? なんだっけ?
「どうしたの紋ちゃん、頭をひねっているけど、何か分からない事でもあるの?」
「いや、続きを頼む。出来ればこれを書いた子と、その友達の名前を知りたい。あとところどころ、おまえの感想をぶち込むのはやめてくれ」
「うっ、ユリの
「!!・・・まさか?」
「えっ! わたしですか? わたしは書いた記憶がありませんけど」
「当たり前でしょう。300年前の
「うっ、桃代さんだって、くだらない事を言って、紋次郎君に注意されたくせに」
「なあにユリ、わたしに反旗を翻すつもり? そのつもりなら、こっちにも考えがあるわよ」
「ごめん桃代、ちょっと静かにしてくれる。ユリ、さっき
「はい? 文の中に出て来る河原かどうかはわからないですが、すぐ近くに川は流れてます。でも、わたしが小さい時に護岸工事をしたので、いま河原はないですよ」
「そうか、一応場所を教えてくれ。少し見てくる」
ユリに場所を教えてもらうと、俺は急いで河原に向かう。
なんだろう、偶然かもしれないが、俺が見た悪夢の内容と妙に一致している。
あの悪夢の中で、百合の友達になったのは俺だった。
じゃあ、俺がホオズキとして300年前に体験した事なのか?
いや、そんな
俺の前世は千年前の紋次郎なのだから、仮に300年前にホオズキとしてこれを体験していたのなら、千年前の俺の記憶は、かなり上書きをされている筈だ。
もしも、別の人格が混ざっていれば、桃香が俺に気付く訳がない。
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