第177話 結論

悪夢の内容を話そうとしたが、桃代の提案で、先に場所を変える事になった。

今日は日射しが強い上に、日陰の無いの橋の上だ、この場所に居続けるのはユリがつらそうだからだ。


一旦ユリの家に戻ると、昼食の用意がされていて、休憩がてら食事をするが、親しくもない他人の家での食事は、正直息が詰る。

助けてもらった恩を感じているのか、ユリの両親とじじばばは、何かと俺に話をふるが、それに答えるのも面倒くさい。


食事の後で桜子から、【もう少し愛想を良くしなさい】と注意をされるが、そんな事を言われるのも面倒くさい。


俺の態度を見ていた所為せいなのか、桃代がユリの部屋を見たいと言い出して、桜子を含めた四人で二階にあるユリの部屋に行くと、そこで話をする事になった。


念の為に、外で待機している龍神にも聞こえるように、桜子に窓を開けさせて、二日続けて見た夢の始まりから説明する。


まずは、ユリが訪ねて来た日の夜に初めて見た悪夢の内容を、俺は脚色しないように見たまま、感じたままを淡々と話す。


一日目の悪夢の内容を聞き終わり、ユリは【酷い夢ですね】っと感想を漏らし、桜子は【わたしを斬らないで】っと茶化した。


俺は斬る方ではなく斬られる方だったのに、桜子が真面目に話を聞いてないのがよくわかる。

新聞紙を丸めてシバいてやりたいところだが、近くに新聞紙が無いので諦めた。


ただ、桃代はこの二人とは別だった。

真剣な顔つきで話を聞いてくれて、話しの中の矛盾点を俺に指摘した。


「ねぇ、紋ちゃん。いまの話の中に少し気になるところがあるの。侍は一人でやって来たのよね。そして無抵抗の女と子供を大勢斬り殺した」

「うん、そうだな。そんな感じだった」


「でも、話しの中で何者かに、金目かねめの物と食べ物を探すように命令している。命令を受けた方は、浜辺の小屋から干物を持ち出して口にしていた。侍は一人ではないよね、他にも誰かいる。その辺はどうなの?」

「・・・あれ? そう言えばそうだな。桃代さん、なんで?」


「さぁ? いまのところ、わたしにはわからない。あと牙をむいて威嚇する犬もいた。この犬は誰が飼ってた犬なの? 粗末な服しか着てない島民なんでしょう、犬を飼う余裕があるのかな?」

「・・・あれ? そう言えば、あの犬は誰に向かって吠えてたんだろう?」


「まあいいわ、続きを話して。一度目はユリにいたモノを流した日の夢だよね。二度目はユリの父親にいたモノを流した日の夢よね。前日に見た夢の続きを翌日見るなんて、普通はあり得ないよね」

「そうだな。なあユリ、おまえはどうなんだ? 洞穴ほらあなに入ってから今まで、俺と同じような夢を見なかったのか?」


「いえ、わたしは見てないですね。紋次郎君のところに泊めてもらった日の夜は、桃代さんと一緒にお風呂に入っている夢を見ました。そうしたら途中で紋次郎君が乱入してきて、オッパイを見られちゃいましたよ」

「うわ~ッ、紋次郎君サイテー。桃代姉さんだけでなく、ユリさんまで毒牙に掛けようとしている」


「桜子、おまえは本当に学習しないな。おまえの黒歴史の動画をテレビに接続して、梅さんの前で上映するか?」

「ウソです。いい過ぎました。毒牙があるのは毒ヘビだものね。ヘビ嫌いの紋次郎君には不適切な表現でした、すみません」


そういう事を言ってる訳ではないが、桜子は面倒なので無視して、取りあえず次に見た、夢の続きをありのまま話す。


「う~ん、今の話を聞く限りでは、夢の中の紋ちゃんは、百合が書き残したホオズキっていう子供と妙に一致してる。それだと確かに気になるよね。河原の確認に行ったのもうなずける」

「まあな、でも、川の景観はまるっきり違った。だけど周りの景色、特に山の景色は夢の中とよく似てた。なあ桃代、ホオズキの俺は百合と友達になって、その後はどうなったんだ?」


「ごめん、まだ全部読み終わってないの。これから読み進めて調べてみるわ。ただね、そうなると、紋ちゃんがホオズキとして経験した、その悪逆非道な惨殺ざんさつも、事実という事になるわよね」

「そうなんだよ、あのき物の所為せいで悪夢を見たのなら、かめに呪いを掛けて呪物にしたのも、あれを経験したホオズキって事になるよな」


「桃代さん、そんな史実は聞いた事がないです。いくら昔の事とは言え、それだけむごたらしい事をすれば、何かしら記録が残っていそうですが」

「ユリは推測しなさい。記録なんていくらでも改ざんが出来る。ましてや、どちらか一方が優位に書かれているモノも多い。まずは仮説を立てて、自分の頭で考えなさい」


「あっと、すみません。感じた事を、そのまま口にしてしまいました」

「そうするとだな、また別の疑問が出て来るぜ。百合と友達になったホオズキは、どうして石牢に入れられたんだ? 子供をあんな牢に入れるか?」


「そこよね、夢の中でのホオズキは被害者。牢に入れられる理由がない・・・まぁ、それに関しては、百合の残したふみを読み進めるしかないわね」

「そうですね、それは桃代さんにお任せします。だけど、身体からだが弱くて一人ぼっちの百合と友達になるくらいだから、悪い子とは思えないのですが」


「今のところは分からないわね。このあと、本当に悪事を働いたのかも知れないし、昔話に出て来る鬼のように、一方的に悪いと決めつけられた。かも知れない」

「なあユリ、俺はコーヒーが飲みたい。悪いんだけど、お願いしてもいいか?」


「へっ? あっ、はい、すみません気が付きませんで、いまお持ちしますので、少しお待ちください」


ユリの部屋なのに、一旦主には退場してもらう。

龍神の意見を、桃代にも聞いてもらいたいからだ。

桜子に見張り番をさせて、窓越しに龍神の話を聞いた桃代は、難しい顔をして考え込んでいる。


今日一日が何もなければ、いしろうの中に居た化け物、ホオズキだと思うが、すでに死んだと結論付けたので、桃代と龍神が話をしている間も、俺はわりと気楽にしていた。


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