第168話 連絡

キーコも弁当を食べ終わり、一緒に居る理由はなくなった。


キーコの姿に同情をするつもりはないし、良い人になりたい訳でもない、中途半端な事をしても意味が無いのもわかっている。


それでもキーコの言う通り、この世の中に味方が一人くらい居るのを覚えて欲しくて、俺はコイツを誘ってみた。


「おいキーコ、おまえは明後日の祭日はヒマか? 何か用事があるか?」

「え~と、明後日ね・・・まぁ、いいか。大丈夫、なんとかなるよ。でもなんで?」


「明後日なんだけど、ここで待ち合わせをして、島の案内をしてくれないか。バイトだと思ってくれたらそれでいい、対価は払う」

「紋次郎君。もしかして、あたしの事を口説こうとしてる? さんざん子供扱いしたくせに・・・って、ウソです。ふざけてる訳ではありません」


「いいかキーコ、さっきも言ったが、俺はおちょくられるのが嫌いだ。おまえは妙にこまっしゃくれた事を言うけど、気を付ないとダメだぞ」

「怒んないでよ。なんでだろう。なんでかモンちゃんを、からかいたくなるのよね」


「ぐっ、コイツもか。いいかキーコ、おまえとは今日が初対面だ。それなのに、見透かしたような事を言いやがって。逆に聞こう、なぜ俺を揶揄からかいたい」

「だって、雰囲気が・・・あとは、とにかく楽しいの。モンちゃんだって会話が弾んで楽しいでしょう」


「もういい。いいかキーコ、そういうのは俺だけにしろ。バカな子供こども親父おやじに言うと、酷い目に遭うぞ」

「うん、絶対に言わない。だから、またあたしと楽しくおしゃべりをしてくれる?」


「明後日を楽しみにしていろ。島の案内でたくさん喋らせてやる。それと、これを持って行け、腹が空いたら食べろ」


俺は袋に入るパンとお菓子を、両手いっぱいになるまでキーコに持たせる。

すまん龍神、おまえのおやつは無くなった。


初めて会った俺に親切にされて、キーコは驚いた顔をしたあと、照れた笑い顔をしていた。

俺は食べ終わったゴミを袋に入れて、キーコの頭を撫でると元の道に戻り、龍神が待つ海岸へ急ぐ。

もちろん、ユリが居ないのは確認済みだ。


荷物がだいぶ減ったので、テントを張った場所には、すぐに到着した。

龍神は姿を消しているのだろう、何処どこにも見当たらない。

姿は見えないのだが、グゥグゥと腹の鳴る音が聞こえるので、ここに居るのは確かなようだ。


「待たせたな龍神、弁当を買って来たから姿を現わせ」

「紋ちゃん、遅すぎるじゃろう。ワシはなんぞ不味い事でも起こったんかぁ思おて、心配しとったんで」


「ごめんって、ユリに見つからないように、遠回りをしたり隠れたりしてたから、時間が掛かったんだよ」

「そうなん? その割には、自分だけ弁当を食うとるけど、それはどうなん?」


「これは、隠れるのに協力をしてくれた、子供と一緒に食ったんだよ。腹が空いてんだろう、早く食えよ」

「冷たいのう。ワシは一緒に食いたかったのに。まあええ、それよりも紋ちゃん、あんたのスマホなんじゃけど、やたらとブルブル震えとったけど、寒がりなん?」


「おっと、テントの中に置き忘れてた。え~っと、桃代から連絡があったようだな。

・・・・・・マズい! 連絡を入れるの忘れてたッ!」

「あのな紋ちゃん、あんたに連絡が取れんけぇ、ワシに連絡があったんで。ワシは【大丈夫じゃ】って言うたんじゃけど、もの凄く優しい口調で返事をされて、逆に怖かったで」


「あっ、最悪だ。桃代が優しい口調の時は、機嫌が悪くなった証拠・・・どうしよう龍神・・・・って、なに呑気のんきに弁当食ってんだよ」

「あのな~早く食えって言う割には、食ったら食ったで、呑気のんきに食っとるって、変な八つ当たりはやめてくれんか。それよりも早う連絡せんかいッ!」


まあ、当たり前なのだが、全て俺のポカだ。

着信履歴百八回、煩悩の数だけ連絡をしている。

俺は、しゅもくで突かれる除夜の鐘の気分になった。


「もしもし桃代さん、紋次郎ですけど、連絡が遅くなってすみません」

「・・・ ・・・ ・・・」


「もしもし桃代さん、聞こえてますか? こちらは問題ありません」

「・・・ ・・・」


「もしもし桃代さん、お忙しいようでしたら、また改めます」

「・・・」


「あのですね、連絡が後手になったのは謝りますが、こちらにも都合がありまして、そこは理解して頂けると助かるのですが・・・ももよさん、返事をしてください」

「ふ~~~ッ、紋ちゃんさぁ、子供じゃないんだから言われた事は守ろうよ。わたしだけじゃない、ユリも【紋次郎君が消えた】って心配してるよ。どうして居なくなるの?」


「居なくなってないし、ちゃんと居るし。だいたい会ったばかりのユリの家で、世話になれる訳ないだろう」

「そういう事ではないの。真貝の当主として、ちゃんと挨拶をしなさいって言ってるの。それに、紋ちゃんのおかげで、ユリの父親は元気になったんでしょう。何を遠慮する事があるの?」


「だって、俺は水を浴びただけだし、濡れてるから風呂に入れって言われても・・。もしも、【お世話になりました背中を流します。】なんてユリに言われたら、どうすんだよ」

「あ~~っ、無意味に義理堅いからユリなら言いそう。でも、わたし以外の人に背中を流してもらったら、打ち首獄門だからね」


「また始まった。おまえはどうしたいんだ? 俺が心配なのか? それとも俺にトドメを刺したいのか? ハッキリしろッ」

「なんで怒るのよ。紋ちゃんから連絡が無くて、どれだけ心配したか。それなのに、わたしを責めるの?」


「うっ、ごめんなさい。全面的に俺の落ち度です。背中を流されるのは当然断わります。浮気も当然致しません。だから、打ち首獄門は勘弁してください」

「むふっ、全面降伏をしたから許してあげる。いい、他の女の子と仲良くしたらダメだからね」


「わかってる。俺にそんな器用な真似が出来る訳ないだろう。オイラには桃代さんだけですよ」

「よ~し、最初からそう言いなさいよ。ユリにはこちらから連絡をしておく。わたしも早く仕事を終わらせて、そっちに行くから、楽しみに待っていなさい」


なんとか桃代をやり過ごせた。

明日からはちゃんと連絡をしないと、また気恥ずかしい事を、口に出さないといけない。

龍神のヤツ! 何か言いたげな顔でニヤニヤしやがって、腹立つぜ。


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