第169話 悪夢続き

夜も更けてテントの中で寝る前に、龍神の光る鱗の事を思案する。

ここは誰もいない離島の海岸だ、人工的な明かりが無いこんな場所で、カラフルな光を発するヤツがいると、悪目立ちをして仕方がない。


どうするか悩んでいると、龍神は砂浜に穴を掘り、その中に身を隠し、上から砂をかぶせるように俺に命じる。

本人曰く、砂風呂みたいで心地いいとの事だった。


なるほど、ちゃんと考えているようだ。

だけど、おまえは砂風呂に入った事があるのか? その疑問に関しては聞かないでおいた。


目を閉じると、波の音しか聞こえない。

同じ水の音でも、流れる川のせせらぎと、寄せては返す海の波はまるでおもむきが違う。


普段聞きなれない単調な水の音で、俺はすぐに眠りに落ちた。




眠りについた俺は、また夢を見ている・・・・・・・・あの、悪夢の続きだ。

これは誰の夢なのだろう? 夢なんだから何でも有り。

確かにその通りなのだが、夢の中の俺は年齢が大きく違い、性別までも違う。

見ている俺自身が、不思議な感覚に囚われる。


夢の中の自分はなんとか助かり、安堵と疲れから眠っていたようだが、真上から太陽に見下ろされ、ジリジリと身体からだが焼かれる暑さで目を覚ました。


ここは何処どこだろう、自分は何をしてたのだろう、そんな事を考える余裕が無い。

暑さと喉の渇きの所為せいで、今はそれどころではない。


水の匂いを頼りに歩いていると、雨水をたたえた水たまりを見つけたので、両手を地面につけて、顔を近づけすするように飲んでいく。

水面をアメンボが滑っているが気にしない。


しかし、足りない。水たまり程度の水分では、まだ足りない。

だが、僅かな水分でも極限は脱しられ、耳を澄ますと、この先にある水の流れる音に気がついた。


あまりに喉が渇いていた所為せいで、目の前にある水たまりに気を取られて気付かなかった。この先に、飲んでも無くならない川がある。


草をかき分けて転がるように河原に行くと、流れの中に身をひたし暑さと渇きをいやす。


あとは、この空腹をどうにかする為に、魚が隠れて居そうな大きな岩に、上からデカい石を叩き付け、その衝撃で浮いた魚を捕まえると、石で潰して身を食べる。

生臭いが、刺身だと思えば平気だ。

落ち着いたところで、やっと自分の状況が考えられるようになってきた。


確か、一人の狂った侍が家来を連れて、みんなの住む島に突然現れると、有無をいわさず惨殺を繰り返したはずだ。

侍が刀を抜き、島民を次々に斬り始めると、母ちゃんはわたしを小舟に乗せて、ゴザで覆い隠れさせた。

でも、近所のおばちゃんが自分が逃げる為に、止めてある縄を解いたから、わたしだけ海に流されたんだ。


おばちゃんは縄を解き終わると、斬り殺されていた・・・・・・・母ちゃんも・・・


あいつッ! 絶対に許さないッ! 必ず見つけて殺してやるッ! あいつだけではなく、家来もその子孫も殺す。

あいつの縁者は七代にわたり、呪い、苦しめ続けてやる。


わたしは、自分の状況を思い出した。

でも、ここが何処どこなのか、分からない。

ただ、海を漂い偶然見つけて泳ぎ着いた場所だ、何処どこに戻ればいいのかも、分からない。


この時に初めて一人になった事を実感すると、不安と寂しさ、それに悲しみで涙が流れ始めた。


そんな時だった、そんな、どうしようもないわたしに、ひとりの女の子が【何してるの】と声を掛けてきた。

驚いて顔を上げると、わたしと同じくらいの年齢に思える、11~12歳女の子が、目の前に立っていた。


泣いてる所を見られたくないわたしは、目をこすり、女の子をよく見ると、明るく活発な雰囲気もうかがえるが、病におかされているようにも見える。


目が赤くなっていた所為せいで、泣いていた事はバレてるのに、女の子は何も言わずに、持っていた和菓子を二つに割ると、半分をわたしに差し出して、【一緒に食べよう】と笑ってくれた。


わたしは、どうしていいのか分からない、人に初めて親切にされたのだから。

女の子は、戸惑うわたしに割られた和菓子を握らせて、残りを食べ始めた。


人にほどこしを受けたくなくて、投げ捨てようかと迷うが、口の中が生臭いのと、本当はまだお腹が満たされてないのとで、餓鬼がきのようにかじり付いてしまった。


口の中に広がる小豆の甘さ、こんなに美味しい物が世の中にあるなんて、母ちゃんにも食べさせたくて、わたしは我慢が出来ずに、やっぱり泣き出してしまった。


女の子は慌てる事なく、泣いているわたしの背中に手を置いて【はい、手当て】と泣き止むまでさすってくれた。


「悲しい事があったのね。でもね、泣いてると悪いモノが寄って来るから、何時いつまでも泣いてるとダメなんだよ。ほら、【泣きっ面に蜂】って言うでしょう」

「う、うん、誰だか知らないけど、ありがとう。わたしはホオズキ、あんたの名前はなんていうの?」


「わたし? わたしの名前は百合よ。ねぇホオズキ、わたしの友達になってくれる?」

「う、うん、何時いつまでここに居るか分からないけど、わたしでよければ」


「よかった。わたしね、身体からだが弱くて他の子と一緒に遊べないのよ。だからホオズキが、わたしの話し相手になってくれると嬉しいの」

「いいよ、わたしの知ってる事はなんでも教えてあげる。だから、百合もこの島の事を色々教えて」


わたしは百合と友達になった。


百合?・・・・・・・えっ! もしかしてユリの事なのか?

俺はビックリして目を覚ました。


何かの暗示かと思っていたが、あれがユリならば、俺には関係ない。

深く考える必要は無い。


俺は寝直そうと寝返りをして、顔を横に向けると、更にビックリして二度寝どころではなくなった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る