第167話 キーコ
俺は林の中にある松の木にもたれて、
その正面には、初めて会ったキーコと言う名の女の子が地べたに座り、一緒に弁当を食べている。
なんだこの
まあ、ユリから逃げる為の、苦肉の策なのだから仕方がない。
世間一般では、これを自業自得と言うのだが、バカな俺は自分に非があるとは思ってない。
俺はキーコにお礼を言うと、食べながら、この島の事を聞いてみた。
「なあキーコ、この島ってどんな所なの? 島の人達はどんな人達なんだ?」
「あのね~あたしの名前はキコ、キーコって伸ばさないの。紋次郎だってモ~次郎って、呼ばれたら牛みたいで嫌でしょう」
「うっ、おまえガキの癖に、なかなか嫌な言い方をするな。だって仕方ないだろう、キコって呼び辛いから。キーコの方が呼び易いし、なんか可愛いだろう」
「う~ん、まぁいいかっ、可愛いって言ったから許してあげる。あと、あたしは
「おまえ、まぁまぁ面倒くさいヤツだな。ほら、ちゃんと魚も食え。子供扱いをされたくなかったら、好き嫌いをするな」
「う~~紋次郎のイジワル。あたしは
「なんだ、アレルギーでもあるのか? そうでなければちゃんと食え、俺は好き嫌いをするヤツが嫌いだ」
「わかったよ、嫌われたくないからちゃんと食べるよ・・・あれ?臭くない。あれ?美味しい。モンちゃん、これなら食べられる」
「そうだろう、昔は流通が悪かったから、鰯は臭かったらしいぜ。あと、モンちゃん言うな。それよりもキーコ、おまえは
「・・・父ちゃんは知らない、母ちゃんは死んじゃった・・・あたしも最近目を覚ましたばかりだから、なんかよくわからない」
「そうか、俺も事故で両親が死んだ。事故の後も、ずっと昏睡状態で俺も目を覚まさなかった。ついでに、記憶も飛んじゃった。だからキーコも落ち込むな」
「あたしの記憶は飛んでないよ。ちゃんと昔の事を覚えてるもん。じゃあ、モンちゃんは頭の中が空白なのに、どうしてあの女から逃げてたの?」
「空白って言うな。それだと、頭の中が空っぽみたいだろう。それに記憶は戻った。あの女から逃げていたのは面倒だからだ」
「ごめんなさい。でも、記憶が戻って良かったね。それなら、どうして面倒なの?
さては、スカートの中を覗いたんでしょう」
「阿呆ッ、子供の癖につまらん事を言うな。ほら、このから揚げも食え、食べたかったんだろう」
「わ~い、ありがとう、モンちゃん・・・あれ? 今あたし誤魔化された? 紋次郎君、本当にあの女の人のパンツを見てないの?」
「ヘヘッ、なかなかエッチな紐パンだったぜ。って、そうじゃねえ。いいかキーコ、俺はおちょくられるのが嫌いだ、二度とパンツの話をするな」
「アハハ、紋次郎君っておもしろい。ついでにキコのパンツも見っ・・・ごめんなさい、そんなに睨まないでください。もう、ふざけません」
「いいかキーコ、世の中には妙なヤツがたくさん居る。子供のおまえは冗談のつもりでも、本気になるバカな大人も居る。気を付けないと大変な事になるぞ・・・まあ、おまえをここまで連れて来た、俺が言っても説得力はないけどな」
「わかった。ありがとうモンちゃん、あたしの心配をしてくれて。もうパンツの話はしない」
俺は老婆心ながら、両親がいないキーコに注意を与えた。
祖父や祖母、もしくは親戚に引き取られているのだとは思うが、もう少しコイツと話をして欲しいと思う。
俺は先に食べ終わり、キーコを見ていて気が付いた。
妙に粗末な服を着ている。
事故の
擦り切れ、穴が開き、洗濯をしても汚れの落ちない、自分の子供のボロいお
更に、給食費すら出し渋り、何か月も滞納した為に給食を止められて、常に俺も腹を空かせていた。
引き取られた頃は、申し訳ない気持ちもあったのだが、夜中に見てしまった。
俺の両親の保険金が、入金されたと喜んでいる場面を。
その
だが、相変わらず俺は粗末な服を着て、相変わらず腹を空かせていた。
中学を卒業すると、【今まで育ててやった恩を、忘れないように】念を押された上で、仕送りを約束させられて、住み込みの工場に押し込まれた。
もちろん、一度も仕送りをする事なく、1か月だけ働き、ひと月分の給料を貰うと、そのまま姿を消してやった。
今のキーコと、昔の自分が妙に重なる。
だが、自分の思い込みで判断してはいけない。
そんな子供は今の世の中に、掃いて捨てるほど居ると思う。
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