第161話 梅さん

買い物に誘うと、桜子は珍しく文句を言わずについて来た。

コイツもあまちゃんが苦手なのだろう。

二人で山道をくだりながら、俺は気になる事を聞いてみた。


「なあ桜子、昨日の夜は大丈夫だった? ユリと一緒にいて何か異変はなかった? 変な夢とか見なかった?」

「んっ、特に何もなかったよ。ユリさんとは楽しくお喋りが出来たし、変な夢も見なかったからね。紋次郎君は何かあったの?って、桃代姉さんが一緒だもんね。真夜中にベッドの中でのコブラツイスト、異変だらけだよね」


「なあ桜子、最近のおまえは、桃代に似て下品だよな。それから、俺が当主だって事を忘れてんだろう。今の発言を梅さんが聞いたら、おまえはどうなる?」

「うっ、婆ちゃんには内緒にしてください。婆ちゃんに知られたら、わたしの嫌いなおかずばかり出るから」


「いい年齢としして、まだ好き嫌いがあるのか? そんなだから、大きくならないんだよ」

「紋次郎君ッ、今のはセクハラだからね! そりゃあ、桃代姉さんにみたいに大きなオッパイじゃないけど、わたしだって人並みの大きさなんだからね」


「あのな桜子、俺は身長の事を言ってるの。面倒くさいから乳の話をするな」

「うっ、誘導尋問に引っ掛った。紋次郎君って、ホント意地悪なんだから」


桜子を連れて来たのは失敗だった。いったい何が誘導尋問なんだ?

コイツと一緒に居ると、俺の精神が疲弊する。

だが、一人で出掛けると桃代の怒りが加速する。

気になる事は聞いたので、俺は黙っている事にした。


しかし、桜子は黙ってはいない。桃代と一緒でよく喋る。

しかも、返事をしないと不貞腐れる。これも桃代と一緒だ。

俺は適当な相槌をすると、早足はやあしでお店に向かう。


何時いつものパン屋は遠いので、あざみ商店で大量のアイスを買うと、急いで帰る。

桜子を連れて来たのは、荷物を運ばせる為でもあった。


母屋に着くと食事はすでに済んでおり、あまちゃん達は帰るところだった。

お土産に買って来たアイスを手渡すと、お供の人が受け取って俺の肩を叩いて帰って行く。

桃代は、あまちゃん達が見えなくなるまで手を振り続けて、機嫌が良くなっていた。


あまちゃんが帰り、俺と桜子は遅い食事を始めて、あまちゃん達と一緒に食べたであろう桃代とユリ、それから梅さんは食後のお茶を飲んでいる。


そんな時だった、ユリのスマホが鳴ると、ユリは横を向き、口に手を当て小さな声で話を始めた。

会話の様子では、良くない内容が漏れ聞こえ、通話が終了すると、ユリも良くない顔色になっていた。


「ごめんなさい桃代さん。父が昨日の夜に倒れたみたいで、わたしはすぐに帰ります。迷惑を掛けてすみませんでした」

「ユリ、ちょっと待て。帰る前に、俺に携帯の番号と住所を教えろ。用意が出来たら俺も島に行く」


「すみません紋次郎君。ではQRコードで交換しましょう、その方が早いですから。それから島への連絡船は、午前が一本、午後は二本ですから、上手く時間を調整してください」

「いいかユリ、俺が行くまで無茶をするな。それから、あの穴の中は立ち入り禁止にしろ、被害が広がるぞ」


「ありがとう紋次郎君。待ってるから、紋次郎君も無茶をしないでください。急げば午前の便に間に合いそうなので、わたしはこれで失礼します。荷物は後日取りに来ますので、このまま置かせてください」

「待ちなさいユリ! あなたはまず落ち着きなさい。梅さんは車でユリを送ってあげて。港まで行くと時間が掛かるから駅までお願い。ユリは貴重品を持って、スマホの電源が切れないように気を付けなさい。島に着いたら、わたしに連絡を入れること、わかった?」


「は、はい、わかりました・・・・・ごめんなさい、実は頭の中はパニックでした。落ち着きます」

「いい、わたしも都合が付き次第、島に渡るから、何が起こっているのか冷静に観察しなさい。何がヒントになるか分からないから、小さな事も見逃さないようにね」


「桃代様、車の用意が出来ました。ユリさん、では参りましょう」


ユリは梅さんの運転する軽自動車に乗ると、山道をくだり、あっという間に見えなくなった。


可哀想かわいそうに、梅さんの運転はこわい。

ブレーキとアクセルを間違える、そういうたぐいこわさではない。


車体は見えないのに、遠くの方でタイヤの鳴る音が聞こえる。


あの梅ババア、ババアの癖にドリフト走行をしやがる。

俺も一度同乗したら、酷い目に遭った。


ハンドルを握ると、人格が変わる人が居るが、あのババアは変わり過ぎだ。


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