第162話 白

ユリを見送る事もなく、俺は食事を続けている。

戻った桜子に、【見送りくらいしなさい】と非難をされるが、俺はそんな事など、どうでもいい。


親戚筋と言ったところで、見た事も会った事もないユリの父親、そいつが倒れようが死のうが関係ない。

【大丈夫だっ!】なんて、口先だけの励ましを言うつもりもない。


それよりも俺には、やらなければならない事がある。

食べ終わると、強い口調で呼びかけた。


「おいっ、龍神! おまえはちょっと、こっちに顔を出せ」

「ヒッ、紋ちゃん、ワシはなんかやってもうた? 突然あまちゃんさんが来たから、ビックリして目が覚めたんじゃ」


「それだ龍神、目が覚めたんだろう。寝ずの番はどうした?」

「・・・・あっ! いや、違うんじゃ。朝方、紋ちゃんが起きてから寝たんじゃ」


「いいか龍神、俺は夜中に目を覚ました。喉が渇いたからだ。台所に行ったあと仏間を覗いたら、おまえはぐーすか寝てたぜッ」

「・・・・すんません。実は寝てました。タピオカ入りの抹茶ラテをじゅるじゅる、夢の中で飲んどった。紋ちゃん、今度飲ませて」


「おまえはこの状況で、よくその要求を出せるな。いいから、出掛ける用意をしろ。事態が収束するまで戻れないと思え」

「よしっ、じゃあ行こうかのう。ワシに乗っとってもバレんように、紋ちゃんは雲に見える白い服を着んさい」


なるほど、龍神の姿が見えなくても、俺が見えたら意味が無い。

とぼけたヤツだが、頼りになる・・・っと、思いたい。


龍神に用意の必要はないようだが、俺にはいろいろ用意がある。

親戚筋と言っても会った事のない他人だ、ユリの家で世話になるつもりはない。

島の規模もわからない。

当然なんだが、宿泊施設があるのかもわからない。

あったとしても飛び込みで泊まれるか、それもわからない。

用意は万全に済ませておこう。


「なあ龍神、おまえはユリの島が何処どこにあるのか、知ってるか? 結構な数の島があるぜ」

「大丈夫じゃ。ワシにはGPSちゅう、強い味方がおるからのう」


「いいか龍神、俺をおちょくってると、今すぐ剥製にしてマニアに売り飛ばすぜ」

「なんでそうなるんじゃッ。ホンマにGPSで行けるのに。見てみい、桃代さんがうてくれたんじゃ、このスマホ。紋ちゃんのより最新なんで」


「・・・・ハァ? えっ! ちょっと待って・・・桃代さんどういう事なの?」

「どういう事って、龍神様からすぐに連絡を貰えるように。わたしの目の届かない所で無茶をしたら密告するスッパイ二号よ」


「・・・ ・・・ ・・・またか」


龍神にスマホを持たせるのは、別にかまわない。

俺には関係ない事だし、取説に龍神は使用禁止と書いてる訳ではない。

もっとも人間以外は取説を読まないと思うが・・・・

ただ、桃代の言い方に何かがモヤる。


監視対象者に内通者を紹介する、俺に対しての抑止力のつもりなのだろう。

面倒くさいので、スッパイは無視して、俺は必要な事を桃代に聞いてみた。


「ももよ、おまえは、何日後くらいで休みが取れそうなんだ?」

「う~ん、ごめん、実はいま繁忙期なのよ。だからね、休みが取れるまで一週間位かかりそうなの」


「そうか、わかったから無理はするな。休みを早めようとして身体からだを壊したら、元も子もないからな」

「むふっ、わたしが心配なのね。でも大丈夫よ、桜子が頑張ってくれるから。そうだよね、さくら」


「はい、もう、ばっちりです。昨日の内にあらかた目処を付けました」


一週間かぁ・・・それまでに原因と解決までの道筋を付けないと、桃代に被害が及ぶ可能性がある。

悠長に構える事は出来ないが、慌てると具合が悪い、気持ちが焦ると視野がせばまるからな。


気持ちを落ち着けて、忘れ物が無いように用意をしたら、かなりの荷物になっていた。

まあ、いい、龍神に持たせれば問題ない。

俺は重要な物だけをリュックに入れて背負うと、残りの荷物は龍神に任せる事にした。


「よし、俺の準備は終わった。龍神、おまえの方はどうだ? 目的地設定はちゃんと出来たか?」

「ばっちりじゃ。さくらちゃんが色々教えてくれたからのう。ワシはもう、デジタルの達人じゃけん」


「あのな龍神、その程度で達人とは言わないから。だいたい龍神が龍人たつじんにレベルダウンしてどうする」

「?? んっ? 紋ちゃんが何を言うとるんか、ようわからん。もう一回説明して」


「いいから、さっさと行くぞ龍神。それから、飛んでる最中にスマホを落とすなよ。当然だけど俺を落としたら殺す」


俺は白のデニムを穿いて白いパーカーを着ると、頭にパーカーのフードも被っている。

更に、白い靴下に白いスニーカーを履いて、白い軍手もはめている。

まさに白尽くめ、こんなモノで大丈夫か? そうは思うが、仕様がない。


俺の姿を見た桜子は、【紋次郎君は、何味のバリウムなの?】っと、つまらない事を喋り、桃代に睨まれていた。


この姿をすすめた龍神は、【死に装束みたいじゃ!】っと、笑い飛ばした為に、革靴のかかとで、桃代に頭をシバかれていた。


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