第156話 パンツ

食事が出来上がると、あくまで仏壇に供える体裁で、俺は龍神の為に一膳分の食事を仏間に届ける。


居間の方ではユリを含めて五人で食事がはじまり、ユリは桃代との思い出話に花を咲かせて、何時いつもよりにぎやかな食卓になった。


食事が終わると、今後の対策を話し合う為に、桃代はユリに質問を始めた。


「ねぇユリ、入り口が見つかって、あなたがかめの蓋を開けたのは、どれくらい前の事なの?」

「はい、ゲリラ豪雨があったのが五日前で、入り口を見つけたのは三日前でした。

その時点で桃代さんに連絡をしましたが、忙しそうだったので、どうするか悩んでいたら、昨日父が強引に入ろうとするもので仕方なく・・・」


「では、昨日開けたのね。どうして連絡をした時に、入り口が見つかった話をしなかったの?」

「すみません。桃代さんの喜ぶ顔が見たかったからです。それに久しぶりに会いたかったものですから」


「なあユリ、おまえが言う三角山を俺と桜子は知らないし、わからない。横穴の先を含めて、図に描いて説明してくれ。それから桃代、おまえが言った【魔女の瓶】って、なんだ? 俺はそれも知らない、教えてくれ」

「はい、紋次郎君。今すぐ描きますので、ちょっとお待ちください」


「ねぇ、紋ちゃん。教えるのはいいけど、その前に正直に答えて。ばなれでユリと話をしていた時から、わたしはずっとモヤモヤしてたのよ」

「モヤモヤって、なんの事なの? 俺は桃代さんに何かしましたか?」


「いえ、そうでなくてね。ほら、議長室にソファがあるでしょう。普段あれに座らないから、わたしは気付かなかったけど、あの時ねっ、正面に座っているユリのパンツが見えたよね。紋ちゃんも見たの?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・???

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・??


こいつは、いったい何を言ってんだ?


龍神に死亡予告を出された俺を、心配してる訳ではないのか?

いやいや、そうじゃない、きっと俺の聞き違いだ。


確認の為にまわりを見渡すと、ユリは顔を赤くして、描く手を止めて下を向いている。

桜子はびっくりした顔をしている。

梅さんは手を口に当て、笑いをこらえている。

どうやら、俺の聞き違いではないようだ。


「え~と、ももよさん。オイラはですね、今のところヤバい状態みたいなんですが、それは関係があるのでしょうか?」

「あるに決まってるじゃない。もしも、わたし以外の女性のパンツを見たら、それを見て喜んだら、浮気だからね」


「いいですか、ももよさん。俺が怒る前に、その下品な口を改めないと、あざが出来るほど、ほっぺをつねりますよ」

「やっぱり、怒ってはぐらかすのは、やましい気持ちがあるからでしょう!」


「桃代様、口を挟んで申し訳ないのですが、紋次郎さんは喜んだりしないと思いますよ。この前も洗濯の途中で、ベランダから落ちた桜子のパンツを届けてくださり、何も興味を示さなかったですからね」

「!! ば、ばあちゃんッ、いきなり何言ってんのッ、なんでわたしを巻き込むの。

・・・・・えっ? じゃあ紋次郎君は、わたしのパンツにさわったの?」


「あのな~ッ、さわらないと届けられないだろう。文句があるんなら自分で洗濯しろ。いいか桃代、これ以上この話を続けたら、俺は一人で行動する。おまえとは別行動だ。どうする?」

「あうっ、もうやめます、梅さんの話でモヤモヤも晴れました。それでは説明します。魔女の瓶ていうのはね、瓶の中を血や尿で満たし、そこに爪や歯、髪の毛、動物の骨やむし、釘や刃物などを入れて呪いのアイテムにした物よ」


「呪いのアイテムって、そんなモノに本当に呪う力があるのか? そんなの簡単に作れそうだぜ」

「効果のほどはわからない。でもねっ、抜け落ちた髪の毛や切った爪を、わたしは集めてるよ」


「えっ! マジですか桃代さん。それを集めてどうするの? まさかと思いますが、あなたの王墓に呪いをかけるつもりですか?」

「なんで? わたしの趣味で、紋ちゃんの髪の毛や切った爪を集めてるだけだよ」


「いいか桃代、まわりの人の顔を見てみろ、ドン引きしてるだろう。今すぐ集めた物を捨てないと、それを使っておまえを呪う魔女の瓶を作るぞッ」

「うっ、わたしの宝物なのに、財宝と一緒に埋葬するつもりだったのに、それなのに捨てろだなんて、酷くない」


「あのな~モモちゃん。仮に、おまえが未盗掘の王墓を発見して、副葬品が髪の毛や爪だったらどうする?」

「はァ? そんな気持ちの悪いモノ、さっさと燃やして・・しま・・う・・あれ?」


「そういう事だ。ちゃんと廃棄しておけよ。ユリ、図は描けたのか? 手が止まってるぜ」

「あ、あ、すみません、今すぐ描きます・・・ねぇ、桜子さん、あの人は本当に桃代さんなのかしら? あんなに気持ちの悪い桃代さん、初めて見たわ」


「そうなんですユリさん。わたしも昔そう思いました。どうも紋次郎君が一緒に居ると、桃代姉さんもバカになるみたいです。紋次郎君のバカが移るみたいです」

「聞こえてるぞ桜子。桃代と梅さんを見てみろ。二人の視線に気づけない、おまえも相当なバカだと思うぜ」


桜子は桃代と梅さんの顔を確認すると、ヤバいと感じたのだろう、勢いよく頭を下げて謝った。

しかし、勢い余り、座卓に頭をぶつけると、そのまま後ろにひっくり返る。


スカートのままひっくり返ると丸見えなのに、足まで開いて、バカなヤツ。


あっ、そのパンツ、俺が拾って届けたヤツだよな。


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