第157話 評価

俺は素早く立ち上がると、すぐさま桜子を助け起こす。

このまま桜子がパンツをさらし続けると、桃代がまた難癖を付けて来るからだ。


桜子を助け起こすのは何度目だろう。

なんでも屋に居た頃は、しょっちゅうコイツは転んでいた。俺以上のドジだった。

今となっては懐かしい思い出だぜ。


「大丈夫か桜子? ぶつけた所が痛かったら、保冷剤で冷やしておけ。じゃあ、話を続けるぞ」

「う~~ありがとう紋次郎君。それから桃代姉さん、ごめんなさい。あと今更なんですが、なんの為に集まって、なんの対策をたてるのか教えて下さい。わたしは意味がわからなくて、置いてきぼりにされた気分です」


「あっ、そうね、肝心な事を話してないわね。実はねっ、ユリあなたに悪いモノがいていたの」

「ヘッ? 悪いモノ? 何の事ですか桃代さん。もしかして、わたしに何かいてたんですか?」


「まあ、そうだよね、自覚はないよね。まだ何も起こってなかったから。さて、何処どこまで話していいのやら・・・どうする紋ちゃん」

「そうだな、その前に、俺はユリの事をよく知らない。真貝の親戚筋と言われても、どの程度の関係なのかも知らない。先に鬼門おにかどの事を教えてくれ」


「はい、わかりました。親戚と言っても、今はもう代替わりをして薄い関係なんです。鬼門おにかどの家がある離島は昔から水不足が深刻で、水の神様をまつり、実際に恩恵を受けている真貝の噂を聞いて、数代前の当主が真貝の家からお嫁さんを迎え入れて、親戚になったそうです」

「そうか、その数代前って何年前くらいの事だ? それで、水不足は解消されたのか?」


「百年以上むかしです。水不足はそうですね、嫁いで来た方にお願いをすると、真貝の当主がやって来て、本当に雨を降らせたそうです。近年はライフラインが整備されて、疎遠になったようですが、それまで島では真貝の当主様を頼りにしていたそうです」

「なるほどな、それで真貝の姓を持つ、桃代をしたっている。そういう事なんだな。う~ん、どうするかな・・・・・・・」


「紋次郎さん、悩む必要はありません。今朝方、わたしもユリさんを見た時に、良くないなって感じました。しかし、今は何も感じません。紋次郎さんが何かされたんですよね」

「あれ? 梅さんは、何か分かるの?」


「それはまぁ、長年にわたり、御神体様のお世話をしてましたから。ユリさんに良くないモノがいていたのは、すぐに気が付きました」

「では、わたしが良くないモノをけてて、紋次郎君はそれをはらってくれたんですね。ごめんなさい! トンデモない迷惑を掛けてしまいました」


「あのねユリ、これからなの。トンデモない事はこれから始まるの。まずは一緒に中に入った、あなたの父親を心配しなさい」

「そ、そうですね、その通りです。わたしはどうしたらいいでしょうか桃代さん」


「だからね、いまそれを話し合ってるの。人に頼らないで、あなたも少しは考えなさい」

「無理だって。自覚はない、まだ何も起こってないって、モモが言ったんだろう。

俺は取りあえず用意が出来次第、ユリの島に行って調べてみようと思う。桃代は休みが取れ次第合流する。それでいいだろう?」


「う~ん、仕方ない。でも紋ちゃんは、絶対に単独行動をしないって約束しなさい。あなたは怪奇なモノに対して、ネギだけでなく、なべとポン酢まで背負しょってる鴨なんだからね」

「うん、まあ・・・あのな桃代、おまえが思う俺って、そんなにちょろいヤツ?」


「まぁねっ。とにかく、何かあればすぐ連絡をする。定期的に連絡をする。この二つも約束しなさい」


普段、この手の事に口うるさい桃代なのに、ぐずる事無く俺の意見に賛成した気がする。

滝口で龍神と話をした時に、不味い事を聞かされたのだと思い、俺は気を引き締めた。

落ち着いた雰囲気になったところで、ユリは描いた図を差し出した。


「紋次郎君、描けました。簡単な図なんですが、これがウチにある三角山とその内部です」

「どれどれ、高さが10メートル位・・・意外と小さい山なんだな、中も狭そうだけど、岩に囲まれてる分しっかりしてそう。なんか古墳みたいだな」


「どうなんでしょう、古墳だとすると石棺や人骨があると思うのですが、かめしかありませんでしたからね」

かめねぇ・・・なあ桃代、おまえはこの図を見てどう思う?」


「わたし? わたしはミイラと財宝が無ければ興味がない。あ~あ、誰も入った事のないピラミッドを見つけて、中を調べてみたいな~」

「どうしたの紋次郎君。桃代姉さんの頭の中が急に、古代のロマンじゃなくて、古代のマロンみたいにぐずぐずだけど」


「なんだ、その訳の分からんたとえ。いいか桜子、その部分を突っ込むな、面倒くさい事になるぞ」

「あれですね、桃代さんは紋次郎君と一緒に居るとバカではなく、素直になるみたいですね」


「あっ、そうか、その通りですユリさん。好きな男の子と一緒に居ると素直になる。桃代姉さんも普通の女の子だったんだ」


ユリが気付いた事で、桃代のバカ疑惑はなくなり、普通の女としての評価が上がった気がする。

その反面、俺のバカが確定になり、当主としての評価が落ちた気もする。


おまえ達は、もう少し俺に対して気を遣えッ。


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