第155話 俺と龍神

タッパーのふたがズレていたのだろう。

ズレたところから滝の水が入り、そのあとで背負ったリュックの中で適度にシェイクをされて、ぐちゃぐちゃになったお好み焼きを差し出すと、龍神は眉をひそめた。


それでも食べているのか、飲んでいるのか、よく分からない食べ方で、龍神は全てをたいらげた。


「う~ん、食うたあとに聞くのもなんじゃけど、紋ちゃん今のはなんちゅう料理?」

「なんか、ももんじゃ焼きって言うらしいぜ。このあいだテレビでやってるのを見たから、試しに作ってみたんだ」


「ふ~ん、もんじゃ焼きじゃのうて、ももんじゃ焼きね。紋ちゃん、ワシに嘘ついておもろいか?」

「うっ、もしかして気が付いた? ごめん龍神、おまえがいきなり水を掛けるから、リュックを降ろす暇が無くて、全部おまえが悪いんだ」


「せっかく助けてやったのに、なんじゃいッ、その言い方は! もっと他に言い方があるじゃろうがッ!」

「やかましい! 昨日も目を離した隙に、俺のおかずを全部食ったくせに非難できる立場かッ。変なき物の所為せいで衰弱死するより、おまえの所為せいで、俺は衰弱死をしてしまうだろうッ」


「あっと、こりゃあ一本取られた。だって、紋ちゃんと半分ずつにしたかったから、仕方が無いじゃろう」

「気持ちの悪い事を言うな、病んだ彼女かッ。だいたい全部食っといて半分もクソもないだろう!」


「それじゃ紋次郎! あんたは、ワシの思った通りの答を返してくれる。じゃけぇ、紋ちゃんに死なれると、ワシは困るんじゃ。ワシは紋ちゃんが好きなんじゃ」

「仲が良いわねぇ二人共。龍神君とばかり仲良くしていると、桃代姉さんに焼き餅を焼かれて、酷い目に遭うわよ紋次郎君」


「おう桜子、仕事は終ったのか? 桃代が凄い剣幕で、はなれに戻って行ったけど」

「あ~~わたしは少し休憩よ。桃代姉さんは、もの凄い勢いで仕事をこなしてる。全然ついて行けない。どういう事なの、桃代姉さんのあの慌てよう。紋次郎君がハブの助の退治に一人で向かった事を、教えてもらった時と同じ焦り方をしている。心配させたらダメじゃない」


「そんな事を言われても、俺も何が起きてるのか、さっぱりわからないし・・・なあ龍神、俺は何か不味い事をしたのか?」

「う~ん、難しいのう。紋ちゃんが呼ばれるのは何時いつもの事じゃけん。ただ、今回はうないモンに呼ばれただけなんじゃ」


「紋次郎君は短絡的な事をしないでよ。何かあると、桃代姉さんは未亡人になるんだからね。誰かを救う時は、まず先に自分を守る安全を確保してからにしなさいよ」

「あの~桜子さん、どうしたの? オイラは誰も救った事はありませんぜ。オイラが呼ばれる時は、数ヶ月から数年の手遅れの状態ですからね」


「はァ~~ 紋次郎君は本物のバカッ! 龍神君、夕食のあとで対策を話すから、それまで紋次郎君が出掛けないよう見張りなさいって、桃代姉さんからの伝言です」


休憩と言っていた割に、桜子は不機嫌になると、すぐにばなれに戻って行った。

残った俺と龍神は顔を見合わせて、桜子が不機嫌になった理由を考えてみたが、何も思い付かない。


桃代が帰って来るまで、俺は何処どこにも出掛けられず、龍神と一緒に時間を潰している。

久々にゲームをしたり、龍神とじゃんけんをしたり、正直むなしい。


いつもより遅い時間に帰ってきた桃代は、龍神とオセロをしている俺を見て、安心したのかあきれたのか、複雑な表情をしていた。


「よしよし、ちゃんと留守番が出来て、お利口だったわね。龍神様、あれから何か妙な事はありました?」

「うむ、ワシがちゃんと見張っとったから大丈夫じゃ。いや~~大きい子供の子守りは、なかなか骨が折れるのう」


「今すぐ食事の用意をしますので、龍神様は姿を消して仏間に居て下さい。念の為に梅さんと桜子も母屋に泊まりますけど、ユリに見つかると面倒な事になります。それでいいよね紋ちゃん」

「うん、まあ、それはいいけど。あのね二人共、何度も言うけど、俺をガキ扱いするのはやめてもらえます。龍神、おまえの背骨を本当に折ったろかッ!」


「もうッ、時間が無いからつまらない言い争いはやめなさい。ほら、桜子が梅さんとユリを連れてもうすぐ来るから、早く行動しなさい」

「ちッ、紋ちゃんの所為せいで、ワシまで怒られた。ええ加減にしてほしいわ」


「あっ、龍神テメエこの野郎、いま舌打ちをしただろう。その口をガムテープでぐるぐる巻きにして、二度とえびせんを食えなくしてやろうかッ!」

「ほ~~っ、やれるもんならやってみんさい。ワシはワニとは違うけんね、そう簡単にやられんで」


「二人共、わたしの言う事は聞こえてた? 聞こえた上でその態度なら、包帯でぐるぐる巻きにして。今すぐミイラにしてあげるわよ」

「あっと、すんません。今すぐ仏間に隠れます。紋次郎、またあとでな」


何があとだか分からないが、俺は言い合いを続けるつもりはない。

桃代が怖いからだ。


俺に自覚は無いのだが、無茶をしてると思われた時や、これからしそうと思われた時など、そういう時の桃代は特に怖い。


俺は手伝いをしながら、桃代の様子を見ている。

しかし、真面目モードの桃代が何を考えているのか、俺にはさっぱりわからない。


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