第151話 モモちゃん

まだ、初夏だが、また夏がやって来た。俺がここに来て一年になろうとしている。

もうすぐ桃香の一周忌。

それまでに神社を完成させる為に、俺は夜中まで頑張っている。

ほとんど完成している小さな神社だが、手で触って少しでも気になる箇所があれば、ノミやカンナをかけて綺麗に仕上げる。


桜子に【棺桶みたい】とは言わせない、後ろ足で砂を掛けたら、ビンタをしてやるつもりだ。

そう思えるくらい、立派なやしろになっている。

もちろん、俺一人の力で出来た訳ではない、龍神が居てくれたから、棟梁が助言をくれたから、なにより桃代が指導してくれたからだ。


いま、俺は芝生の上に正座をさせられて、その桃代に怒られている。

何時いつまで経っても母屋に帰らないからだ。


「もうッ、毎日、毎日、いつまで経っても帰って来ない。連絡してもスマホの電源は切れてる。ちゃんとしてないと、また良からぬモノに呼ばれて、何かに巻き込まれている、そんな心配ばかりするでしょう!」

「はい、すみません。でも、急がないと、桃香の一周忌だから」


「あのね~ 桃香様の一周忌は千年前に済んでるの。そして、紋ちゃんが無茶を続けたら、桃香様は心配で何時いつまで経っても成仏が出来ない。そうしたら生まれ変われないでしょう」

「うっ、そうですね。ごめん桃代さん。すぐに片付けて、帰る用意をします」


「泥棒なんて来ないし、龍神様もいるから、そのままにして早く帰ろう」


桃代が迎えに来たら、何をしていてもその日は終わりだ。

下手に逆らうと朝まで説教をされる。


一年前になんでも屋の仕事として初めてここに来て、ピラミッドの中を探検してミイラ姿の桃代を見つけて始まった、お家騒動。


突然現れた分家の連中に、訳の分からないまま、戦場の真ん中に置き去りにされた。そんな気分だった。

自分の身を守る為に商店街で情報を漁り、援軍として現れたのは幽霊を装う桃代さん。そんな中で、一人の人間が死んだ。


あまちゃんに出会い、龍神と再会して記憶が戻ると、まともに働き始めた俺の頭。

桃代が幽霊を装う理由も解決して、ホッとしたのも束の間だった。

また三人の人間が死に、千年前のミイラが黄泉返る異常事態。


不気味に思っていたミイラは、前世の俺とゆかりのある大切な人だった。

その大切な人とまた会う約束をして、おくり弔い、彼女を苦しみから解放すると、俺は悲しみを引き継いだ。


騒動はすでに終結しているが、神社の再建が終わるまで俺の中では終結しない。

完成すれば俺の中で区切りがつく。

区切りがつけば桃代に求婚し、けじめをつけるつもりでいたので、俺は焦っていたのかもしれない。


暗い山道を桃代と二人で帰る途中で、そんなことを考えている。

ちなみに、【疲れた】その一言で、桃代は俺におぶさっている。

迎えに来てもらった時は、何時いつもこうなる。

心配させたからには、俺に拒否権はない、拒否は出来ない・・・文句も言えない。


疲れた身体からだにむち打つと、つまずかないように、転んで桃代に怪我をさせないように注意して歩く。

桃代の持つ明かりが道を照らしくれるので、安全に歩けるが、結構しんどい。


俺に背負われて、ご機嫌な桃代はよく喋る。

あまり仕事の話はしないが、桜子の失敗談はよく話す。あいつ、どんだけやらかすんだよ。

俺は何時いつも適当に相槌を打つ。

俺の対応に不満なのか? 桃代はその度、ぶいぶいと胸を押し付けて来る。


「ねぇ、ちゃんと聞いてる? 紋ちゃんの帰りが遅いから、最近のわたしは寝不足なんだよ」

「ごめんって、もう何回も謝ってるだろう。迎えに来ないで先に寝てれば・・・ギブッ、俺が悪かったです。お願い、首を絞めないで」


「もうっ、その突き放すような言い方は、感じが悪いからやめなさいって、いつも言ってるでしょう。じゃあ、罰としてモモクイズね。全問正解でないと、一晩中腕枕だからね」

「またですか桃代さん。オイラ、一晩中腕枕をさせられてるから、腕がへろへろで、午前中の作業がはかどらなくて毎日遅くなるんですぜ」


「むにゃむにゃ言わないッ。第一問、わたしの誕生日は何月何日でしょう?」

「三月三日の桃の節句だろう。このあいだ着物を着た桜子と一緒に、模造刀を抜いて【殿中で御座る】って、訳の分からん赤穂浪士ごっこをしてただろう」


「ですが、三月三日ですが、桜子の誕生日は何月何日でしょう?」

「四月四日のオカマの日だろう。このあいだ、桜子の顔を半分だけ女のメイクにして、もう半分を男のメイクにして、訳の分からんアシュラ男爵ごっこをしてただろう」


「ですが、ですけども、じゃあ、わたしは歴代ファラオの中で、誰が一番好きでしょう?」

「どうして誕生日からそこに飛ぶ? でもあれだ、ジェセル王だっけ? 最初に階段ピラミッドを作った人」


「ちッ、何時いつも聞き流すくせにちゃんと覚えている。紋ちゃんは、意外と興味のないフリをするのが上手だよね」

「あのな~ももよ。おまえのそのつまらん情報で、俺のわずかな記憶領域が、どれだけ逼迫ひっぱくされてるか。これ以上、必要のない情報を記憶させるな」


「なによ~わたしと暮し始めて、たったの一年じゃない。もっと、わたしの事を覚えて、わたしの事を好きになさいよッ」

「安心しろ、俺の頭の中はおまえでいっぱいだ。だってそうだろう、千年前から俺の頭の中は、モモちゃんがめてたからな」


最後の言葉を聞くと、エアーバックが破裂しそうなほど、桃代は背中から俺を抱き締めた。

俺と桃代、この先どうなるか、何が起こるのか、それはわからない。

ただ、俺は生涯を桃代と添い遂げる、それだけは確かだと思う。





え~と、桜子です。

紋次郎君の本家移住、当主編はこれで終わりになります。


目を離すとすぐに無茶をする、何かに呼ばれる? かなりおバカな紋次郎君。

エジプトのミイラに取り憑かれた、ちょっと危ない桃代姉さん。

この先どうなっていくのか、わたしにはわかりません。


この二人の物語が続けば、わたしの平穏な日常は、やって来ない気がします。

それでも、この二人の物語を見続けたいと思います。


これまで読んで頂いて、ありがとうございます。

また会える日を楽しみにしています。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る