第149話 解決

龍神に喰わないように命令すると、俺は絶縁した三家の連中に、【早く帰れ】と言葉をブン投げる。

何時いつまでもこんな奴らとは、一緒の空間に居たくないからだ。

それなのに、何を勘違いしたのか知らないが、ババア共は助けて貰えたと思い込み、嬉しそうな表情をしている。


お互いを支え合うように立ち上がると、三家の連中は期日までの支払いを確約して、逃げるように帰って行った。


奴らは、二度とここには来ないだろう。


龍神が良い仕事をしてくれたのだが、問題もある。コイツの存在を、実際に目撃されたからだ。

俺は出来る限り、分家の人間に龍神の存在を明かすつもりは無かった。

今までのように利用されたくないからだ。


桜子に存在を知られたのは、今更どうでもいい。コイツは桃代の子分なんだから、他で漏らす事はない。


まあ、逆鱗が無い以上、コイツの利用は出来ないし、神様の利用など恐れ多くて考えないと思う。

しかし、龍神の存在が誰かの口から漏れて、龍を見たさに人が集まるのも困る。


かん口令を敷こうする俺に、龍神が意外な事を口にした。


「紋次郎、お主には色々と世話になった。しかし、ワシの存在が知られた以上、ここに居座る訳にはいかん。お主のこれからが幸多からん事を祈っておる。では、さらばじゃ、元気で暮らせよ」

「・・・・ハァ?」


龍神はそのまま高く浮き上がり、姿を消して見えなくなった。

桃代は龍神の消えた辺りに手を振って、お別れを言っている。


えっ! アイツ、本当に天に帰るつもりなの?【神社を建てる協力はどうしたッ!】

そんな言葉が出掛かるが、なんとかそれを飲み込んで、空に向かって手を上げる。


龍神が居なくなった事で、残りの分家の人間も、震える金縛りから解放されたようだった。


「も、紋次郎さん。今の、今のは龍神様ですよね。なんと、なんと神々しい姿なんだッ。最後に、その姿を拝む事が出来て感激です」

あざみさん、あなた、前にもそんな事を言ってましたが、あまり感激しないでね」


「いや~っ、真貝様、いえ紋次郎さん。私はやっと見る事が出来ました。伝説の生物である龍。実のところ、私はUMAとかオカルトとかが大好きなんですよ」

ざいえんさん、あなたも前に同じような事を言われてましたよね・・・いいですか、今見た事を、他で言わない方がいいですよ。もし言えば、定年後に行く旅行先が山奥の療養所になります。奥さんに怒られますよ」


「もちろん心得ております。旅行に行けなくなると、私は死ぬ程、嫁さんに折檻されますからね。ハッ、ハハハ~」

ざいえんさん、あんた・・・暴力を取り締まる側の人間なのに」


無駄口を叩くあざみざいえんは、嫁さんに耳たぶを引っ張られて、桜子と婆さんのうしろを連れて行かれる。

あざみざいえんも嫁さんに頭が上らないのだと思い、俺は妙な危機感を覚えた。


残り三家は母屋に行き、広場には俺と桃代の二人だけ、取り敢えず思った事を聞いてみた。


「桃代さん、龍神の事を含めて、あなたの計画通りなんでしょう。本当に悪趣味なんだから」

「まあねっ、紋ちゃんがここに来る前に、家探やさがしをしてニセの証文を庭で燃やしているところを、わたしはピラミッドの地下の間から見てたからね」


「いいか桃代。二度と危ない真似をするな。もしも地下の間が見つかって、おまえが捕まっていたら、俺は何も知らないまま、桃代はそのまま、奴らに殺されていたぜ」

「大丈夫、その為のミイラ姿なんでしょう。それに、非常口もちゃんと作ってあるからね」


「そうなの? でも、今後は危険な事をしないでね。あと、この場所に来ていろいろあったけど、おまえは俺には勿体ない凄い女だ。おまえと再会できてよかったよ」

「ありがとう、そう言って貰えて嬉しいよ・・・むかし、幼い紋ちゃんを引き取れなくて、わたしがどれだけ悔やんだ事か。事故の後に、保険金目当てで父方の叔父に引き取られて消息不明になった時も、何もしてあげられなくて・・・ごめんね、紋ちゃん。苦労させたね」


「桃代さん、謝らないでね、あなたには何も責任はないから。それよりも此方こちらの方こそありがとう。俺を忘れずにいてくれたから、あなたに再会できて、桃香を苦しみから解放できました。本当にありがとう」

「えへへ、感謝の気持ちがあるのなら、お礼をして。二度にわたる桃香様への濃厚接触、それなのに、わたしはしてもらった事がない。不公平だと思わない?」


・・・・そうきたかァ。

もちろん、俺は桃代が大好きなので、それに対して問題はない。

しかし、真っ昼間、しかも屋外、桃香の塚の前、何か抵抗がある。

でも、まあ、桃代の言う通りだ。


俺は覚悟を決めると、桃代を抱き寄せて、そのくちびるに自分を重ねる。

抱き合っている俺と桃代を包み込むように、やわらかい涼しい風が吹いている。


少しの時間だが濃厚接触が終ると、桃代の顔は、よく熟れた桃のように濃い桃色になっていた。


「えへへ、紋ちゃんからキスしてくれたのは、これが初めてね。これからは毎日、朝昼晩と日課だからね」

「うん、まあ、桃代さんが嫌でなければ・・・でも、俺からってどういう意味?」


「えっ? 気付いてなかったの? 幼い時に隣で眠っている紋ちゃんに、何時いつもしてあげたでしょう」

「寝てたから憶えてない。てか、桃代さん、寝てる俺に何をしてんの? ホタルよりあなたの方が、よほどド淫乱ですよ」


「なによ~可愛い子供同士の、ちょっとしたコミュニケーションのひとつじゃない。外国では当たり前よ」

「そうなの? だったらいいけど、一歩間違えればドン引きですからね、これからは事前承諾で頼みますよ。じゃあ、そろそろ戻ろうか?【遅いッ】て、桜子が文句を言いそうだから」


俺と桃代は仲良く帰ると、残りの三家の連中に顛末を話して聞かせる。


御神体の桃香が黄泉よみかえった話や、俺が千年前のもんじろうの生まれ変わり、そんな話を聞かされても普通は信じないはずなのだが、実際に大蛇おろち、いや龍神を見た事や、ヤツが話した内容で、みんなはあっさり信じてくれた。


それは、それで良かったのだが、俺を拝むな年寄りたち・・・・・まだ生きてるぞ。


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