第127話 観覧車

芝生の上に二人で座り、俺と桃香は遅めの昼食を取っている。

俺の握ったおにぎりに、売店でいろいろ買い足せば、結構豪華な昼飯になった。

おにぎりは、ダークピーチに文句を言われたので、今回は少し小さめに作り、今度は何も言われない。

桃香は小さなおにぎりを両手に持つと、満足そうな顔をして一粒も残さずに食べてくれた。


そのあとは、お腹がふくれた事もあり目の回る乗り物は避けて、なるべく平和な乗り物を楽しみながら、ゲームなどもして遊ぶが、時間と共につらくなり始めた。


それでも表情に出さないように、態度や言葉に出さないように、桃香を楽しませる事だけに専念する。


しかし、時間の進み方は千年前と同じ、無情にも夕焼け空になり始めた。

俺は観覧車に乗る前にソフトクリームを二つ買うと、桃香と一緒に乗り込む。


係の人がこぼすなよ、そんな目をして睨んでくるが、俺と桃香は絶対にこぼさない。

もちろん何も根拠はない。

ただこぼれた一滴が、このあと誰かに踏まれてけがれたら、思い出までもけがれてしまう、そんな気がするからこぼさない。


観覧車はゆっくりと回り続ける。

もしも、この時に主軸が外れ、車輪のように転がり始めたらどうなるだろう、バカな俺はそんな事も考えてしまう。


桃香はイチゴで俺はバニラ、二人でソフトクリームを食べながら景色を楽しみ、下から見えなくなった所で、プラスチックのスプーンですくって桃香にバニラを食べてもらう。


「どうだ桃香、アイスの味は?」

「も~~っ最高! なんなのコレ? 冷たくて甘くて、現代は贅沢よね~ わたしの時代とは大きく違うわ」


「そうか、じゃあ、早く生まれ変わって来い。俺も桃代も待ってるぞ」

「あはは・・・・でも、ダークピーチも言っていたけど、生まれ変わったその先に、もんちゃんは居るの? わたしだけ生まれ変わってどうなるの?」


「あのな~ そんな事を心配するな。桃香は美人だしスタイルもいい。俺なんかより良い男を選び放題だぜ・・・いろいろ悪さをしなければ」

「なによ~ッ、わたしが何時いつ悪さをしたのよ~ わたしは何時いつも、もんちゃんの為を思って・・・」


「屋根から突き落としたんだろう。ついでに橋からも。そういえば俺が木に登った時に、おまえは斧を持って切り倒そうとしなかった?」

「なんで、なんで、そんな事ばかり思い出すのよッ。そうじゃないでしょう、もっと楽しい思い出があったでしょう!」


「何言ってんだ。どれもこれも楽しい思い出だろう。ホント、俺みたいなバカを千年も思い続くてくれて、ありがとうな」

「やめてよ、もんちゃんより素敵な人はいなかった。文句も言うけど何時いつもわたしを大切にしてくれた。何時いつもわたしに優しくしてくれた・・・・・本当はねっ、もっとここに残りたかったの。でもダメ、このままここに居ると桃代に嫉妬する。わたしの中できたないものがあふれちゃう・・・だからねっ、く事にしたんだよ」


「それでも待ってるから。バカな俺だけど桃香のことは絶対に忘れない。必ず待っている」

「ホントに? 約束してくれる? 嘘ついたら針千本飲ますわよ」


「なあ桃香、おまえは本当に紋次郎の事が好きだったのか? 桃代もそうだけど針千本飲ましたら紋次郎は死ぬぜ」

「あう、それは、あれよ、もんちゃんが約束を破らなければいいだけでしょう」


「まあいいけど、約束は破らない。それは絶対に保証する。だから安心しろ」

「えへへ、楽しみ。生まれ変わるのが怖くなくなった。ありがとうね、もんちゃん」


観覧車が一番上まで来た時に、俺は桃香の隣に座り直す。

二人で外の夕日を見ながら、俺は桃香の肩に手を置いて引き寄せると、生れて初めて自分から女の人にキスをした。

あれ? 二度目だっけ? でもまあいいか、一度目の相手も桃香なのだから。


桃香は驚いた顔をしたあと頬が桃色に染まり、指で自分のくちびるをなぞりながら、【渋くない・・・甘い・・・】と呟き、下を向いたまま何も喋らなくなった。

当然なのだが、俺も照れて何も喋らない。


ただ、何処どこかで【紋次郎ッ!】そう強く呼ばれた気がした。

ついでに観覧車のBOXが強く揺れた。


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