第117話 誰?

その頃あまちゃんの結界に守られて、桃代は空から俺を見ていたそうだ。

さすがは神様、あまちゃんはなんでもありだなと思う。


「頑張ったようじゃが、紋ちゃんあやつはここまでのようじゃのぅ」

「!! てんちゃんお願いします、紋ちゃんを助けてください。お願いです!」


「そうは言うても、それをすると紋ちゃんの覚悟が台無しになるからのぅ。あれはバカじゃが、前向きなバカ。われが手を出すと恨まれてしまうであろう」

「あれッ! 桃代姉さん、何か変ですよ! 見てくださいッ!」


このとき俺はやっと気が付いた

そうか、俺が忘れてる、ポカしてる、そう思っていたのはこれだったんだ。


龍神であっても、酔って気を失えば水の中では溺死する、それをすっかり忘れていた。

ごめん龍神、おまえのことを雑に考えていた。

でも、忘れていたから考えても無かったみたい。どちらにしても龍神に知られると不貞腐ふてくされそうだから黙っていよう。


さてさてどうしよう? ハブの助は手を伸ばすだけで、簡単に俺を捕まえられる。

龍神の頭を置くのに、しゃがんでいる俺は素早く動けない。

・・・・。

・・・・。

・・・・。

何も考えが浮かばない、この場を切り抜けるいい方法が浮かばない。

ハブの助を牽制するのに用意した、火の消えた木刀だけしか浮かんでない。


「ギャギャギャ、終わりじゃ小僧、散々わしを馬鹿にしくさって、むごたらしく殺してやる。まずは逃げれんように手と足からじゃ。手と足をれさせ火をつけてやる。生きたまま、己の身体からだが灰になるのを見届けるがいい」


なんだコイツ、怖ろしい事を言い出したぞ。

どうしよう? 面の桃香が話したように俺に自爆装置が付いてたら、コイツと一緒に消し飛ぶのに、せめて相打ちに持ち込みたい。


・・・ごめん桃代、それから桃香、約束を果たせそうにない。


そんな弱音を吹き飛ばし、俺はなんとか足掻あがこうとするが、さすがにこの状態は厳し過ぎる。

それでも目を反らさずにハブの助を睨むが、何も効果は無いようだ。


ドス黒いまだら模様の手のひらが、俺に近づいてくる。

あれに掴まれると、俺はれてミイラになる。

広げた手に向かい、チョキを出しても止まりそうもない、勝てそうもない。


それでも腕を蹴り上げて、隙を作り、うしろに逃げる。

そう思いつき足掻あがこうとしていたところで、ドス黒いまだら模様の手のひらは直前で防がれて、俺に届く事はなかった。


「えっ!?・・・なにこれ?・・・どうしてここにコレがあるの? あれ? おまえあの時の?」


俺が不思議に思っていると、桃代たちはもっと不思議に思っていたそうだ。


「モモよ、なんじゃアレは? 紋ちゃんの友達か? いくらなんでもアレを友達にするとは、可哀想かわいそうな子じゃな」

「え~とですね、わたしも紋ちゃんの友達に【たたみ】が居るとは聞いてないです。桜子、あなたはどうなの? 紋ちゃんは部屋の中で畳と仲良くしてたの?」


「・・・んっ?・・・あれ? あの畳、あのみ、何処どこかで見た事があります。なんだっけ? ヒ~ッ、思い出した! あの畳ッ、紋次郎君が供養の為にお寺に持ち込んだ人型の残る畳。どうしてここにあるのッ?」

「あっ、また何か出て来たわよ。今度は猫みたい、ハブの助を引っいてる。さくら、あの猫はもしかして、もんちゃんが空き地に埋めた猫じゃない?」


「ヒ~ッ、そうです桃香様ッ! あの模様、車に轢かれて死んでいた三毛猫です! 紋次郎君が埋めて、お線香をあげていた猫ですッ」

「ぷっ、見てみろ、また出て来たぞ。桜子、あやつ等は誰じゃ? 紋ちゃんとはどういう関係じゃ?」


「ヒ~ッ、あの人たち、紋次郎君が山で見つけた自殺した人たちッ。どうしてここに居るのッ!」

「ねぇ桜子、わたしにもなんとなくわかるけど、念の為に確認するね。あの車、紋ちゃんが見つけた海に沈んでいた車? 運転している人もその時の人?」


「ヒ~ッ、あのプレートあの時のナンバー、あの時引き上げられた車。もう嫌だッ、怖いよ~ ヒ~ッ、紋次郎君が掘り起こした白骨死体も出て来たッ!」


「あの自殺した人達、自分の首に掛かっているロープをハブの助の手足に巻き付けて、自由を奪ったくれてる。紋ちゃんの味方をしているみたい」


結界の中では、よくわからない援軍に、桃代をはじめあまちゃんたちは笑いをこらえ、桜子一人だけパニックになっていたそうだ。



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