第118話 決着

意外な援軍に、俺は驚き戸惑っている。

全員成仏したのではないのか? それなのに、どうしておまえ達がここにいる? 

どうして俺を助けてくれる?

どいつもこいつも俺を助ける為に、ハブの助に立ち向かう。


人型の残る畳が一枚、俺と春之助のあいだに入り、ヤツの手が届かないように盾になってくれた。


髪の毛は抜け落ち、目玉は垂れ下がり、あごは外れて落ちかけて、あばら骨の目視ができる自殺死体が四体。

各自が、首にあるロープの反対側をハブの助の手足に巻き付けて、自由が利かないようにしてくれる。


白くなりぶよぶよにふやけた身体からだで、車に乗ってる水死体が二体。

俺の考えを理解しているかのように、ハブの助を滝の方に追い込み始めた。

なんでだ? こいつら幽霊だろう? どうして無機物の車まで幽霊になってんだ?

助手席に乗ってる女らしき死体は、長い髪のすきから見える白くにごった目で、俺にウィンクをしながら親指を立てて合図を送ってくれるが、不気味でしょうがない。


おいッ、ネコ! おまえはいったいなんなんだ? 

ハブの助を引っ掻いて、俺から遠ざけてくれたのは助かった。

でもそのあと、身体中でキョロキョロしているヤツの黒目を捕まえようと、じゃれてるだけだろう。


白骨死体、おまえはなんだ? 

みんなに指令を出す指揮官のように振る舞っているが、おまえは考える脳ミソが残ってないだろう。


援軍に喜んでる場合では無い。

バラバラになりそうな身体からだで、みんなが頑張ってくれている。

死者のこいつ等を、これ以上傷つけてはいけない、死んだあとにまで傷つく必要はない。

俺は立ち上がると、首にロープを掛ける為に、急いでハブの助の元に行く。


自由の利かないハブの助は口汚いない言葉で抵抗するが、三毛猫にネコパンチを連打され、隙が出来た瞬間にロープを掛ける事が出来た。

伸ばしたロープの片方を持つと、俺は滝口まで一人で登って行く。

協力をしてくれる死者のみなさんのおかげで計画通りに進んで行くが、これでいいのだろうか? こんな予定だったっけ? そんな疑問が頭をよぎる。


滝口に着き、上からロープを手繰たぐり寄せると、畳と車がハブの助を挟み、更に四人の首つり死体が手足を引っ張るが、ヤツは左右に頭を振って必死に抵抗している。

たいした抵抗が出来ないハブの助を力を合わせて滝まで移動させると、強制的に滝行を受けさせる。


今しかないッ! 俺はスマホで調べた祝詞のりとを声を出して唱えるッ!


はらえたまえ、きよめたまえ・・・ ・・・あと、なんだっけ? か、かむ、かむ?」

はらえたまえ、きよめたまえ・・・えっと、かむながら守りたまえ? さきわえたまえ?」


協力してくれている、死者のみんなの為にも必死に祝詞のりとを叫ぶ。

この光景を結界の中で見ている、あまちゃんとお供の二人は、おおいにウケて笑っていたそうだ。


「ひぃひぃ、それじゃ! 紋次郎。われはその面白い見世物が見たかったのじゃ」

「天照大神様、あの紋次郎という子、なかなか面白いですね。ぷぷっ、あの祝詞のりと


かむながらって、自分が噛んでおりますね。それにあの必死な顔、ぷぷぷっ」

「うむ紋次郎、おぬしの願いは聞き届けたぞ。では、みなの者ついて参れ」


「いいんですか桃代姉さん? あまちゃんさん、紋次郎君を見て笑ってますよ」

「いいの、いいの、てんちゃんを喜ばせるなんて、さすがは紋ちゃんね」


「桃代あなた、どこであのかたと知り合ったの?」

「えへへ、内緒です」


桃代たちがそんな会話をしているなんて、俺は露ほども知らない。

ロープがゆるんでヤツが逃げないように、力を入れて必死に踏ん張っている。

なにせ、ヤツが暴れるたびに手にしたロープが俺の身体からだを締めつけるので、一片いっぺんたりとも気を抜けない。

本当は歯を食いしばりたいところなのだが、祝詞のりととなえられないので、それは仕方がない。


ハブの助は相変わらず口汚い言葉でののしっているが、だんだんそれが聞き取り辛くなっていく。

俺がいる場所からはハブの助の姿は見えないので、油断はしない。


俺の知らないうちにヤツの身体からだは少しずつ弱り、衰え、腐り、水圧で腐った肉がこそげ落ち、それがヘドロのように水面に浮いて、流れのゆるやかな場所に集まっていたらしい。

俺はそれに気付いてない。


どれ位の時間が経ったのだろう? 短いような気もするし、長かったような気もする。

死者の奴らも疲れているような気がする。

ネコのヤロウ! 丸まって俺の頭に上で寝ている・・・そんな気もする。


身体からだで支えていたロープは軽くなっているし、ハブの助の声は聞こえなくなっている。

余裕が出た俺は、顔を下に向けて覗いてみるが、滝の水量でよく見えない。

しかし、水遊びをした時に、お昼を食べた場所に、桃代やみんなが居るのが見えた。


「へっ?!」


みんな、どうしてここに居る? 

危険だから来ないように、あまちゃんに任せたはずのに?

それなのによく見ると、あまちゃんが俺に向かって手招きをしている。



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