第101話 禊

龍神のヤロウ、何か呪いのたぐいでも掛けられているのかもしれない。

そうでなければ、コイツが俺を襲う理由わけがない・・・・・・っと思う。

俺は桃香を傷つけないようにヤツの体当たりをかわしながら、龍神に怒鳴り付けた。


「龍神、おまえはバカ野郎かッ? 神様のくせに悪人の命令を聞くんじゃねぇ!」

「そげな事を言われても、ワシの意志じゃないんで、ワシはあやつられとるんじゃ!」


「ギ~ゲゲゲ、わしは逆鱗が無くても大蛇おろちを操れるよう、特殊な術を掛けておったのじゃ! わしは歴代当主の中で一番の切れ者なんじゃ! ゲゲゲ~ッ」

「おい、龍神! その術に心当たりはないかッ。何かく方法があるはずだ!」


「そげな事を言われても、ワシはその術ちゅうもんがよう分からんし・・・でも何か糸に5円玉をぶら下げて、目の前でブラブラされた事があったのう」

「・・・ド阿呆あほう! それは術ではなくて、ただの催眠術だろ!・・・あれ? 術だ。とにかく! そんな催眠術入門編に負けるな!」


「た、助けてくれ~ッ、ワシが紋ちゃんを喰おうとしとる! 誰かワシをめてくれ!」


俺は龍神の攻撃をかわしながら、霧瘴むしょうに触れたらしく足がえらい事になっている。

しかも、風がんだ所為せいで、まわりを霧瘴むしょうに囲まれている。


龍神は術にあらがうように、空中でうねうねしている。

春之助らしきゲロゲロは、少しずつ近づいてくる。


う~ん、紋次郎絶体絶命!


どうする? 崖から飛び降りるか? ダメだ、それをすれば絶対に死ぬ。

ゲロゲロを蹴り飛ばして、活路を見出す・・・それしかない気がする。

でも、俺の足は何も感覚がない・・・そんな気もする。


そんな、無茶な行動をしようとする俺に対し、意外な救世主がやって来た。


「紋次郎、何をやっておる。おぬしは本当に困ったヤツじゃのぅ。まぁよい、この場はわれに任せておけ。退けッ! 邪悪な者よ! われの威光にひれ伏すがよい」

「えっ? あまちゃんさん? えっ! どういう事なの? あなたはいったい何者ですか?」


あまちゃんは俺の問い掛けに答えない。

手を前に出し何かをつぶやくと、大きな結界のようなモノが張られて、龍神とゲロゲロは中に閉じ込められた。

すると、俺のまわりから黒い霧瘴むしょうが消え失せた。


「紋ちゃんおぬしの足が心配じゃ、ここは一旦引くぞ。われについて来い」

「へっ? はい、わかりました」


俺は自分の足より桃香の方が心配だったので、何も考えずに急いであまちゃんのあとを追いかけ、着いた先は俺の家だった。

しかし、中に入ろうと玄関をけたところで、あまちゃんに怒られた。


「紋ちゃんおぬしはまだ入るでない! まずはみそぎが終ってからじゃ」


俺は背中から桃香を降ろし、迎えに出て来た桜子に寝かせてやるように頼む。

桃香は目を閉じたまま、意識があるのかわからない。


そもそもみそぎってなんの事だ? 何かの儀式か? 俺にその必要があるのか? 疑問はいろいろあるが何時いつものようにバカにされると思い、あまちゃんには聞けない。

そこにバケツが宙に浮き滝の方からやって来た。


絶対に桃代だ。

アイツが例の包帯を全身に巻き、姿を消しているのに違いない。

そのうしろには、あまちゃんの従者も二人いて、バケツを手にしてやって来る。

バケツには、水がなみなみ入っているように見える。


桃代はそのまま宙に浮き、俺の頭の上から水をぶっかける。

自分の水をかけ終わると、更に従者からバケツを受け取りそれも順番にぶっかける。


なにコレ? どうして俺は水をかけられてるの? これがみそぎなの? そんなことを思っていると、興奮状態がめた所為せいかトンデモない痛みが俺を襲い始めた。


「いッ、痛~~! 痛い、痛い! 桃代、おまえは何をかけた!」

「何って、川から汲んで来たお水だよ。それより紋ちゃん! また無茶をしたんでしょう! そんなに怪我をして」


「モモよ、言うてやるな。こやつは、なかなか頑張っておったぞ。馬鹿じゃったけどな」

「紋ちゃんはお礼を言いなさい。てんちゃんが助けてくれなかったら大変な事になっていたわよ」


「あ、そうな、あまちゃんさん、どうもありがとうございました。それではみそぎは終ったみたいなので、俺は失礼しますね・・・桃代、おまえにはあとで話がある」

われも、紋ちゃんおぬしに話がある。中で待たせてもらうぞ」


あまちゃんが何か言っているようだが、俺は桃香が心配だったので、あとは桃代に任せて中に入る。


桜子に桃香が何処どこに居るのか聞くと【俺の部屋に布団を敷いて寝かせている】そう教えられ、急いで自分の部屋に行こうとする。


しかし、血だらけで濡れたシャツと焼け焦げたようなデニムを桜子に指摘され、着替える為に先に脱衣所へ行かされた。

そこで、初めて霧瘴むしょうで足がただれている事や、龍神の攻撃で体が傷だらけな事に気が付いた。


痛みをこらえて急いで着替えると、俺は自分の部屋に行く。



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