第98話 バレバレ

遺影の取り外しが全て終ると、お焚き上げ供養のつもりで俺は全てに火をつけた。


ただ、桃代に見つからないように蘭子さんの遺影だけは、俺の部屋に隠しておいた。

桃代と蘭子さんとの確執かくしつは知らない。

だが、俺は蘭子さんに対して悪印象を持ってない。

この先も遺影を燃やした事で桃代が後悔しないよう、大きなお世話を焼いたと思っている。

そして、優しく接してくれた蘭子さんの遺影を、俺自身が燃やしたくなかった。


遺影を燃やし終わると居間に行き、これからの段取りを考える。

桃代が入れてくれたお茶を飲みながら、のんびりと今日の策を頭の中でなぞり始める。

そんな俺を見ていた桃代が、御神体の桃香と会う時間を聞いてきた。

俺は実演の時に話したように、夕焼けが見える時間という事で5時と答える。

そのうえで、付いて来ないように釘をさす。


実際は3時なのだが【これもおまえを思ってのこと、許せももよ】そんな痛い気持ちも隠している。

あとは不審に思われないよう、如何いかに時間前に出て行くか、それについてはもう考えてある。


今は昼だ、これから出ればいいのだ。

まずは買い物に行き必要な物を買い、一度帰ってきてあとで用意をして出て行く。

桃代と桜子、そして面の桃香にそう伝え、自分の部屋でリュックを背負うと玄関へ向かう。


桃代が付いて来ようとしたら【遺影を外した場所を掃除しろ】そう誤魔化すつもりでいた。

しかし、桃代は付いて来ようとはせず【早く帰って来てね】っと、言ったあと、笑顔で俺を見送ってくれた。


よしよし、上手くいったぜ。

まさか、俺がこんなに早く出るとは、桃代たちは予想してなかったはずだ。

危険な力を持つ御神体の桃香がいる場所に、来る必要は無い。


もちろん俺は死ぬつもりはないし、自分でなんとか出来ると思っている。

御神体の桃香は俺を殺さない。

そんな甘い考えも持っている。


一旦俺はくだり坂に向かい、買い物に行く振りをして桃代たちの目をあざむく。


坂をくだる途中で道なき山に分け入り、見つからないように今度はのぼる。

人の立ち入らない山の中は、歩く度に腐葉土の匂いがする。

ヘビに遭わないよう、ヘビに遭っても声を出さないよう、手で口を押さえ黙々と山をのぼっている。


その内、したの方に母屋の屋根が見えたので、俺は何時いつもの道に出る。

ふふふ、ここまで来ればもう大丈夫だ。

あとは、御神体の桃香だけに集中しよう。


その頃、家の中では、桃代と桜子そして面の桃香が居間で話をしていたようだ。


「紋次郎君、買い物って言ってましたけど、あれは絶対に御神体の桃香様のところに行きましたよね。どう考えても約束の時間は3時くらいですよね」

「そうね、非常にわかりやすかったわね。5時はわたし達へのくらまし。じゃあ、わたしも用意をして来るわ」


「紋次郎君って、あれで上手く誤魔化せたと思ってるんですかね?」

「もんちゃんは桃代とさくらを危険な目に遭わせたくないのでしょうね。でもあれで誤魔化せると思っている、もんちゃんの発想は危険よね」


「紋次郎君は単純だからなぁ。声に出さなくても、考えてる事を身振り手振りで確認していたら、気付かれると思わないんでしょうか?」

「あの子は本当に、隠し事が下手よね。千年前と何も変わってない」


「あとは千年前と同じにならないように、桃代姉さんに任すしかないですね」

「そうね、桃代にはわたしと同じ思いをして欲しくない。でもそれ以上に、もんちゃんには今度こそ長生きをしてもらいたいわ」


「お待たせしました。用意が出来ました。桃香様、紋ちゃんの事はお任せください。わたしがトコトン長生きをさせます。死んだあとも生き返れるように、ミイラにして身体からだを残しておきますから」

「あのね桃代、もんちゃんの嫌がる事はしないでね。あの子は我慢して耐える子だからね」


「大丈夫です。幼い時と比べて、ずいぶんと自己主張が出来るようになりましたから、そう簡単に、わたしの言いなりにはならないですよ」


その頃の俺は、桃代たちが気付いているとは思ってない。

早目に頂上に着くと、御神体の桃香が来るのを待っている。


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